2016年5月9日
相続争いを避けるために、大切な存在となるのが遺言。生前に有効な遺言書を作成することの重要さは、税理士も盛んに啓発しています。さて、平成27年11月20日に、遺言書の有効性について興味深い最高裁判決が下されました。今回は、同事件と判決の内容に触れながら、改めて税理士が生前の相続対策で注意喚起したいことを考えてみたいと思います。
今回紹介する事件のあらましを説明します。被相続人Aの死亡後、相続人がA作成の自筆遺言書を発見しました。しかし、その遺言書の文章部分全体に、赤ボールペンで斜線が引かれていました。この線は、被相続人が引いたものであることが認められています。裁判では、この遺言書に効力があるか否かが争われました。
ここで確認しておきたいのが民法968条2項。「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」とするものです。
そして民法1024条前段では「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす」とされています。これまでの判例では、誤って火中に投じ、燃えてしまった遺言書の効力が争われた裁判で、燃え残った部分について効力を認めたというものがあります。
それでは、今回の裁判の判決はどうなったのでしょうか。最高裁は、遺言者が、自筆遺言による遺言書に故意に斜線を引く行為について、「その斜線を引いた後に、なお元の文字が判読できる状態であれば、抹消としての効力を否定するという判断もあり得る」としながら、「その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当である」としました。そして本件については、民法1024条の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであるとし、Aが遺言を撤回したものとして、遺言の効力を否定しました。
相続は「争族」とも言われるように、遺産分割等をめぐる親族間の争いと切っても切れない関係にあります。そして、争いを避けるため、遺言書作成等の生前対策が推進されています。
しかし、生前対策が定着し、早めの対策をすればするほど、遺言者が遺言を書いた後の人生は長くなります。その間には、心境の変化や財産内容の変化など様々な出来事があるでしょう。税理士は、遺言書の作成だけではなく、生前に確実な方法で修正や撤回をする方法もアドバイスすることが求められるでしょう。