2016年6月22日
平成28年度税制改正では、法人税関連で税率引き下げをはじめとした重要な改正が行われました。税理士は、税率のように多くの納税者に関連する事項をチェックするのは当然ですが、税務コンサルを行う上では、顧問先の状況に合わせ個別に適用する控除等の扱いが気になるところ。その中のひとつとして、赤字の時期がある企業が利用する欠損金繰越控除があります。縮小の流れにあるともいわれる同制度の改正点をみていきましょう。
欠損金は、赤字を計上した企業にとって、将来的な控除が見込めるだけに、いわば資産となりうるもの。しかし、昨今の税制議論では、法人実効税率の引き下げの財源確保、課税ベース拡大の観点から、控除枠の縮小などが議論されています。
これまでの改正を振り返ると、平成27年度の税制改正で、資本金1億円以上の大法人の欠損金について、従来所得の80%の控除が可能であったものが、平成29年4月から50%に縮小されることとなり、その前段階として平成27年4月から平成29年3月まで65%とすることとされました。
今改正は「改革を加速しつつ、企業経営への影響を平準化するための見直し」(財務省)として、平成28年4月からの年度について、所得65%から60%に縮小。その一方、50%への引下げの時期を平成30年4月まで延長しています。
今年4月から限度割合が下がることになるため、再生途上にあるなど赤字から大きく業績回復が期待される企業では、キャッシュの状況に大きな影響が出るものと考えられます。対象企業が大企業であり、税効果への影響は大きくなると考えられるため、顧問先企業の状況を分析しておく必要があるでしょう。
今回、欠損金の繰越控除に関する改正があったのは、大法人のみとなっています。現在、欠損金について所得100%の控除が可能な中小企業については従来のとおりです。顧問先として関与している企業への影響はないという税理士も多いでしょう。
しかし、中小企業の欠損金の扱いについても、課税ベース拡大のための縮小が何度か議論されています。その他の各種中小軽減税率の行方とともに、今後の議論を注視する必要があります。
そして、税理士に求められることは、単に法人所得を低く抑えることではありません。コンサルティングで求められるのは、抑えられる税額を抑えつつも、黒字化達成のための方策を指導することです。欠損金繰越控除の縮小の流れは、顧問先を「利益を出せる企業」へと脱皮させ、右肩上がりの事業計画を立てられる企業にすることの価値をさらに高めることになるでしょう。