公認会計士が独立・開業前に知っておくべきポイント解説

独立を検討している公認会計士の皆さんは、どんなことを考えて独立するのでしょうか?事前の準備に、成功する人と失敗する人の違いはあるのかも知れません。
独立し成功する公認会計士の方の特徴と、独立の前に確認しておくべきポイントを大手監査法人出身で、現在は独立開業をしている公認会計士がご紹介します。また、「公認会計士のための独立開業 適正チェックリスト10」を収録しています。
1.独立する公認会計士の志向性
(1)どんなキャリアを積んできた人が独立をするのか
わたしも一人の公認会計士にすぎないので、全ての独立開業の例を知っているわけではありません。
ただ、私は(ア)公認会計士世田谷会*1(イ)公認会計士清風会*2に所属しており、(ア)では現在は幹事をし、(イ)では43代目の代表世話人を歴任した経験があります。そのため、一般の公認会計士よりは独立した公認会計士を多く目にしているでしょう。その経験談からお話したいと思います。
これらの会合等でお目にかかる独立したての方はIPO準備業務に従事していたとか、いったん税理士事務所に転職し、十分に税務の経験を得た上で独立したという方が比較的多いと思います。裏を返すと「監査法人内で監査一筋」という方はあまり聞きません。
なので、将来の独立をお考えの方は、「何がしかの形で監査以外の業務経験を積む必要がある」といえるのではないでしょうか。
具体的には、35歳程度以下の公認会計士であれば、まだ転職という選択肢も残っているので、下記のことを意識すべきでしょう。
- ①もし今独立するなら、独立に向いている監査以外の絶対的な得意分野があるかの確認
- ②ファーム内の税務部門を含めた監査法人内での「自分の志向する部署」への異動願を出す
- ③監査法人内での出向制度があり、出向先の業務に興味があるならば、出向希望を検討
- ④将来の独立を見据えて、例えば税務が希望なら税理士事務所、コンサル事業が希望ならコンサルティングファーム等への転職
ちなみに、あまり監査以外の経験が豊富ではなかったケースかもしれませんが、「独立はしたものの結局はうまく行かず、頭を下げて事務所を畳みどこかに再就職させてもらった…」などという独立失敗ともいえる話もたまに耳にします。
また、これは個人的意見ですが、独立とは名ばかりで監査法人の監査のアルバイトばかりしている方もおられます。それだったら何のために独立したのだろうか…と思ってしまうのも正直なところです。
わたしの場合は、他資格が絡むのでやや特殊なケースではありますが、「会計・税務に絡む公認会計士・税理士の気持ちや背景を理解した不動産鑑定士としての鑑定業務」を専門にしています。このように「監査以外の何らかの特徴」があるのか、ないのであれば「どのようにそれを身に着けるのか」を考えて行動することが必要ではないでしょうか。
(2)成功するために必要な準備
①監査法人時代のキャリア
前述の通り、監査法人内でも「監査以外の業務」を経験することが重要でしょう。もちろん、監査法人内での業務の状況にもよりますが、たまにイレギュラーな業務が入ってきたりします。そのような「通常業務以外の業務」の募集のようなものがあれば積極的に手を挙げるというのはアリだと思います。
②得意分野(専門性)
ご自分が積んできた実務経験と、「自分が何をしたいのか」を考えて決定すべきでしょう。ただし、中には独立しないと経験しにくい仕事もあります。わたしは経験がないので詳しくはないですが、例えば企業の監査役は、組織内の公認会計士にはなかなかなりにくいのではないでしょうか。
独立しないと経験しにくい仕事を希望する場合は、既にそのような仕事をしている公認会計士と何らかの会合で知り合い「困った時にいつでも相談できる」体制をつくることが必要です。
また、その人のしたい内容によっては、知識習得のために公認会計士協会各地域会内の委員会に所属するのも有益です。不動産鑑定業務で相続税とよく絡むこともあり、東京会税務第二委員会で資産税の研究報告論文を書く機会があります。その過程で色々な気づきがあり、自分の不動産鑑定業務にも還元できています。そのような手もある点は覚えておくべきでしょう。
③営業力・人脈
独立して何をしたいかにもよりますが、引き籠っていては始まりません。しかし、無鉄砲に動いても意味がありません。
