2015年4月30日
税理士は中小企業を中心に、資金繰りの相談に乗り、銀行融資を引き出すための書類作成に携わることがあります。
その際に必要な書類として、財務諸表のほかに、事業計画書があり、金融機関へのアピール力の高い計画の策定方法を相談されたことのある税理士の方も多いでしょう。
しかし、実態に即した事業計画書を作成するには、税務の知識とは異なるスキルが必要です。
財務諸表は過去の数字を示すもの。正確な決算書を作成することは税理士の専門分野です。一方、事業計画書は未来の予測に基づいて作成されるものであり、業績の推移と合わせ、以後の財務的な見通しを示さなければなりません。
形式のみであれば、過去の財務諸表の項目ごとに、数字を変えるだけで、見た目の上で「将来性」のある計画を立てることはできます。しかし、金融機関など外部の者から、見通しの甘さ、根拠の不明確さを指摘されることもしばしばあります。
財務的な計画では、会計上の各科目には書かれていない部分について、間隙を埋める作業が必要となります。売り上げや利益、流動債権・債務のバランス等、会社の課題を財務諸表から見極めた上で、課題を解決するための方策を明示し、計画の数値に落とし込む作業が必要です。
財務的課題を達成するためには、会社内部での取り組みだけではなく、経済の状況や競合他社、地域・社会状況など外部環境の分析が必要です。とくに、販売計画については、マーケットの動きを反映させなければ実効性の高い計画とはなりません。
会社の現状把握のために広く使われる手法の一つに、SWOT分析があります。会社の外部環境、内部環境について、それぞれ機会と脅威、強みと弱みを挙げ、機会をつかむための自社の強み・弱み、脅威を回避するための強み・弱みといったクロス分析で、経営改善のための現実的な方策を導き出していきます。
これらは、あくまで顧問先企業の意思により作成するものであり、会計人のスキルだけで行うことはできません。税理士には、計画のフレームワークを提供することをはじめ、経営者や現場社員の認識を聞き取り、また市場調査会社のレポート、公的な統計データなどの利用も提案し、策定をサポートすることが求められます。
経営理念に基づき、中期の事業計画を立てることで、現場で実現すべきKPI(重要業績評価指標)が明確化します。毎年度、その達成状況を分析し、その後の計画につなげるという予実管理によりPDCAサイクルが回り、計画の精度も増していきます。
その場限りではない、実効性の高い事業計画に基づいて経営を行っている会社であると認められることは、金融機関だけでなく、一般投資家や債権者、取引先からの信頼を得ることにも有用です。
もうひとつの効果として、事業承継をスムーズに、良い条件で行うために役立つことがあります。経営者の高齢化により、5年、10年計画で後継者への承継を行うことを見通す企業が増えています。そのような会社では、とくに中期の事業計画策定と、改善策の実行により会社の磨き上げを行うことのメリットは大きくなります。
税理士が、中小企業の事業計画書の作成支援に積極的にかかわることは、市場関係者からも期待されていることです。今後も、その役割はさらに強く求められることが予想されます。事業計画書には、税理士が専門とする財務会計・税務会計に加え、管理会計、また経営コンサルティングなどのスキルと知識が集約されており、会計人としてのステップアップのヒントも詰まっているといえるでしょう。
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