2015年6月15日
財産を委託し、処分・管理方法を指定する信託契約。2006年の信託法の改正により、契約の自由度が増したことから、相続対策として注目されることとなりました。
税務とも深く関わる業務であるため、税理士が相続の手法として手掛けることも多くなりました。
信託契約の当事者は、委託者、受託者、受益者です。委託者が財産の所有権を受託者に移転し、受託者が財産を管理、処分し、受益者がその利益を受けます。これにより、委託者はその財産を保護しながら、意思に基づく財産処分を行うことができます。
信託には、大きく分けて委託者の生前から効力が生じる生前信託と、死後に効力が発生する遺言信託があります。そして、改正信託法の大きなポイントは、自己信託が可能となったこと。これは委託者と受託者が同一である信託契約のことです。
自己信託を利用することで、特定の財産を信託財産として自分で財産を管理しながら、権利を受益者に移すことが可能となります。自己信託は、相続対策において生前贈与に加え重要な選択肢となっています。
遺言書による相続は「財産をだれが所有するか」ということについては指定することができます。しかしその用途についてまでは指定できません。信託はこの部分を埋め、よりニーズに合った相続対策ができることがメリットです。
たとえば生前に財産を信託し、受託者に管理方法を指定し、受益者を自分とすると、成年後見制度と同様の財産管理を行うことができます。そして委託者の死後には、新しい受益者のために財産を処分することをあらかじめ指定することもできます。
事業承継とも深く関わっています。事業信託といわれるスキームでは、事業の所有権を受託者に移し、一定期間は受託者が事業を継続し、その後受益者に移転するといったことが可能。これは、後継者の育成期間を確保することで事業承継をスムーズにする効果が期待できます。自社株式を自己信託に設定し、後継者を受益者とすることで、生前に経営権を確保しながら、死後に株式の散逸を防ぐことができるのです。
平成25年度税制改正で導入された教育資金一括贈与の非課税制度等、信託を使った新たな税制も創設されており、今後も税務において信託の存在感は増していくものと考えられます。
信託業務は、契約実務の専門家である弁護士のほか、信託登記を行う司法書士等、様々な法実務家が関わります。そして相続・事業承継は課税関係に関連することから、信託のスキーム策定には税理士・会計士が深く関わる業務でもあります。
ほかの法実務家も税理士の知見を期待し、連携体制を強化している現状があります。契約法務や登記、公正証書の作成など、基本的な知識を税理士も身に付け、適切な専門家とアライアンスを構築することが重要です。
相続・事業承継は法定相続人の状況、被相続人の事情による個別性が強くあります。実務家としてなるべく多くの手法に関する知識を持ち、ニーズに合ったスキームを提供できるようになることで業務の幅が広がります。税務への影響を考えながら、遺言や成年後見などと合わせ、信託の知識を確実に身に付けておきたいところです。