2015年12月24日
日本経済は回復基調と言われますが、税理士が知りたいのは、顧問先となる中小企業を中心とした経済実態ではないでしょうか。そこで役に立つのが、中小企業庁が毎年作成する「中小企業白書」。2015年版の白書について、税理士が提供する税務サービスやコンサルに関連する部分を中心にみていきましょう。
白書で、税金に関する論点で大きく取り上げられているのが、消費税の増税。中小企業の景況は2013年1-3月期以降改善を続けていましたが、増税後の2014年4-6月期に顕著に悪化したことが報告され、現在は「持ち直しの動きも見られる」状況であるとまとめています。
また、2014年の消費税率引上げについて、1997年の5%への引き上げ時よりも、駆け込み需要と反動減といった影響が大きかったとしています。そして、中堅企業と比べ、とくに小規模事業者の売上等に大きな影響をもたらしたとしています。
また、もう一つ懸念されるのが消費税の販売価格への転嫁。白書では、事業者間取引については3%、消費者向け取引については4%の事業者が「全く転嫁できていない」と回答
。「一部を転嫁できている」と合わせると、転嫁できていない代金のある企業が、事業者間取引11%、消費者向け取引18%に上っていると報告されています。
中小企業の収益構造の変化についても取り上げています。具体的な状況としては、グローバル化により、海外からの調達や現地生産が進み、大企業と中小企業・小規模事業者との間の相互依存関係が希薄化したことを指摘しています。従来の日本企業の特徴であった、下請関係による垂直分業の構造が変化していることを意味しているといえるでしょう。
白書では「中小企業・小規模事業者は市場と直接向き合い、自ら市場から需要を獲得しなければならない状況」としたうえで、大企業をしのぐ高収益を挙げる中小企業があることも紹介。実例をもとに、市場開拓を意識した情報収集・分析、産官学連携、人材獲得などの課題に触れながら、イノベーションと販路開拓の重要性を強調しています。
税理士としては、まず喫緊の問題として、今後の消費税増税のインパクトを最小限にするためのアドバイスが求められます。今後の軽減税率、インボイス方式等の導入の有無を含め、制度改正による事務作業煩雑化の軽減、売上予測に基づく資金繰り対策、そして下請け関連法制に基づく適切な契約を促すこと等、増税への備えを怠らないことが重要です。
また、そういった守りの対策のほかに、攻めの経営戦略も必須となるでしょう。たとえば親会社一社のみの下請企業から、収益構造を抜本的に変えていくためには、マーケティング、販路開拓、人材調達まで、必要とされる知見は多岐にわたります。
税理士は、正しい会計データを作り、それを分析する財務コンサルティングに強みがあります。データをもとに、収益構造の転換のためのポイントを見極め、場合によっては他の専門家とともに対策に当たることとなるでしょう。経営者から真っ先に相談を受けることの多い税理士の「ワンストップ」の役割は非常に大きいといえます。