2015年8月10日
税理士業務において、最も避けなければならないことは、間違った税務処理により依頼者に損害を与えてしまうこと。巨額の損害賠償を請求されることもあるため、業務の正確性に常に注意を払う必要があります。そこで参考になるのが、税理士職業賠償責任保険の事故事例。2014年度版の事故事例から、注意すべきポイントを考えていきましょう。
2013年度に保険金が支払われた税理士賠償事例の税目を多い順に見ると、以下の通りです。
消費税 | 118件(45.2%) |
法人税 | 66件(25.3%) |
所得税 | 48件(18.4%) |
相続税 | 17件(6.5%) |
贈与税 | 4件(1.5%) |
まず特徴的なことは、圧倒的に消費税が多いこと。2014年版の事故事例では、消費税の課税事業者、簡易課税制度の適用・不適用や課税区分の誤りなどのケースが報告されています。税理士の過失責任の有無については別問題として考えなくてはなりませんが、各種制度選択、特例適用で、税額を最小限に抑えるための策を打つことが税理士に求められていることは肝に銘じる必要があります。
各税目による税賠の支払金額を見ると、また違った側面が見えてきます。各税目ごとに、全体の支払金額を件数で割った、損害額の平均を計算すると以下のようになります。
消費税 | 232万2,000円 |
法人税 | 311万3,000円 |
所得税 | 207万円 |
相続・贈与税 | 748万3,000円 |
相続・贈与税が最も高くなります。これは税理士の皆様であれば感覚的に理解できるはずです。資産税は、財産評価により節税効果が高くなる税目です。これは裏を返せば税理士の判断により、損害が大きくなる傾向があるということでもあります。
2014年版の事故事例では、農地の納税猶予特例、小規模宅地特例の適用忘れ、土地評価額の計算ミス等によって損害賠償問題に発展したケースが紹介されています。
今年からは、相続税増税がスタートし、課税対象者が増えたことから、トラブル件数が増えることも予想されます。
勤務税理士として活動されている方も他人事ではありません。関与先のタックスプランニングにおいて大きな決定権を持つ方はもちろん、税理士賠償問題では、単純な記帳ミス、申告書の記載ミスが発端になったものも多く、すべての勤務税理士にリスクがあります。
自らの名前で税理士業務の委嘱を受ける所属税理士制度が導入されるなど、勤務税理士の働き方は今後多様化していくことが考えられます。所属税理士は、権限とともに責任がさらに重くなることはいうまでもありません。
賠償問題に発展させないために、慣れのある業務の一つ一つを見直し、リスク要因を洗い出し、チェックポイントを整理するなどの工夫が必要だと思われます。