2016年1月7日
高齢化により確実に市場が拡大するとみられる業種として介護関連事業があります。他業種から介護事業への新規参入が相次いでいることもあり、税理士として関与している方も増えているものと思われます。
しかし、介護事業所の経営は必ずしも容易なものではありません。会計・税務、経営上の特徴等をみながら、税理士が助言できることを考えてみましょう。
東京商工リサーチの調査によると、2015年1月~9月の老人福祉・介護事業関連企業の倒産件数は、前年同期比42.5%増の57件。負債総額は11.6%増の50億9,600万円と、厳しい数字が示されています。とくに小規模事業所、新規事業所の倒産が多く、従業員5人未満の事業所が38件、また2010年以降に設立した事業所が29件となりました。
介護事業は成長が見込める有望業種として期待されていることから、他の事業からの新規参入が多いという特徴があります。東京商工リサーチは「過剰投資や勝手の違う業種で経営に苦慮するケース」も多いと分析、人材不足で人件費が高騰していることもマイナスの要因として指摘しています。
しかし、質の高い介護サービスを提供しながら、健全な財務体質、収益構造を持つ優良企業も多数あります。介護事業所の需要自体は確実に高まっており、「成功する会社」が増えていくことが、社会的にも求められている状況といえるでしょう。
介護事業所の特徴として、経営主体の多様性があります。株式会社のほか、社会福祉法人、NPO法人など非営利法人も運営しており、また参入する業種も、不動産や建設業、サービス、飲食業などのほか、医療関係、ボランティア団体やソーシャルワークから発展するケースもあります。
経営コンサルティングを行う場合、その事業所がほかに行う事業と同時に経営状況をみないと実態がつかめないところがあります。また使用する会計基準や税制も、営利企業と非営利法人は異なるため、注意が必要です。
また、介護事業の特殊性として、国の許認可事業であり、介護保険報酬をはじめとした政策に経営が左右されることがあります。人員配置などに厳しい要件がありますので、行政書士資格を取得して申請業務に携わる税理士も多くいます。また、介護報酬の改定に合わせた経営戦略といったコンサルティングを得意業務とする税理士もいます。介護報酬は入金ギャップがあることから、キャッシュフロー、資金繰り支援にも需要があるようです。
今後、経済的に存在感が高まるだけではなく、社会政策上も重要な存在となる介護事業所の健全な運営を支援するため、財務会計、税務はもちろん、制度的な専門知識に対するプラスアルファを持った会計人の活躍が期待されるところです。