なお、本稿で触れる業務の種類や組織の種類等は私の実務経験の中での理解に基づくものであり、必ずしもこのような分類に当てはまらず、本稿で触れたパターン以外のアドバイザリーファームも存在する可能性があることにご留意ください。
■1.事業再生アドバイザリーファームの運営体制の観点で見た分類
独立系財務・会計コンサルティングファームの組織運営体制としては、以下のようなケースが考えられます。
(A)個人会計士として関与
個人の独立した会計士が単独で事業再生アドバイザリー業務を行います。
個人の経験や知識により大きくサービス内容は異なるものの、得意領域に合致した際には深い専門性と機動力が発揮されるのが特徴です。事業再生の局面では、管理部門の人員も十分でないことも多く、実質的なCFO機能を担うこともあります。
(B)税理士事務所として関与
税理士事務所は、税務顧問として長期間にわたって継続的に会計・財務・税務等を中心として関与します。
そのような関係であるため、顧問先が窮境に陥った際にはいち早く状況を察知できることも多く、事業再生アドバイザリー業務に関与することもあります。顧問契約を通して長い期間かけて会社の財務に関わってきたことに強みを持つことが特徴です。
(C)公認会計士がプロジェクトマネージャーとして関与し、チームで業務遂行
ファーム内の公認会計士が事業再生アドバイザリー業務のプロジェクトマネージャーとして関与して進捗管理、様々な課題への対応等を行っていきます。
業務を遂行するチームは有資格者以外も参画して作業を進めていくのが特徴です。
(D)組織外の公認会計士を業務委託により集めてプロジェクト対応
受注したプロジェクト単位で独立開業している公認会計士や、登録している公認会計士等から対応可能なチームを組成して業務遂行します。
受注元は、クライアントコミュニケーションやプロジェクト管理といった管理業務を中心に行い、作業は外部の公認会計士に分担することがみられます。
(E)公認会計士や中小企業診断士等の経営コンサルタントが対応
経営コンサルティング業務を中心に行っている公認会計士や中小企業診断士等の有資格者、その他の経営コンサルタントが会計・財務・税務領域以外の業務領域を中心にサービス提供をしている会社が、事業再生アドバイザリー業務を行うこともあります。
会計・財務・税務以外の観点から事業再生に取り組むことを強みとしているのが特徴です。
■2.事業再生アドバイザリー業務の種類ごとに親和性のある事業再生アドバイザリーファーム
上述のように事業再生アドバイザリーファームと一括りにしても、その組織体制・運営体制は様々です。そのため、諸種ある事業再生アドバイザリー業務を行う上で、業務種類と運営体制の親和性が異なってきます。
以下では、事業再生アドバイザリーファームが行う事業再生アドバイザリー業務の種類を説明していきたいと思いますが、その前提としてまず事業再生の概要について簡単に触れていきます。
まず、再生手続は下記の2つに分類することができます。
- 裁判所の下で法的手続を経て債権者と債務者の債権債務関係を調整・処理していく「法的整理」
- 裁判外で法的手続きを経ずに債権者と債務者の債権債務関係を調整・処理していく「私的整理」
さらに、「法的整理」は根拠となる法令によって、下記に細分化されます。
- 民事再生手続(民事再生法)
- 会社更生(会社更生法)
- 特定調停(特定債務等の調整促進のための特定調停に関する法律)
- 破産手続(破産法)
- 特別清算(会社法)
「私的整理」は上記の法的整理によることなく進めていく再生手続の総称となります。
また下記のように一定の手続準則を示した機関の関与の下で行う場合と、そのような機関の関与なく債権者と債務者の間の協議により手続きを進めていく場合があります。
- 中小企業再生支援協議会による再生計画策定支援(支援協議会スキーム)
- 整理回収機構(RCC)による企業再生業務
- 事業再生実務家協会による特定認証ADR手続(事業再生ADR)
- 地域経済活性化支援機構(REVIC)による事業再生支援
- 私的整理に関するガイドラインや特定調停等
また、どのような再生手続によるかで、若干の差異はあるものの、事業再生手続においては、金融支援として債務免除、条件変更(金利や返済スケジュール等)を求めていくことになります。
以上を踏まえ、事業再生アドバイザリーファームが提供する『アドバイザリー業務の種類』(1)~(5)と、その種類ごとに一般的に業務遂行に適していると考えられる『アドバイザリーファームの種類(運営体制)』(上記(A)~(E)について以下の通り整理してみます。
(1)事業計画立案、実行、モニタリング支援業務 → 親和性あり(A)、(B)、(C)、(D)
事業再生の対象となる会社の窮境要因を分析し、再生を果たすための計画の立案を支援します。当該計画の実行により会社経営の改善を図っていきます。
