2017年1月10日
経済活動のグローバル化により、税務も国境を越えるものとなっています。複数の国に資産を持つ企業や個人、またそれらを顧問先とする税理士は、外国税務当局の動向にも目を配る必要が生じています。そこで注目される新制度が「金融口座情報の自動的交換」。租税回避防止を目的として実施される当制度の概要をみていきましょう。
金融口座情報の自動的交換は、外国への資産隠し、またタックスヘイブンと呼ばれる国や地域を利用した脱税・租税回避防止等を目的に、各国税務当局が、いわゆる「非居住者」として外国に金融機関の口座を持つ者の情報を自動的に交換する制度のことです。
制度構築のきっかけは2014年にOECDが策定した「共通報告基準(CRS: Common Reporting Standard)」。日本を含め多くの国が合意した同基準に基づき、他国の非居住者が保有する金融口座情報を、居住地国の税務当局に対して提供することになります。報告する義務のある金融機関は、銀行や証券会社、生命保険会社等。氏名・住所、残高、利子・配当額などが報告の対象となり、原則として額の多寡にかかわらずすべての口座が対象となります。
自動的交換の受け入れを表明している国・地域は、現在、日本のほか100 以上。先進国、新興国各国のほか、いわゆるタックスヘイブンとして語られることの多い、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島、キプロス等も含まれています。世界的課題となっていたタックスヘイブンに存在する資産の捕捉に、大きな効果を持つ施策となることが期待されています。
金融口座情報の自動的交換制度は、日本では2018年から情報交換が始まりますが、2017年分の情報から交換の対象となっています。平成29年1月1日以後、新たに金融機関等に口座開設等を行う場合、居住地国名等を記載した届出書を金融機関等へ提出することが必要となります。
同制度は、基本的には租税回避を目的とした各国税務当局の動きであり、税理士業務の内容に直接的に大きな影響はないと思えます。しかし、納税者の関心が高いため、国際税務を行う上では当然知っておくべき制度であり、概要等の説明をできるようにしておきたいところです。
もちろん脱税を目的とした資産移動は行ってはならないことですが、違法・脱法行為を行っていない場合であっても、海外に資産を持つ納税者にとって、その資産が国税当局に把握されることのインパクトは大きいでしょう。しばらく「様子見」的に、積極的な節税が控えられるなどといった変化が起きる可能性もあります。顧問先の財産の状況を改めて検討する、コンサルティングのきっかけになるかもしれません。