2016年3月14日
税務当局の調査には、長い歴史からノウハウの蓄積があります。しかし新しいタイプの商取引には日々対応が必要です。中でも近年、課税逃れ等で話題になることが多いのが、インターネット回線を通した電子商取引。当局は電子商取引の所得の捕捉、調査にどのような体制を敷いているのでしょうか。
電子商取引の市場規模は急激に伸びています。野村総研の「ITナビゲーター2015年版」によると、2012年度に10兆円未満であった日本のBtoCのEコマース市場規模は、2015年に14.4兆円、2020年度には25兆円を超えると予測されています。
ほぼ確実に急激な市場拡大が起こると予測される分野であるだけに、国税当局にとっても、課税取引の捕捉を、高い精度をもってできるかがますます課題となります。
電子商取引の特徴として、取引が国際化し、国境を簡単に超えることがあります。たとえば、外国にサーバを置いた事業者が日本向けECサイトを運営したり、海外で動画や電子書籍などの電子コンテンツを配信したりといった事業者等は多数あります。現地に実店舗がなくとも参入できることもあり、事業者の把握・特定は困難です。また、取引の匿名性が高く、データの消去が容易であることも難題です。
また、ネットオークションサイトでは、原則として消費税がかからない個人間での日用品の処分に交じって、事業実態のあるプロも参加している状態。取引の実態から納税義務の有無を判断する困難も指摘されています。
国税当局では、2000年に東京国税局に、電子商取引を行う事業者および関連業者に対する税務調査・情報収集を行う電子商取引専門調査チーム(Professional Team for E-Commerce Taxation、略称PROTECT)を組織しました。現在は、正式な国税組織として改組され、「課税第一部統括国税実査官 電子商取引担当」が各国税局に設置されています。
電子商取引担当の国税実査官の特徴として、幅広い税目にまたがる電子商取引の課税を担当するだけに、所得税、贈与・相続税等を管轄する課税第一部のほか、法人税や消費税を管轄する課税第二部、そして調査部、悪質な事案の調査に当たる査察部、さらには徴収部からも人員が選定されていることがあります。調査手法も、IT関係者や学術機関と協力して、研究が進められています。
現在、課税当局全体の課題として注目される国際税務、増税された消費税の確実な課税、徴収も電子取引に大きくかかわります。その双方とかかわわる、消費税のリバースチャージなどの新制度についても、調査手法が研究されているでしょう。
技術の発展やコスト低減により、ネットを使った広域の商取引は、中小企業でも広く行われるようになりました。税理士としては、課税の有無についての判断を慎重に行うほか、調査の際に着目される可能性のある取引を、税務調査や国税当局の組織の知識とともに整理しておく必要がありそうです。