2016年3月11日
高齢化や、税制改正による課税対象者の大幅な拡大など、納税者、そして税理士にとって何かと話題の多い相続税。税制の変化には、当局による税務調査も大きく変化することがつきものです。今回は、平成27年11月に発表された「平成26事務年度における相続税の調査の状況について」をもとに、これからの税務調査の動向を考えてみましょう。
相続税では、相続発生(被相続人の死亡)から遺産分割、納税等までに期間があり、納税期限後、しばらくしてから調査が行われます。今回発表されたのは、平成24年に発生した相続を中心に実施された調査です。
発表によると、同事務年度の実地調査の件数は12,406件で、平成25事務年度の11,909件から増加。このうち、申告漏れ等の非違があった件数も10,151件で同9,809件から増加しています。非違割合は81.8%で、同82.4%から微減しています。
「平成25年分の相続税の申告の状況について」によると、平成25年中の死亡者数は前年比約1万人増、相続税課税対象者は約1,000人増えており、実施調査件数の増加は、高齢化が最も大きな要因と考えられます。
もう一つ注目すべきなのは調査の「効率性」です。申告漏れ課税価格は3,296億円と、平成25事務年度3,087億円から大きく増加し、実地調査1件当たりでも2,657万円(同2,592万円)と増加しています。
追徴税額も670億円(同539億円)と大きく増え、実地調査1件当たりでも540万円(同452万円)と増加しています。そして、悪質性の高い案件で課される重加算税の賦課件数は1,258件(同1,061件)と、こちらも大幅に増加しています。
申告漏れ相続財産の内訳にも特徴が表れています。現金・預貯金等は1,158億円と、前事業年度の1,189億円から減少。しかし、有価証券が490億円(同 355億円)と大きく増え、土地414億円(同412億円)も増加しています。
データからうかがえるのは、高額、悪質な案件への調査リソースの重点的な配分。金融資産等を多く持ついわゆる資産家への実地調査を集中的に行い、追徴税額を高める方向性がうかがえます。なお、今回の対象となった調査に、アベノミクスによる資産上昇の影響はまだ反映されていないものと思われますので、今後この傾向はさらに強まるでしょう。
そしてその後、相続税増税後の調査が始まれば、手法はさらに変わっていくでしょう。ほかの税目と比べ極めて高い、相続税の実地調査が行われる割合は、課税対象者が増えることで下がると考えられ、資産家と新たに納税義務が発生する中間層とを分けたメリハリをつけた調査手法が打ち出されることになると考えられます。
中間層については、とくに無申告が大きく増える可能性があり、実地調査よりも、いわゆる「お尋ね文書」や電話での問い合わせのような対処が増えると予想されます。税理士も顧問先へのアドバイスの仕方を考えておくべきでしょう。