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「NPO法人CFO」の業務内容、仕事の魅力は?

この記事ではNPO法人でCFOとしての勤務経験を持つ会計士に、この業務の具体的な内容や仕事のやりがいを語っていただきました。

ソーシャルセクターのCFOというまだ数少ないポストではありますが、貴重なお話をお伺いできましたのでぜひ参考になさってください。

■必要とされる志向性

社会課題に興味・関心・共感を寄せられる人が向いていると思います。

わたしをNPOの世界に導いてくれた公認会計士の先輩からは、「社会課題は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ!」という言葉をいただきました。

NPO法人CFOを担う上で、卓上の財務数値を見ているだけではなく、社会課題で苦しんでいる当事者やその社会課題を解決するために心血を注いでいるスタッフの方々の顔を思い浮かべられるかが、ものすごく大事になってきます。

また、柔軟性や挑戦意欲がある人も向いていると思います。

NPO法人CFOとしての役割も、ソーシャルビジネスというビジネス形態もまだ確立したものではありません。NPO法人やソーシャルビジネスに関わったことある公認会計士は、まだまだ少ないです。そのような先人が少ない中で、自分なりのNPO法人CFO像を創っていくことが必要となってきます。

日々自分自身を見つめ直し、NPO法人を、社会をより良くしていくためには、どのように行動すればいいのかをゼロベースで考えられる人にとっては、成長できる役割といえます。

■「NPO法人CFO」の業務内容

NPO法人CFOというと、業務内容がイメージしにくいかと思いますが、基本的には営利企業のCFOや管理部長の役割とそこまで変わりません。

ただし、営利企業ではあまり重要視されない「社会性」を考えたり、NPO法人としての基準を満たしながら運営したりする必要があるところが、営利企業CFOや管理部長とは異なる部分になります。

(1)法人経営

経営陣の一角として法人経営に参画しますが、特に会計財務の面で担う役割は大きいです。

NPO法人が行うソーシャルビジネスは社会課題解決を目的としているため、社会課題を解決できる事業か否か(=社会性)、事業が財務的に成り立っているか(=経済性)の両面のバランスを取りながら経営することが非常に大切です。

NPO法人の経営陣・スタッフは、「社会課題を解決してより良い社会にしてきたい」という熱い想いを持っています。それは本当に素敵なことなのですが、熱い想いがあるが故に、時に冷静な視点が足りていないこともあります。

NPO法人CFOとしては、社会課題の現場のリアルを想像しつつも、感情に流されない冷静な視点で法人経営に携わることが必要です。

例えば、経営会議でソーシャルビジネスの新規事業の提案が代表や事業部から上がってきたときに、①財務的に成り立っているか、②社会課題解決に資する事業か、③法人のビジョンに照らしてやるべき事業なのか否か、④今やるべき事業なのか、などの視点で事業計画を見て、フィードバック・意思決定をします。

このようにNPO法人CFOは、常に社会性と経済性の両方の視点も持ちながら、法人経営に携わります。

(2)経理財務チームを含むバックオフィス部門のマネジメント

経営会議などの法人経営以外の時間は、主に経理財務チームを含むバックオフィス部門のマネジメントを行います。わたしの場合は、経理財務・法務・総務・システムのチームのディレクター(=執行役員)として関わっており、日々チームの意思決定をしたり相談に乗ったりしておりました。

この中で、特に重点を置いていたことは、①NPO法人としてのリスクマネジメント、②理事会運営でした。

① NPO法人としてのリスクマネジメント

NPO法人は寄付金や補助金をいただきながら運営することが多いです。

寄付金や補助金というのは社会からお金を預かっているということですので、企業における株主が「社会」ということになります。そのためNPO法人は、社会への説明責任を果たす必要があります。

社会への説明責任を果たすために必要なのが、NPO法人として適切な運営をすることになります。わたしがCFOをしていたフローレンスは、NPO法人の中でも厳しい基準で認定を受けた認定NPOでしたので、適切な運営をすることがさらに重要でした。

具体的には、認定NPOの基準から逸脱しないように法人内で情報収集を行ったり、新たな取り組みをする際に認定NPOの基準を満たすためにはどうすればいいかの相談に乗ったり、時には弁護士や税理士という外部の専門家ともコミュニケーションを取って法人としてのスタンスを固めるということを行っていました。

社会課題解決のために機動的な動きをしつつ、社会のお金を活かすために認定NPOの基準を満たすという絶妙なバランス感覚が必要でしたが、これはNPO法人CFOとして重要なミッションです。