業務に直結しそうなターゲットを絞って、そこになにがしかのアポイントをとることが肝要です。その際に「一方的に自分に仕事をくれ」ではなく、「そのアポイント先に対し、他の公認会計士よりも、むしろ自分の方が貢献できること」を考えてから話を進めるべきでしょう。
あとは「こちらが必要としていないのに資金を出させようとする輩」「士業の肩書を悪用しようとする輩」にひっかからないようにすべきです。また、間違っても営業セミナーとかには行くべきではないでしょう。
④資金など
わたし個人の場合は、自分の性格自体が相当に倹約家の部類と自覚しており、基本的には必要最低限かつ十分な設備「のみ」で業務にあたっています。変に見栄を張って無駄な資金を消耗していないかは注意すべきでしょう。また、これはその人の考え方によりますが、人を雇うというのは個人的には慎重に考えた方がよいと思います。
あと、金融機関に「借金をすること」を提案する方もいますが、金利負担や返済できないリスクがあるので、よほどその金融機関から案件の紹介をしてもらえる確証がない限りは、すべきではないと思います。
2.独立開業するための具体的な準備と心がまえ
独立する際の心構えとしては、個人的には下記の準備が必要と思っています。
- 独立される方は、いずれ税理士登録する方が大半でしょう。ですので、仮に税務業務の経験が不十分な場合でも、国税の基本とも言える所得税の仕組みや、確定申告の制度について十分に情報収集し学習しておく。
- 独立最初の時点で年収がある程度減少しても大丈夫な程度の貯蓄をためておく。
- (監査法人内ではなく)公認会計士清風会等の公認会計士協会内の色々な会合で、様々な公認会計士と面識をつくっておき、多くの公認会計士から独立経験談を聞いておく。
- これから税理士登録をする場合は早期に税理士登録の申請を出す。なお、税理士登録は3カ月程度の時間がかかる。その際、公認会計士としてはどんなにキャリアがあっても税理士としてはヒヨコである点を肝に銘じることである。登録後も含め税理士関連の会合等においては、くれぐれも謙虚に行動すべきである。
3.まとめ(「公認会計士のための独立開業 適正チェックリスト10」)
あと、下記①~⑩に適合する項目の少ない人は、たぶん独立してもうまくいかないのではないか・・・と個人的に思っています。そのような方は独立を考え直した方がよいかもしれません。
「公認会計士のための独立開業 適正チェックリスト10」
- ①監査業務以外で絶対的な得意分野があるか
- ②逃げの独立ではなく、「何かしたいことがあっての独立」か
- ③専門としようとする分野に「好奇心」はあるか
- ④レスが早く、かつ、行動力もある人か
- ⑤言いたいことが言え、かつ、色々な発想や提案を柔軟にできる人か
- ⑥性格的にポジティブかつ前向きか
~常にネガティブかつ後向きな人に、お客様はつかないといっても過言ではない - ⑦「そこにいるだけで周囲にプラスの効果をもたらす」人柄か
- ⑧一方で、変に優しすぎないか
~自分の独占分野を人に渡さず、自分のものにし続ける「覇権を維持する強い精神力」と、お客様が超えてはいけない無理な一線を犯す要望をした場合に「絶対に無理なことを謝絶できる強い精神力」の双方が必要 - ⑨会ったこともないどこぞの有名経営者の話や会計・経済系の会話しかできない「会計バカ」ではないか
- ⑩上記⑨とも関連するが、例えばプロ野球観戦の話でもマラソンの話でも麻雀でも絵画でも音楽でも(ゴルフ以外)何でもよいが、趣味の分野でも得意分野があるか(ゴルフだけは、営業お付き合いの側面が強いためこの項からは除きます)
公認会計士の皆さまが、独立開業する際の何かの参考にしていただければと嬉しく思います。
(注1)公認会計士世田谷会
公認会計士東京会の下部組織で23区各区と多摩地区や東京会内の各県ごとにおかれる地区会の1つ。
(注2)公認会計士清風会
46年続く公認会計士協会内の独立系公認会計士で構成される私的な勉強会。毎年代表世話人が変わるため、過去46人の代表世話人がいる。その代表世話人の中から、日本公認会計士協会や日本公認会計士協会東京会の幹部を多く輩出している。


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