2014年12月1日
税理士が、税務会計以外の財務会計に関する知識を得て、税務当局だけでとどまらない外部への提供を
前提とした決算書の整備を行うことの重要性が盛んに指摘されています。
会計実務のうち、税務と財務会計の差が如実に出る分野の一つに、退職金の扱いがあります。
企業会計と税務では退職給付引当金に関する処理の仕方が異なります。
税理士としてまず注目するのは法人税法における損金の範囲でしょう。
平成14年度税制改正で、引当は原則、認められなくなっています。
税務として退職金を損金に算入するのは支払い時。
税理士はその際、役員退職給付の功績倍率等による損金算入限度の扱いを含め、
当局に指摘を受けないよう、適切に税務処理を行っていることと思います。
しかし、将来の退職金の支払いは、損金に算入されるか否かにかかわらず、企業にとっての潜在的リスクです。
引当の積立不足は、大企業の会計士による監査で指摘を受けるポイントであり、投資家の判断、金融機関による与信にも関わります。
退職給付引当金は、日本の企業会計基準、中小企業会計指針、中小会計要領でそれぞれ扱いが異なります。
さらに、適用企業が増加しているIFRSでは退職給付引当金の積み立てがより明確に表されます。
退職金リスクの算定は、まさに国内外の実務家、研究者の間で侃々諤々と議論が行われている分野であることがわかります。
中堅企業においても、特に企業規模が大きくなる過程では、退職金の会計上の扱いにステークホルダーの注目度が増していくでしょう。
高齢化、団塊の世代の退職等の影響もあり、中小企業の与信状況などを第三者として見る税理士が、退職金リスクの管理に果たす役割は大きなものとなるでしょう。
税務以外の財務会計の知識は、転職市場においても税理士の市場価値を高めます。
顧問先に対して、会計基準に則った退職金リスクの可視化と、それにともなう申告書の税務調整、
退職金規定に関するコンサルティングを行った経験があれば、大企業を顧問先とする会計事務所、内部監査等を行う一般企業、
コンサルティング会社でも注目されるでしょう。
税理士が退職給付引当金について目を向けているか否かは、税理士のステップアップのキーとなる「財務会計」への意識の高さを示す象徴的なテーマ。
まずは各会計基準の相違点について学習しておくなど、できるかぎりの自己研鑽をしておくことをおすすめします。