2015年5月28日
中小企業経営者の融資に伴う個人保証は、きわめて広く行われる商慣習であり、9割が行っているといわれています。 これが新規事業創出、イノベーションの妨げであるとの指摘は以前からありました。この問題に対処すべく、日本商工会議所と全国銀行協会が中心となって策定した、 「経営者保証に関するガイドライン」が注目されています。
平成26年2月に適用が開始された同ガイドライン。
経営者保証によらない融資として、停止条件または解除条件付保証契約等の特約条項(コベナンツ)、金利の一定の上乗せ、在庫を担保としたABL等、
「経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図る」としています。
経営者の個人保証を求めないことの条件となる最も重要なポイントの一つが、「法人と個人が明確に分離されている」ということ。
財務状況による与信、事業計画の実効性の審査などを金融機関が行う際の必要最低限の条件であるといえるでしょう。
ガイドラインで重要なことは、融資審査だけではなく、実際に個人保証を行っている際、
事業再生や廃業時で返済不能となってしまった場合についても金融機関の行動規範が定められていることです。
たとえば、廃業時等に一定の生活費等を残し、返済しきれない債務残額は原則として免除すること等が記載されています。
これは、経営者保証による債権者の権限を制限することで、直接的な債務者保護のほか、保証を取ること自体の「メリット」を減じ、
個人保証によらない融資を後押しする動きと見ることができます。
経営者保証を取らない融資の推進は、以前から行われていました。
しかし金融機関の与信能力、中小企業の財務的な実情から、普及しているとはいいがたいものがありました。
ここで重要な存在となるのが税理士等、会計専門家です。
上に記したように、ガイドラインで融資の条件として最も重視されているのが「法人と個人の分離」。
これが会計上の概念であることはいうまでもありません。中小企業の会計基準に合わせ、
税理士が信頼性を担保することへの期待は大きいものがあります。
また、ガイドラインに基づいて、中小企業基盤整備機構では、経営者保証によらない資金調達、
事業承継時等の保証契約見直しを希望する人が、商工会、商工会議所、認定支援機関、中小機構地域本部へ相談し、
専門家の派遣を受けることができる事業を開始しています。ここでいう「認定支援機関」には、税理士事務所が多く登録されています。
個人保証については、現在法案提出が準備されている民法改正案でも厳格化される方向にあります。
中小企業の経営者保証の様相は少しずつ変わっていく流れにあるのかもしれません。
個人保証自体がすぐになくなることは考えにくいですが、この流れを確かなものとするため、
まずは税理士が顧問先の会計に関する体制を整備し、融資に関する情報を提供していくことが重要となるでしょう。
今後の法制等、制度の変化も注視しながら、各金融機関の融資の動向を学んでいく必要がありそうです。