2015年5月25日
平成27年度税制改正で創設され、平成28年1月に制度運用開始、実務上平成28年2月からの平成27年度分確定申告に影響を及ぼす制度として、 「財産債務調書」があります。財産債務調書は、従来の制度で「財産債務明細書」と呼ばれていたもので、改正により明細が調書に「格上げ」されました。
従来の財産債務明細書は、所得税の確定申告書の提出者で、その年分の各種の所得金額の合計額が2千万円を超える人が、
その年の12月31日現在の財産や債務について、その種類や金額を記入するものでした。
しかし、この制度では預貯金を総額で記載できることや、資産について見積価額が認められていること、
また罰則規定がないことなどから、実効性に疑問が呈されていました。
新制度では「その年分の所得金額が2千万円超であること」に加え、
「その年の12月31日において有する財産の価額の合計額が3億円以上であること、または、
同日において有する国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること」を提出基準とするとしています。
財産の内容については、財産の所在や、有価証券の銘柄も記載する必要があります。
また、価額に関する記載についても、有価証券について取得価額と時価双方の記載が必要となるなど厳格化されています。
そして、財産債務調書の提出がなく、所得税・相続税の申告もれがあった場合の過少申告加算税等を加重する特例も設けられました。
その一方で、調書を提出した場合の過少申告加算税は減算する取り扱いも行われます。調書に関する税務調査の質問検査権の規定が置かれていることから、
未提出や申告漏れ等のリスクはかなり大きなものとなるでしょう。
資産の把握のため、この制度の対として設けられた制度が、昨年導入された国外財産調書。
財産債務調書には、記載事項については「国外財産調書の記載事項と同様の事項」(財務省)を要するとあり、両者の関連性は明らかです。
国内外問わず、高所得者、資産家の財産の状況を把握するための方策が、確実に整備されている状況にあるといってよいでしょう。
なお、このほど、国外財産調書未提出により加重された過少申告加算税の課税がはじめて実施されたとの報道もありました。
当局が力を入れる、ペナルティの適用を含めた制度運用にも今後注目する必要があります。
以前のコラムで国外財産調書に関して取り上げた際、同調書が「富裕層のコンサル業務の入り口となる」と紹介しました。
今回「明細書」から格上げされ、厳格化された財産債務調書についても同様に、資産の内容を詳細に記載する必要があることから、
顧問先との信頼関係構築が必要となり、税理士と顧客との紐帯が強まる傾向にあります。
業務量の増加、当局の厳格な調査等、不安な面もありますが、調書を作成した税理士に対し、所得税や相続税など、
トータルサポートを発注するきっかけとなる可能性を秘める同制度。会計事務所の業務開拓の手段として注目する価値がありそうです。