2016年1月5日
日本の間接金融の課題の一つとして挙げられるのが、不動産に代表される物的担保、経営者の連帯保証など人的担保に頼った融資に偏りがちであり、事業の成長性、将来性を審査してリスクを取って融資を行う姿勢が乏しいこと。そこで金融庁は、企業経営者へ聞き取りを行うなどの方法で、地銀の融資姿勢について調査に乗り出しました。
報道によると、金融庁は、地方銀行から融資を受ける約1,000社の企業から、融資姿勢に関する聞き取り調査を行う方針。担保に頼らない融資等、積極的な融資姿勢を持つ金融機関の実名を、何らかの形で公表するものと考えられます。
金融緩和により低金利が実現していますが、キャッシュが市場に出回るには金融機関が企業に融資を行う必要があります。企業の積極投資により業績が上がれば、資産価値、賃金、そして金利も上昇し、経済全体に好循環が生まれます。
金融庁では、以前から「経営者保証に関するガイドライン」等で、人的保証によらない融資について指針を示す試みを行っています。しかし、資金繰り支援を行う税理士のお話を聞くと、まだまだ中小企業に対しては、会社や事業への与信に基づき無担保、低担保で行う融資が定着しているとは言えないとの声が聞かれます。企業規模、財産の有無に関わらず、意欲ある事業者に資金が渡っていくことが望まれるところです。
今回の当局による聞き取り調査の意義は、ガイドラインやマニュアルのように、金融機関に対し指針を示すだけではなく、実際に融資を受ける企業に対して聞き取りが行われ、結果が公表されることにあります。融資の最終判断は個々の銀行が行うことは言うまでもありませんが、融資姿勢を変える動機付けが強く働くものと思われます。
そして、もう一つのポイントは、この試みが地銀自身の収益力の改善を促す策でもあるということ。現在、有力地銀の合併に関するニュースが紙上をにぎわせています。積極的な融資姿勢を取れるだけの体力、また与信能力の有無を問う当局の動きが、自己資本比率や収益力の低い銀行の再編を促す方向に作用する可能性が指摘されています。
こうした動きは、資金繰り対策、融資申請書類作成、融資交渉への立ち合いなどを行う税理士にとっても重要です。担保融資からの脱却が進めば、融資を引き出すためのスキルもまた変化していくことになるからです。
銀行の姿勢がどこまで変わるかは未知数ですが、状況の変化により、融資を引き出すための金融機関の選定、交渉のために有効な資料など、情報収集が欠かせなくなるでしょう。税理士もまた、経営者から資金繰り支援業務のスキルや実力を審査される存在として、状況を注視しておきたいところです。