2016年4月21日
法人は、厚生年金への加入、保険料支払いの労使折半が義務となっています。しかし、社会保険料の負担を避けるため、未加入事業者が多いことが社会的な問題となっています。政府では、未加入法人の洗い出しと調査に本格的に乗り出す構えを見せており、中小企業を顧問先とする税理士も、注意を喚起する必要があります。
厚生年金の加入対象となる事業所は全国に約250万法人と言われています。しかし、厚生労働省の調査によると、約80万社が未加入で、従業員らは国民年金に加入している現状があります。加入資格がありながら厚生年金に未加入の人は、約200万人に上ると考えられています。
安倍首相は、衆院予算委員会の中で、「事業所が責任を果たさない状況を放置するのは問題」とこの問題に言及。今後、未加入事業所に対し、加入の勧奨、悪質な場合は強制加入と保険料の徴収など、厳格な対処が予想されます。
最近、厚生年金未加入企業に関する調査が進み、事業所数などの詳細なデータが出てくるようになりました。その背景には、国税庁と厚労省との連携があります。登記上の法人には事業実態がない休眠会社が多く、実質的な未加入会社の割り出しには困難もありましたが、源泉徴収などの国税データとの突き合わせにより精度の高い調査が可能となったのです。
国税当局との関係では、マイナンバーの導入も大きな影響を及ぼすことが考えられます。個人の納税データが、社会保険データと紐づけられることになれば、給与所得者がどの保険に加入しているかも一目瞭然。厚生年金未加入問題の解決に国税のノウハウを利用する機会は、今後、より一層増えると考えられます。
税理士も、多数の中小企業に関与するうえで、未加入企業の現状を目にしているかもしれません。また、法人成りによる法人税節税も、法人設立に伴う社会保険負担を度外視して語られることが多かったのが実状ではないでしょうか。
税理士は直接的には社会保険の手続きを代行することはできませんが、社労士と連携しながら、厚生年金未加入が疑われる企業について、厳格に調査されることを前提に、制度に関する周知、社会保険料による財務への影響について助言する必要がありそうです。会社設立や法人成りのコンサルティングについても、社会保険に関して重点的にアドバイスする姿勢が重要になるのではないでしょうか。