この記事では独立系財務・会計コンサルティングファームにはどのような会社があるのか、その種類と分類を「運営形態」と「携わっている業務領域」の二つの切り口でお伝えします。
執筆いただいたのは大手監査法人、準大手監査法人での勤務経験を経て、現在は独立系財務・会計コンサルティングファームを経営し、幅広い業務を提供している公認会計士です。
■独立系財務・会計コンサルティングファームとは
公認会計士が財務・会計コンサルティングファームへの転職を考えたとき、次のようなファームがその選択肢にあがってきます。
これらの財務・会計コンサルティングファームのうち①~③に分類されるような会社の求人や採用数は比較的多いため、情報も入手しやすいでしょう。
一方④の「その他の独立系財務・会計コンサルティングファーム」については、様々な規模や業務内容、組織体制の会社があり、その実態は一言で説明しづらいものとなっています。
「④その他の独立系財務・会計コンサルティングファーム」について明確な定義や区分があるわけではありません。本稿では「運営体制」および、「携わっている業務領域」といった二つの観点(下図参照)で考えていきます(これ以降は、「独立系財務・会計コンサルティングファーム」と記載します)。
「独立系財務・会計コンサルティングファーム」の種類と業務内容に関する理解を深めることで、就職や転職時の候補先企業に関する判断の一助となれば幸いです。
■独立系財務・会計コンサルティングファームの「運営体制」による区分
独立系財務・会計コンサルティングファームはその運営体制により、大まかには以下のように区分することができるかと思います。こちらを順にご説明します。
(1)所属する従業員等の多くが公認会計士等の有資格者であるファーム
「所属する従業員等の多くが公認会計士等の有資格者であるファーム」では、所属している公認会計士等が案件ごとにチームを編成することで、各人がコンサルタントとして直接業務に従事します。
組織の中では、経験や能力に応じてスタッフ業務からマネジメント業務まで幅広く公認会計士としての能力、業務遂行が期待されます。
(2)所属する従業員数の多くが公認会計士以外の従業員であるファーム
「所属する従業員数の多くが公認会計士以外の従業員であるファーム」では、公認会計士以外の従業員が中心となり会社を組織しているため、個々の案件の実務対応は公認会計士以外の従業員が担うことが多くあります。
そのような組織の中では、公認会計士に対しては主にプロジェクトマネージャーとして他のスタッフをコントロールし、プロジェクトを完了させることが役割として期待されます。
(3)自社が業務の1次受けとなり、複数の独立開業した公認会計士等に業務委託することで業務を遂行するファーム
「自社が業務の1次受けとなり、複数の独立開業した公認会計士等に業務委託することで業務を遂行するファーム」では、所属する公認会計士が中心となって営業活動や業務の受注、フロント業務等を行うものの、実際の業務遂行にあたっては独立開業している公認会計士等に対して業務委託することにより、個々の案件単位でチームを組成していることがあります。
そのような組織の中では、所属する公認会計士に対してクライアントコミュニケーション、業務委託先の管理、品質管理、プロジェクトマネージャーとしての役割が期待されます。
(4)複数の会計士が共同で設立している会社であるが、実質的にはそれぞれの公認会計士が独立採算であるファーム
会社形態としては一つの法人格となっていますが、実質的には所属している公認会計士がそれぞれ独立採算制で運営されているファームがあります。このようなファームにおいては、それぞれの公認会計士が営業活動を行い、個人で業務遂行する場合や、メンバーと共同で業務遂行する場合等があります。
基本的には、個々の公認会計士の裁量により求人募集・採用がされることが多く、自身も営業活動をしながら他の会計士の業務に携わるといった働き方になる場合もあります。
■独立系財務・会計コンサルティングファームの「業務領域」による区分
独立系財務・会計コンサルティングファームは、その事業戦略、創業者の独立以前の経験や人脈等によってさまざまな事業領域の業務をカバーします。
それらの業務範囲を前述のような組織体制で業務遂行をしていくことから、転職時には自分自身、どのような業務領域が強みであるのかをきちんと把握することも重要ではないでしょうか。では業務領域について順に見ていきます。
(A)IPOアドバイザリーファーム
IPO領域に強いアドバイザリーファームです。
しかし一言にIPO業務といってもその業務内容は多岐にわたるとともに、業務内容によって求められるスキルや組織体制が異なるため、それぞれのファームが自社の特徴や戦略に合わせた業務を行っていることが多いと考えられます。転職時にはそのような観点で検討するのもよいかと思います。
独立系財務・会計コンサルティングファームが行っているIPO業務には例えば以下のようなものがあります。
- 資本政策の助言・立案
- IPO顧問業務
- 諸規程の作成及び整備支援
- 内部統制、その他内部管理体制の構築支援
- 制度会計への対応支援
- 上場申請書類の作成支援
(B)M&Aアドバイザリーファーム
M&A領域に強いアドバイザリーファームです。
