2016年2月12日
国税通則法の改正により、当局による税務調査のスタイルが変わったといわれています。顧問先への調査対策のアドバイスや、実地調査立ち合いを業務の一つとする税理士としても気になるところでしょう。国税庁が平成27年10月に発表した「平成26事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について」を参考に、最近の調査の傾向をみていきましょう。
税務調査には、調査対象者の事業所や自宅に臨場して行う実地調査と、文書、電話による質問や来署依頼で、計算誤りや税制の適用誤りを是正する「簡易な接触」があります。また、実地調査は、高額の申告漏れ、悪質性が疑われる案件に行う特別調査・一般調査と、申告書の内容等から選定、定期的な調査を含む着眼調査があります。
まず所得税調査の件数を見ていきましょう。実地調査の件数は、特別調査・一般調査が前事務年度の4万6千件から4万9千件、着眼調査が1万6千件から1万8千件とともに増加。一方、簡易な接触は83万7千件から67万2千件と大きく減りました。
消費税は、増税直後ということもあり、調査も集中して行われたようです。特別調査・一般調査が2万5千件から2万8千件、着眼調査が7千件から8千件、簡易な接触が4万4千件から5万件とすべてで増加しました。
今回の調査の前年度、平成25事務年度は、事前通知などの要件が厳格化された国税通則法の改正直後であったため、実地調査が少なく、簡易な接触が急増したことが話題になりました。今回、所得税調査で実地調査の件数が増え、簡易な接触が大幅に減ったのは、改正法に対応した実地調査の運用が確立したからだと思われます。
もう一つ注目したいのは、申告漏れ等の金額の増加です。調査総数が減った所得税ですが、合計では前事務年度8,216億円から8,659億円と増加。消費税の追徴課税は209億円から232億円に増加しました。高額で悪質性の高い案件のみに、実地調査を集中して行い、簡易な接触と使い分ける「選択と集中」が効果的に行われたことがうかがえます。
税務当局には、人員や時間を最小限に、申告漏れの捕捉という効果を最大限にする「調査の効率化」という明確な方向性があります。マイナンバーの導入で、調査先の選定、着眼がしやすくなることも考えられ、この傾向はさらに後押しされることが予想されます。
特に今回発表された所得税は、納税者が極めて多く、サラリーマンなど捕捉率が高い個人や所得が高くない個人と、個人資産を多く持つ富裕層や、法人所得、役員給与などの大口の案件がはっきりと分かれるため、メリハリをつけた調査が必須となります。
税理士としては、顧問先とする個人の財産、所得の状況から、実地調査のリスクがどれだけあるのかを考慮したアドバイスが必要となるでしょう。高所得者、富裕層に集中する実地調査対策のほか、着眼されにくい適切な申告書の作成、また簡易な接触への対応など、「調査未満」の対策の重要性が増していくものと考えられます。