公認会計士試験はご存じの通り、合格するのが非常に難しい試験です。その難しい試験に合格すると、多くの方々は監査法人に所属するのではないかと思います。監査法人で働くにあたっては、どの部署に所属するか考えることになりますが、金融部門というのはなんとなく敷居が高そうなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、大手監査法人の金融部門での勤務経験を持つ会計士の方に、この業務の内容や仕事のやりがいを具体的にご紹介いただきました。
■必要とされる志向性
必要とされる志向性ですが、公認会計士として専門分野を身につけ、差別化できる武器を持ちたい方にとっては、非常に向いていると思います。 監査法人にはたくさんの公認会計士の方がいらっしゃいますが、その中でも「金融」というのは、難しいがゆえに差別化しやすい領域のひとつではないかと思います。
また、将来的にはたくさん稼ぎたい意欲溢れる方にも向いていると思います。
なお金融部門は業務内容が難しいので、高学歴であったり、数学や英語が得意でなければ入れないかというと、決してそんなことはないと思います。
最初から全部できるスーパーマンなんていません。地道に努力を重ねて力をつけていけば、誰にでも平等にステップアップできるチャンスはあると思いますので、この記事を読んで我こそはと思う方はぜひ目指してみてはいかがでしょうか。
■大手監査法人の金融部門の業務内容
大手監査法人の金融部門での主な業務内容については、監査法人である以上、金融業の監査が業務の中心となります。もちろん派生するアドバイザリー業務もありますが、ここでは監査業務について中心に触れていきたいと思います。
まず、金融業の監査が一般企業の監査と比べて大きく異なる点としては、以下のような点があるかと思います。
① 財務諸表に金融商品やデリバティブ、業種特有の勘定(保険業の責任準備金など)が載るため、そうした勘定への監査手続に注力する必要がある
② 子会社の数が比較的多いので、連結関連の手続に時間がかかる
③ 監督官庁である金融庁などが求める各種規制への厳格な対応が必要になってくるため、内部統制に対して注力すべき程度が一般企業より高い
金融業の監査業務については、クライアントの業態に応じて、大きく以下の3つに分かれることが一般的です。
① 銀行業
② 証券業・投資銀行業
③ 保険業
下記に各業態の代表的プレーヤーをリストアップしてみました。おそらくこうした企業名を見た方がピンと来るのではないでしょうか。
図表 業態ごとの代表的な監査クライアント例
国内 | 国外 | |
銀行業 | 三菱UFJ FG(トーマツ) 三井住友FG(あずさ) みずほFG(EY新日本) など |
JP Morgan Chase HSBC Bank of America Citi Group など |
証券業・投資銀行業 | 野村HD(EY新日本) 大和証券G(あずさ) など |
Goldman Sachs Morgan Stanley Barclays Capital など |
保険業 | 第一生命(あずさ) 日本生命(トーマツ) 東京海上HD(PwCあらた) SOMPO HD(EY新日本) など |
AXA Metlife Aflac など |
(1)銀行業
銀行業については、大きく国内系・海外系に分かれます。
国内の銀行については、さらにメガバンク系と地方銀行系、信託銀行系に分けられると思います。特にメガバンク系の監査の担当となると、規模も大きく、海外展開もしているケースもあるため、ほぼ1年中その銀行の監査に入り浸るイメージになるかと思います。
海外系の場合、主として海外に本店を持つ銀行の日本支店の監査に携わるケースが多いかと思います。海外系の銀行や国内メガバンク系の監査チームに所属すれば、金融知識だけでなく英語力も求められる場面もあります。
(2)証券業・投資銀行業
証券業・投資銀行業についても、大きく国内系・海外系に区分されると思います。
国内系については、リテールだけでなく自己勘定でも積極的に投資をしていく投資銀行に近いイメージの会社から、顧客向けのリテール専業のネット証券まで幅広く分かれます。また、アセット・マネジメント会社を系列に持つ会社も多いので、アセット・マネジメント会社の監査やファンドの監査に携わる方も一定数いらっしゃいます。
グローバルで展開するような投資銀行に近い会社の場合、メガバンク同様、ほぼ1年中その投資銀行の監査に入り浸るイメージになるかと思います。
海外系の場合は、銀行業の場合と同じになりますが、主として海外に本店を持つ投資銀行の日本支店の監査に携わるケースが多いかと思います。
海外系やグローバルで展開する国内系の投資銀行の監査チームに所属すれば、金融知識だけでなく英語力も求められる場面がある、というのも銀行業の場合と似ています。
(3)保険業
保険業についても国内系・海外系に区分されます。