② 理事会運営

NPO法人には株式会社でいう取締役・監査役に相当する、理事・監事という役員がいます。その理事・監事で構成する会議体が理事会なのですが、わたしがいたフローレンスの場合は、役員の2/3以上を社外役員としていましたので、理事会はアドバイザリーボードの意味合いがありました。

理事・監事には、経営者や学者など著名な有識者の方々が就任されていたので、3カ月に1度開催する理事会は、法人経営上のアドバイスをいただけるこの上ない機会です。この機会をより良いものとするために、日々の事業進捗を理事・監事にシェアすることや理事会で話し合うべきアジェンダを社内で取りまとめるということを行っておりました。

理事会では、主に法人経営の現状の課題感や数年後を見据えた計画について、外部理事からフィードバックいただいていました。より良い法人経営をするために、外部の目線を入れるのはとても重要なので、その機会を創っていくこともNPO法人CFOとして必要なことです。

(3)わたしの場合

わたしがCFOを務めていたフローレンスは、2022年現在で従業員約700名、収益は約40億円のNPO法人で、規模としては大企業に分類されるほどのNPO法人になります。

以前から、子どもの社会課題に興味関心があり、別のNPO法人で数年間プロボノ(※)をしておりました。ご縁をいただきフローレンスのCFOに就任しましたが、最初の頃はわからないことだらけ。初めての法人経営やマネジメントする立場、監査法人や会計事務所で培ってきたものが通用しない部分など、たくさんの苦労がありました。

しかし、同僚にしっかりサポートしてもらい、また今までの自分の常識を捨て、価値観をアップデートしていく中で、自分の能力やスキルの活かし方がわかってきて、なんとかCFOとしての役割を果たすことができるようになっていきました。

振り返ると足りないことばかりでしたが、人生の中でとても貴重な数年間となりました。

※プロボノとは:
各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動全般。または、それに参加する専門家自身。

■「NPO法人CFO」の業務のやりがいやメリットは?

社会を良くしていく最前線に関われているという充実感があります。

手前味噌ではありますが、わたしがいたフローレンスは、多くの社会課題解決を実践してきており、その成果から度々ニュースや新聞記事でも取り上げられていました。

このような社会的な注目度の高い法人の経営の一角を担っているというのは、何よりのやりがいです。

また、NPO法人のスタッフは、社会をより良くしたいという熱い想いを持った「良い人」が本当に多いので、普通に仕事をしているだけでも、豊かな気持ちになります。

良い人と共に仕事ができる、その良い人たちにバックオフィス部門の長として貢献できるというのもやりがいの一つです。

■「NPO法人CFO」に求められるスキル、人材

ニーズ自体がまだまだ潜在的なものなので、ニーズがあるNPO法人と個別にすり合わせになる部分が多いと思います。

わたしの場合ですと、特に監査で磨かれた「なぜ?」を考えるスキルは、CFOの役割を果たす上でもとても役に立ちました。

組織を経営する中で、「なぜこの事業はうまくいっていないのか、なぜこのマネジメント上の課題が生じたのか、なぜこの社会課題が生まれるのか」など、様々な課題が生じます。

「なぜ?」を考えることで、課題の解像度が上がり、課題の解決により早く近づけることができました。

■「NPO法人CFO」の年収はどのくらい?

NPO業界の年収はまだそこまで高くないです。

ただし、SDGsでソーシャルビジネスやNPO法人への注目度も高まってきていますので、今後年収は上昇していくのではないかと考えています。現にNPO法人の中でも1000万プレイヤーがいるのを知っているので、可能性は十分あります。

しっかり稼いで、社会もより良くしてくという風潮がもっと広まればいいなと思っています。

■「NPO法人CFO」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?

NPO法人に関わる公認会計士がまだ少ないため、人にはできない様々な経験をすることができます。特にソーシャルビジネスを実践している組織の経営やマネジメントに、CFOとして携われるというのは、代えがたい経験になります。

わたし個人の話にはなりますが、フローレンスでの経験を買っていただき、現在プライム市場上場企業の社外監査役を務めています。これは、SDGsが注目を集めていることをはじめとして、企業としても社会性や社会課題解決を重視してきていることの現れだと思っております。

NPO法人CFOを通じて、社会性と経済性の両立やソーシャルビジネスの関与経験を増やすことで、NPO法人だけではなく企業でも活躍できるフィールドが今後増していくと考えています。

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