2016年10月04日
会計は、自社の経営状況を外部に示し、また税務申告の基礎となり、そして経営の意思決定のための客観資料ともなります。中小企業を取り巻く経営環境が一層厳しさを増すなか、経済産業省はこのほどハンドブックを作成するなど、中小企業が会計の価値を認識し、適切に活用することを推進しています。
経産省は5月「『経営力向上』のヒント~中小企業のための『会計』活用の手引き~」を作成。この冊子では、とくに「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」を経営力強化や資金調達に利用することの意義や方法をわかりやすく記載してあります。
冊子の中心的な内容は、中小会計要領に則った経理体制を作り上げるための5つのステップ。具体的には、まず現金出納帳の作成を手始めに現金管理体制を整備し、資金繰りを安定させるレベル1、発生主義での記帳や月次決算などを取り入れ業績を共有するレベル2、管理会計まで射程を広げ、部門別業績管理の導入、部門長に業績責任を取らせる体制づくりを行うレベル3、そしてKPIの設定、先行利益・資金見込管理などを行い、経営状況の先を読み、先手を打つレベル4、複数年の中長期戦略を全社で共有するレベル5に分け、それぞれの実務ポイントを中小会計要領の基準をもとに解説しています。
また、中小会計要領を活用した際の公的なメリットについても解説。信用保証協会の保証料率割引制度、日本政策金融公庫の優遇金利、中小企業庁などの補助金、個人保証によらない融資制度、今年7月に施行された中小企業経営強化法による「経営力向上計画」等に触れています。会計を活用することによる自社内の経営革新、また公的な支援が網羅的に記載された充実した内容の冊子となっています。
中小企業の会計を力強くサポートするのが税理士。しかし中小会計要領は、いまだ普及が進んでいないとの声があります。2015年3月に公表された第6回税理士実態調査によると、中小会計要領を関与先の会計に使用する税理士の割合は24.3%。中小企業会計指針の18.8%と合わせても決して高い数字とは言えません。
今回公表された冊子にもあるように、経理や会計の体制を整備することは、段階を踏みながら会社の体制を変革するための必須条件となるものです。利益を生み出さない部門としてとかく改善に着手されにくい会計の大切さを中小企業経営者に理解してもらうことが税理士の務めです。それは、とりもなおさず税理士の価値を向上させることにもつながるのではないでしょうか。