2014年12月15日
税理士が手がける主要業務のひとつに会社設立(法人成り)があります。法人化は節税の面から語られることが多いので、所得税と法人税額を比較したメリットの分析等、
税理士の得意分野が活かせる業務です。
また会社のスタートアップを支援することで、その後の顧問契約につなげることも期待されています。
しかし、節税を目的とした法人成りについて懸念されることがあります。
政府税制調査会(以下、政府税調)で現在議論されている法人税改革は、減税により個人事業主と法人の税率の差が拡大し、
税制に歪みが生じてしまうのではないかということを問題視する声があることです。
具体的に議論されているのは、資本金1億円未満の中小法人の軽減税率の見直しや、利益調整の原因になっていると指摘されている役員給与の給与所得控除の縮小、
数年前に中小企業に対する課税が激しい議論となった中小企業の留保金課税の復活などです。
「法人成りに関する税制の歪みを正す」という名目で、上記の中小企業全体に重大な影響を及ぼす税制の変更を行うことには批判も強くあります。
議論の行く末は不透明ですが、会社設立の大きな動機付けとなっていた税制に縛りがかかってしまう可能性があることは、税理士として注視しておくべきです。
今後、法人成りの税メリットが縮小すれば、会社設立件数の抑制につながる可能性があります。
また、会社設立の相談を税理士にすることの動機付けも働きにくくなってしまうでしょう。会社設立業務は弁護士や司法書士、行政書士等が手がけており、
税理士の存在感が薄くなることも考えられます。
しかし、言うまでもないことですが、会社設立は節税のためだけに行われるものではありません。
個人事業主の法人成りのきっかけとして「取引先が会社としか取引をしたがらない」「融資を受けやすくするため」という声を聞いたことがあると思います。
本来、会社設立は組織の信頼を高め、資金調達の手段を広げ、事業を拡大するために有効な手段です。
将来のIPO、ベンチャーキャピタルによる出資を受けることなども、会社組織であるからこそできることです。
会社設立が税理士の主要業務であること、法人成りにおいて税務知識が必須であることは変わりませんが、税理士が行うべきことは節税だけではなく、
法人化することによる「本来的」なメリットを啓発することにシフトしていくと考えられます。
会社設立業務を行う税理士事務所は非常に多いため、税理士の転職の際には法人化に携わった経験をアピールする必要があります。
その際は、税制改正の議論を踏まえつつ、法人成りの本質について自分なりに語れる見識を持ちたいものです。