2017年4月10日
最近の国税当局の姿勢として、国際的な租税回避行為への厳格な対応、富裕層の資産フライトへの監視への注力があります。国外財産調書など、海外資産をターゲットにした税制も整備されています。そんな中、当局から富裕層の海外保有財産の総額などの実態を示す調査結果が発表されました。
平成28年10月、国税庁は平成27年分の国外財産調書の提出状況を発表。現金や有価証券や預貯金などの5,000万円以上の財産について、金額や内容を記載して提出する「国外財産調書」の内容から、財産内容などのデータが示されました。
それによると、平成27年分の調書の総提出件数は、8,893件。そして、提出者が海外で保有する財産の合計はおよそ3兆1,643億円に上りました。なお、前年の同調書についての発表では、総提出件数8,184件、財産合計3兆1,150億円であり、いずれも増加しています。
調書は、平成 24 年度税制改正で創設されており、比較的最近にスタートした制度ですから、今回のデータは、富裕層の海外財産が増えたというよりは、制度の周知、対応が進んだことが大きな要因と言えるでしょう。
国外財産調書の提出者はいわゆる富裕層に当たる人であり、提出義務のない人が大半ですが、いまだ、義務があっても、提出していない人が一定数いるものと思われます。当局が対応を迫られているのもこの不提出者の扱い。新聞報道では、今回のデータに関するニュースと併せ、不提出者と提出者の不均衡を正すため、提出を促していく旨の国税庁のコメントがみられました。
国外財産調書は、適正な自主的提出を確保するため、プラスのインセンティブ、そしてマイナスのインセンティブ措置があります。例えば提出者の加算税の軽減措置、不提出者の加算税の加重措置、そして不提出や虚偽記載には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金の罰則規定もあります。国外財産調書に関する当局の情報提供は、その「取り締まり」の本格化の意思を示すものと言えるかもしれません。
海外財産の捕捉、そして資産フライトによる租税回避の防止は世界的な関心事。罰則の適用事例なども、これから増加し、報道されるケースが増えていくでしょう。税理士としては、国外財産について調書提出のボーダーライン上にいると思われる人に、罰則のことも含め、情報提供をしておく必要があります。国外財産調書に関する業務は、資産税をはじめとした税務顧問契約のきっかけともなり得るだけに、国税当局の動きに注意する必要があるとともに、富裕層に対する業務を広げるうえでも重要と言えるでしょう。