2015年11月24日
経営者の高齢化、事業承継の困難が大きな課題となっていますが、大企業と比べて承継相手として外部の人材を確保しにくい中小企業には、承継手法の選択肢が少ないのが実情です。そこで注目される公的な機関が「事業引継ぎセンター(通称・後継者人材バンク、以下、センター)」です。
センターは、各地の自治体、商工会議所、商工会等が連携して運営。起業を希望する人と承継を希望する事業者のマッチングを行う機関です。承継を検討する経営者、起業者がセンターに登録すると、業種や規模等、条件が合致する場合に交渉の場を設けます。
現在、後継者人材バンク事業は法制化され、政府が掲げる「地方創生」の一環として全国で設置が進められています。中小企業庁は平成27年4月、中小企業のM&A手法などについて詳細に記載した「事業引継ぎガイドライン」と、それをわかりやすくまとめた「事業引継ぎハンドブック」を策定。センターの事業内容と利用方法について詳しく説明がなされています。
中小企業のM&A案件は収益化が困難であることから、営利企業が参入しにくい面があります。その分野に公的な支援が入ることで、スムーズな承継、意欲のある起業家の参入による市場の活性化が進むことが期待されるところです。
事業の大小を問わず、M&A、事業承継に、株価算定等の実務を行う会計人の知見が必要であることは言うまでもありません。後継者人材バンク事業でも、相談員やセミナー講師として多くの税理士が活躍しています。また、マッチング後、具体的な交渉を行う際も、会計士や税理士が関与することになります。
税理士は中小企業の最も身近な相談相手です。顧問先の経営者から、事業承継についての悩みを相談された経験のある税理士は非常に多いと思います。しかし、子息など後継者がはっきりしている場合であればともかく、家族承継の望みが薄い場合、税理士が対応できることは限られてしまいます。
中小企業庁は、「事業引継ぎガイドライン」の中で「士業等専門家は、顧問先の中小企業等から後継者不在等の相談を受けた場合、センターを紹介し、可能であれば、顧問先と一緒に最寄りのセンターを訪問することが期待される」としています。税理士個人の人脈では困難な後継者探し、マッチングの業務を補完する役割を担うセンターを利用して、顧問先の潜在的需要を掘り起こすことができれば、税理士業務にスムーズにつなげることも期待できるのではないでしょうか。