2015年10月26日
平成27年の税制改正により創設された財産債務調書は、税理士業務にも大きな変化をもたらしました。税務当局にとっても重要施策であるだけに、記載内容等の審査の厳格さ、罰則も含めた運用について実務家は出方をうかがっている状況です。
そんな中、国税庁は「財産債務調書の提出制度FAQ」を作成するなど、実務上のポイントについて情報提供を行っています。
財産債務調書の提出義務が発生するのは、総所得金額及び山林所得金額の合計額が2千万円を超え、かつ、その年の12月31日において価額の合計額が3億円以上の財産又は価額の合計額が1億円以上である国外転出特例対象財産を有する場合です。
調書の内容は、財産の種類、数量、価額、所在並びに債務の金額等。しかし、財産一つ一つの記載内容について様々な疑問が生じます。特に、財産債務調書に記載する財産の価額は、時価あるいは「見積価額」により表示されますが、その算定方法に複雑さがあります。
国税庁が作成したFAQでは、非上場株式や不動産、骨とう品や家庭用動産等、財産の種類に合わせ、見積価額の合理的な算定方法について解説しています。また「所在」の記載では、個人事業の売掛金や、不動産賃貸業の未払い金、預り保証金等の所在はどこになるのか、「債務」の内容についても、連帯債務、外貨での債務等の記載の仕方を解説しています。
多くの資産家が悩んでいるのが、財産の評価方法とともに、財産の内容をどの程度詳細に記載すればよいのか。相続税の申告であれば、相続発生という「その場限り」の作業となりますが、調書は毎年作成されるもの。財産の洗い出しと価額の計算の事務コストが膨大になることも懸念されています。
税理士の間でも、始まったばかりの制度だけに、当局の「出方」に注目が集まっています。財産評価の理論的な計算はもちろん、どのような記載について特に詳細に審査され、記載内容の詳細さを求められるのか、という「勘所」を知りたいという声をよく聞きます。
財産債務調書作成業務においては、自らの経験をもとに対策を提供できる税理士がまだまだ少ないため、いわば「抜きんでる」チャンス。勤務税理士としても、今回発表されたFAQの内容を含め、当局の視点、そして罰則を含めた運用状況をウォッチしておきたいところ。そして、調書作成にかかわる機会があれば、確実にスキルを身につけておきましょう。