また、事業再生においては、再生計画の内容によって金融支援(条件変更や債務免除等)が行われることも多く、金融支援を受けるとともに、その後の実行を確実にし、モニタリングを求められることも少なくありません。
このような業務は、実際の実務経験や能力によって内容や業務遂行方法によって差はあるものの、再生業務にかかわる多くのプレーヤーが業務範囲に含めている業務となります。
(2)収益改善コンサル業務→親和性あり(E)
上記(1)の再生計画の立案にも関連しますが、会社が窮境状態を脱し再生を果たす方法としては、収益改善をその柱とすることがあります。
収益改善計画を、個人の公認会計士や会計事務所が支援することもありますが、業務領域としては経営コンサルティングの領域に近いため、そのような支援を主たる業務として日常的に行っている「公認会計士や中小企業診断士等の経営コンサルタント」がより親和性が高いと考えられます。
(3)費用削減・資産圧縮コンサル業務→親和性あり(A)、(B)、(C)、(D)
上記(1)の再生計画の立案にも関連しますが、会社が窮境状態を脱し再生を果たす方法としては(2)の収益改善の他、費用の削減や資産の処分を中心とする場合があります。
この場合には、会計帳簿の分析を行える公認会計士や税理士の親和性が高くなりがちな業務となります。
(4)法的再生における申立代理人補助業務→親和性あり(A)、(C)、(D)
民事再生法、会社更生法や破産などの法的整理に至った場合、申立代理人等からの依頼に基づき、独立した第三者として財務デューデリジェンスの実施や財産評定、破産配当率の計算等、法的ルールに則った形で再生手続きを遂行する必要があります。
財産評定の結果は、再生計画とリンクしてくるため、法的再生の一連のプロセスに関して知見のある「個人会計士」や「公認会計士がプロジェクトマネージャーとして関与し、チームで業務遂行」するファーム、「組織外の公認会計士を業務委託により集めてプロジェクト対応」する形での体制がより親和性が高いと考えられます。
(5)法的再生における監督委員補助業務→親和性あり(A)、(B)、(C)、(D)
法的再生手続においては、裁判所が監督委員等を任命し、監督委員は再生法手続が適正に進められるよう、再生債務者から業務執行や再生手続について報告を受けたり、再生債務者が重要な行為を行う際に同意を与えたりします。
監督委員は通常、弁護士が選任されますが、その補助者として公認会計士や税理士が会計・税務の専門家として意見を述べたりします。
補助者は、個人として選任されるので、「個人会計士」や「公認会計士がプロジェクトマネージャーとして関与し、チームで業務遂行」するファームに所属する公認会計士等がより親和性が高いと言えるのではないでしょうか。
■3.事業再生アドバイザリー業務を行う独立系財務・会計コンサルティングファーム転職時の留意点及びキャリアパス
事業再生アドバイザリー業務を行う独立系財務・会計コンサルティングファームへの転職を検討している場合には、まず自身が経験を積みたい事業再生業務を明確に決める必要があります。
特に私的再生業務を中心としているファームと、法的再生業務を中心としているファームでは、組織に蓄積されているノウハウや知見は異なるものであると考えたほうが良いでしょう。
また近年、再生業務自体が全体としては過去に比べて減っている傾向にあるため、再生業務を看板に掲げているファームでも実際には、再生業務をほぼ行っていない場合や、再生業務を受注することが稀であることもあります。
そのため、会社案内やWEB等の記載を鵜呑みにしないことが肝要となります。
転職先がどのような業務領域をどのような業務運営体制で行っているのか直接確認し、また直近における実際の再生業務の受注状況や入社した場合に関与することが想定される業務等を確認しましょう。
さらに、自身がその会社で実際に事業再生アドバイザリー業務に携わるイメージと一致するかという視点で検討することが重要です。これらの事情に詳しい転職エージェントに相談するのも一つでしょう。
また、事業再生アドバイザリーファームでの経験を活かしたキャリア形成は、例えば以下に掲げるようなものがあります。
- 独立開業し事業再生アドバイザリー業務を行う
- 再生で関与した会社にCFO等として入社し、会社の立て直しを中心となって行う
- 比較的小規模なファームも多くあるため、その中で幹部として活躍していく
いずれのキャリアを積むにしても、特に事業再生アドバイザリー業務は、未経験のまま業務遂行するにはハードルが比較的高い業務領域になるため、事業再生アドバイザリーファームでの実務経験がその後のキャリアに大きく影響してきます。
具体的なキャリアを転職の時点で確定させることは難しいと思いますが、自分が関わりたい事業再生業務の方向性を明らかにし、その業務を実際に継続的・反復的に受注できているかという観点で、転職先選択をするのが良いかと思います。