しかし一言にM&A業務といってもその業務内容は多岐にわたるとともに、M&A取引の規模や依頼主のレベル等によって求められる業務内容や深度等が異なってきます。M&A業務の内容やそのレベル感は、独立系財務・会計コンサルティングファームにおいては特に主要メンバーの経歴や経験に大きく影響されることも多いため、転職時にはそのような観点で検討するのもよいかと思います。
独立系財務・会計コンサルティングファームが行っているM&A業務には例えば以下のようなものがあります。
- 財務デュー・デリジェンス業務
- バリュエーション業務
- FA(ファイナンシャル・アドバイザー)業務
- スキーム構築支援業務
(C)事業再生アドバイザリーファーム
事業再生に強いアドバイザリーファームです。
しかし一言に事業再生業務といってもその業務内容は多岐にわたるとともに、事業再生の方式等によって求められる業務内容も異なってきます。
また、事業再生業務において主に対応している事業再生方式は、独立系財務・会計コンサルティングファームにおいては特に主要メンバーの経歴や経験に基づく受注ルートに大きく影響されることも多いため、転職時にはそのような観点で検討するのもよいかと思います。
独立系財務・会計コンサルティングファームが行っている事業再生業務には例えば以下のようなものがあります。
- 法的再生手続に関する業務(財産評定、財務調査、再生計画策定・検証、モニタリング、監督委員補助者等)
- 私的再生手続きに関する業務(財務調査、再生計画策定・検証、モニタリング等)
- 金融債権者との交渉等に関するアドバイザー
- 再生計画の実行支援
- FA(ファイナンシャル・アドバイザー)業務
- スキーム構築支援業務
(D)不祥事対応特化型アドバイザリーファーム
不正調査等の不祥事対応業務に強いアドバイザリーファームです。
近年、企業不祥事等に対して第三者委員会や外部調査委員会等の特別な組織を立ち上げ事実関係の調査や原因、再発防止の提言等が行われることが増えています。特に会計不正については、調査の結果として過年度の財務諸表の訂正が必要となることもあります。
また、上場会社の場合には多岐にわたる関係者との調整も必要になってきます。こういった背景の中で、不祥事対応に特化しノウハウを蓄積しているファームがあります。
独立系財務・会計コンサルティングファームが行っている不祥事対応業務には、例えば以下のようなものがあります。
- 第三者委員会等の調査委員
- 第三者委員会等の調査委員補助業務
- 調査対象会社における調査対応支援業務
- デジタル・フォレンジック業務
- 決算訂正対応業務
- 再発防止策支援業務
(E)特定業種・業務領域特化型のアドバイザリーファーム
上記(A)から(D)以外にも、その他の特定業種や特定の業務に特化したアドバイザリーファームです。
具体的な業務領域を例示すると多岐にわたり、すべてをお示しすることは難しいですが、一例を挙げると以下の様な業務があります。
- 海外進出支援業務
- IFRS導入支援業務
- 新会計基準導入支援業務
- 事業承継対策業務
- 医療法人、社会福祉法人、学校法人、公益法人等のパブリック関連業務
(F)アウトソース特化型のアドバイザリーファーム
アウトソース業務に強いアドバイザリーファームです。
顧客となる企業の内部管理業務等の外部委託を受け、業務を提供します。アウトソースされる業務の範囲は、経理業務や決算開示業務、内部監査業務等様々です。
また、一定期間クライアントに常駐するような業務もあれば、月に一定の日数必要に応じて訪問や遠隔で作業を行うような形もあります。
(G)総合型アドバイザリーファーム
特定の業務領域に限定されず、上記(A)から(F)に掲げる複数の業務をその業務領域としてサービス提供しているアドバイザリーファームです。
多くの、独立系財務・会計コンサルティングファームがこの形態をとり、特定業務だけではなく複数の業務領域をサービスとして掲げていると思います。
ただし、会社案内やホームページでサービス内容として記載している内容と、実際にどの程度の比重で業務を行っているのかは必ずしも一致しないため、転職を検討される際には、上記の区分にしたがってどのような業務が中心であるのかを確認されると良いかと思います。
■独立系財務・会計コンサルティングファームへの転職を考えるにあたって
独立系財務・会計コンサルティングファームへの転職を考えたとき、上述のように、その会社の「運営体制」×「業務領域」で検討することは、非常に有用であると思います。
例えば、わたしが経営するコンサルティングファームでは、(1)「所属する従業員等の多くが公認会計士等の有資格者であるファーム」×(G)「総合型アドバイザリーファーム」という形をとっており、主たる業務領域はM&A関連業務やIPO支援業務としながらも、所属する公認会計士がそれぞれを尊重しあった仲間として様々な業務に携わり経験を積んでいます。
独立系財務・会計コンサルティングファームと一言でいっても様々な運営体制、業務領域で活動しており、就職前に実際の業務内容のイメージがつきづらいことも多いかと思います。
本稿を参考に転職時に実際の業務内容を把握することで、ご自身のキャリア形成の一助となれば幸いです。