2016年9月20日
基礎控除の縮小による課税義務者増加で注目が高まる相続税。相続税対策のうち、最も多く使われる手法のひとつに、生前に推定相続人に贈与税の非課税枠である年110万円までの金額を毎年贈与していく「暦年贈与」があります。そして、この暦年贈与を確実に行うために各金融機関が提供するサービスとして話題となっているのが「暦年贈与信託」です。
暦年贈与は、贈与税の基礎控除を利用した節税方法。基礎控除の額は年間110万円であるため、年間110万円までなら相続人に財産を無税で移転することができます。
しかし暦年贈与による節税には失敗例もあります。毎年定期的に贈与を行っていると判断された場合、「定期金給付契約に関する権利」の移転が行われたものとして、贈与税が課されることがあります。税理士として顧問先にアドバイスする際も、国税当局がどのような贈与について暦年贈与を否定するのかわかりにくいところもあるため、あえて110万円より多めの贈与を行い、毎年少額の贈与税申告をしておくなどの方法がとられることもあります。
また、推定相続人である子や孫名義の預金通帳を作り、その通帳に毎年110万円以下の金額を積み立てている場合、実質的に財産移転が行われておらず、被相続人の預金とみなされ暦年贈与が認められないこともあります。いわゆる「名義預金」です。名義預金を避けるための方策も、細かいアドバイスが必要となります。
暦年贈与信託は、金融機関が確実な暦年贈与をサポートするサービスです。簡単に仕組みを説明すると、贈与者が委託者として、受託者である金融機関と信託契約を結び、子や孫などの贈与先を受益者とします。そして毎年、金融機関が贈与者の口座から、子や孫への振り込みを代行するものです。
今年3月、国税庁は、金融機関からの事前照会を受け「暦年贈与サポートサービスを利用した場合の相続税法第24条の該当性について」という文書回答を行い、公表しました。そこでは、照会を行った金融機関に向けた回答の形ではありますが、暦年贈与として信託を利用するサービスについて、「あらかじめ定期的に贈与することについて贈与者・受贈者双方の合意がなされている場合でない限り」において、「『定期金給付契約に関する権利』の贈与に該当するものではない」と、金融機関の見解を認めています。
生前の相続税対策として、暦年贈与のアドバイスをしたことがある税理士は非常に多いでしょう。今回、暦年贈与信託に関して、国税庁の見解が明確化したことにより、安心して勧めることができるサービスとして暦年贈与信託の存在感が増したといえます。各金融機関が提供するサービスの内容を、実務知識としてチェックしておく必要がありそうです。