保険業は財務諸表に出てくる勘定の名前(保険料・保険金・責任準備金など)が特徴的で、最初はそれに慣れるのに時間がかかるかもしれません。年金数理計算を行うアクチュアリーと呼ばれる専門家とも連携する機会もあるかもしれません。
英語については、銀行業や証券業と同様ですが、海外系や国内系のうちグローバル展開している会社においては求められる場面があるかと思います。
(4)わたしの場合
わたしは証券業・投資銀行業専属で、その中でも特に金融商品関連の監査手続を中心的に担当していました。究極的には、財務諸表に載っている金融商品の評価や関連する損益の金額が正しいかどうかを監査するわけですが、その前提として、金融機関の内部統制をきちんと理解する必要があります。
具体的には、株・債券・為替などの商品タイプごとに、トレーダーのいるフロント・オフィス、リスクマネジメントや損益管理を行うミドル・オフィス、約定や決済等のオペレーションを行うバック・オフィスの内部統制を理解し、そうしたフロントからバックまでの内部統制が有効である結果として金融商品に関連する財務諸表の金額の妥当性が担保されるわけです。
そういう意味では、証券会社や投資銀行のビジネスだったり、一般事業会社よりも厳しい基準の内部統制を一気通貫してみることができたのは非常に良かったと思います。
また監査法人のサポート体制は非常に充実していました。海外に語学研修にも行きましたし、自主的に受けた証券アナリスト試験関連の費用等も確か補助が出ていたのではないかと思います。
■「大手監査法人の金融部門」での業務のやりがいやメリットは?
やはり公認会計士として差別化しやすい“武器”を作りやすいところが最大のメリットではないかと思います。業務を通じて、「会計」だけではなく「金融」、場合によっては「英語」といった柱が作りやすい。
実際、わたし自身も海外勤務を経験させていただいたり、これまでに行ったことのなかった数多くの国にも出張させていただいたりしましたが、このような貴重な経験は人生の財産ですし、金融部門にいたからこそできたものではないかと思います。
■「大手監査法人の金融部門」の採用ニーズ
(1)求められるスキル、人材
金融部門で監査をするためには、やはり金融業や金融商品に対する知識は必要になってきます。実際、金融部門から他部門に行く方と比べて、他部門から金融部門に移ってくる方はかなり少ないと思います。
また先述の通り、英語ができた方が海外系や国内系でもグローバルに展開する金融機関の監査チームに行ける可能性が高まり、選択肢が広がりやすいと思います。実際、日本の会計士の方だけでなく、USCPAの方も数多く働かれています。
(2)採用されるポイント
採用されるには、まず何より意欲的であることでしょうか。
たとえば、上記の求められるスキルで金融の知識について書きましたが、働いた経験がないとなかなか得るのが難しい側面があるかもしれません。それでも例えば銀行系なら銀行業務検定試験、証券・投資銀行系なら証券アナリスト試験、保険系ならアクチュアリー試験などを通してある程度勉強することもできます。
英語についても、最初は全く話せなくても、チームの外国人と食事に行ったりすることで英語を使う機会を自ら創出して磨くこともできるわけです。
そうした自分に足りないところを積極的に補っていく意欲は非常に評価されると思います。
(3)転職で気を付けるポイントや難易度
金融部門の仕事は他部門と比べると相対的に忙しいのではないかと思います。特に通常の監査のみの経験で金融部門の業務は未経験から転職された場合は、最初は一定程度の自己学習の時間も必要になります。
もちろん、そうした積み重ねの結果として差別化できるようになってくるわけですが、そうした追加的な時間の捻出が特に最初のうちは必要になってくる点についてはきちんと理解しておく必要があるかと思います。
■「大手監査法人の金融部門」の年収はどのくらい?
基本的には金融部門と他部門で年収が変わることはないと思います。
ただ金融部門に相対的に優秀な方が集まっていて、結果的にボーナスの金額で差が出ていた、というようなことはあるのかもしれません。
■「大手監査法人の金融部門」の経験を活かしたその後のキャリアパスは?
監査法人に残るケースでいえば、例えば誰もが知っているような大手金融機関の監査チームに所属できれば、監査チームが強大、かつ仕事自体の難易度も高めであるため、出世コースには乗りやすい傾向があります。
監査法人を辞める場合においても、例えば金融監査を通じて金融機関や金融業に対する知識がおのずと増えていっており、かつ英語もできるようになれば、有名な外資系の金融機関に転職できるかもしれません。この場合、かなりの高額年収を期待する道も開けてきます。
上記のようなルートでのキャリアアップが比較的一般的ですので、金融部に所属した上で個人として開業独立、というパターンはそれほど多くありません。