2017年10月24日
税理士にとって、役員報酬は税務コンサルティングのポイントの一つ。しかし役員報酬の税制は損金算入が厳格に制限されつつも、時代に合わせ、中長期の企業価値創造のためのインセンティブとしての役割が削がれないよう、改正が繰り返されています。最近の役員報酬に関する議論の流れをみてみましょう。
役員報酬は利益調整と税逃れに使われる傾向があることから損金算入が厳しく制限されています。しかし、利益調整が規制されるのは当然としても、業績に合わせたインセンティブとしての役割は必要とされるところです。
日本再興戦略2015では、この役員報酬の側面について「企業価値創造を引き出すためのインセンティブ」を付与することができるよう「金銭でなく株式による報酬、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とするための仕組みの整備」が必要と取り上げられています。
その仕組みづくりとして、形式的な報酬類型ではなく要件を満たした報酬プランに損金算入の道を開く試みが行われています。たとえば平成28年度改正では、利益連動給与について、ROE等 対象となる指標を追加、平成29年度改正でも後述の金銭以外の報酬の損金算入について要件が拡充されています。
経済産業省は『「攻めの経営」を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~』を作成、役員報酬についての議論、具体的な報酬プラン構築のための具体的方策をまとめています。
手引きでは、多様な報酬プランの導入が促進されることで「稼ぐ力」を向上、特に株式報酬については、「経営陣に株主目線での経営を促したり、中長期の業績向上インセンティブを与える」上での利点に言及。「海外を含めた機関投資家の要望に応えるもの」と積極的に位置づけています。
また、金銭以外の報酬類型について、平成28、29年度の税制改正の内容を踏まえながら、ストックオプションや、譲渡制限のある株式を役員に交付する「特定譲渡制限付株式」、会社が金銭を信託し、信託が株式を取得する「株式交付信託」、中長期の業績目標の達成度合いに応じて株式を役員に交付する「パフォーマンス・シェア」等の類型を、損金算入要件とともに例示しています。
経産省の「攻めの経営」を促す役員報酬の考え方は 、主に大企業、上場企業のものといってよいでしょう。中小企業の顧問契約を行う税理士に期待されるのは、オーナー企業の経営者の役員報酬であり、現実的になじみのない面もあるでしょう。
しかし、役員報酬に関する議論の流れと税制改正の関連を知ることは、大企業を顧問先とする税理士ではなくても、税制と企業統治の知識を関連づけ、知見を深めるために重要なのではないでしょうか。