2016年6月6日
税理士による企業への税務コンサルティングで、役員給与は大きな割合を占めます。損金算入の要件を考慮しながら、課税額を計算し、最適な額と支給方法をアドバイスすることが税理士に期待されています。ここで注目したいのが、3月末に成立した平成28年度税制改正。本改正では、役員給与の損金算入について重要な改正が行われています。
役員給与は税額の調整に利用されることが多いため、課税上の要望により損金算入が厳しく制限されています。税法上算入が認められるのは、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与の3種類となっています。
基本的な考え方は、損金算入をするためには役員給与の額や支給方法を事前に決めなくてはならないというものです。賞与など業績連動の給与が認められる余地はあるものの、機動性は高くありません。実際の役員報酬との実態に見合わないという声も大きく、課税の論理が経営の理論と対立する典型的な税制といえます。
業績連動の役員給与については、最近の企業統治の議論の大きなテーマでもあります。たとえばコーポレートガバナンスコードでは、「経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである」、「中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」といった文言があります。
2016年度税制改正では、損金算入が認められる利益連動給与の対象として、営業利益や経常利益を基準にするものに加え、ROEなどの一定の指標を利用可能としています。
ROEとは「自己資本利益率」のことです。会社の規模に応じた儲けを出しているかという資本効率を示すものであり、コーポレートガバナンスコード策定の際にも重視された「稼ぐ力」を示す指標といえます。
また、本改正では、役員給与として譲渡制限付株式を交付した場合の損金算入も可能となりました。こちらも、コーポレートガバナンスコードで言及されている自社株報酬による中長期的な企業価値、株式価値の向上へのインセンティブを税制上後押しするものとして期待されます。
これら役員給与の税制改正には、課税の論理と経営の論理を調整し、課税逃れを防ぎながら企業価値向上を両立させる意図がうかがえます。税理士としては、従来行ってきた役員給与の制度設計についてコンサルティングの選択肢が増え、さらに大きな付加価値を生み出せる可能性があります。税務コンサルと経営コンサルを関連付け最適なアドバイスをできるようにしておくことが必要となりそうです。