2017年8月21日
経営者の高齢化が進み、事業承継が日本の中小企業の大きな課題となっています。平成29年度の税制改正では、後継者が相続する株式の相続税が納税猶予される事業承継税制の見直しが行われています。導入以来使い勝手について議論が尽きない同税制ですが、今回どう変わったのか、税理士業務への影響とともに考えていきましょう。
事業承継税制は、中小企業等の後継者が、相続や贈与により株式を取得した場合、一定要件を満たせばその株式にかかる相続税の80%が納税猶予される制度。これまで対象となる後継者の範囲や、高いハードルとなる承継後の従業員の雇用要件など、使い勝手の面での改正が繰り返されてきました。
平成29年度税制改正では、雇用要件では従業員5人未満の事業者について、維持すべき人数の実質的緩和が図られています。また、災害や経営環境悪化によって雇用維持が困難な状態になった場合の、セーフティネットも整備されます。大幅な改正とは言えませんが、より中小企業の現実に即したものとなったといえるでしょう。
そして、今回の事業承継税制の改正で最も実務に影響が大きいのは、納税猶予の適用対象となる贈与に相続時精算課税制度にかかるものが加えられたこと。株式を生前贈与した場合、相続時精算課税を適用すれば、評価額は贈与時のものとなり、相続発生時に精算されることになります。
納税猶予を行った場合に実際に影響があるのが、猶予中、雇用要件を満たせなかったなどの理由で認定取消になったとき。認定取り消しの場合、生前贈与だと相続税より高額な贈与税を納税する必要があり、事業承継税制の利用をためらう要因となっていましたが、併用を認めることで相続税と同額とすることができるようになります。
同年度の改正により、生前贈与による納税猶予を行うことのリスクが低減され、使いやすくなったといえます。ただし、選択肢が広がったことで、様々なケース分けを行い、有利になるにはどうすればよいのか、判断を促す必要が生じることになります。そこで期待されるのが税理士によるシミュレーションです。
相続時精算課税の適用については、自社株の株価によって利用すべきか否かが決まります。また、経営環境の変化により状況が変わることがあり、認定取消の際の影響も検討する必要があるでしょう。顧問先企業と長く付き合う税理士だからこそ、財務状況などを見て、最適な方法を考えることができるため、同税制に関する助言の価値はさらに高まるものと考えられます。