2016年3月8日
会社の財務を司る役員、最高財務責任者(CFO)の重要な役割として、資金調達や財務戦略のほか、税務リスクへのプランニングがあります。税務リスクを検討する必要性が増している理由のひとつが、企業活動のグローバル化による国際税務の存在感の高まり。国税庁が行う移転価格税制等の相互協議の件数等から、実態を探っていきましょう。
移転価格税制は、国をまたいだ関連会社間の取引について課税する仕組みで、国家間の課税権の調整の側面があります。国税当局では、移転価格税制の適正・円滑な執行を図るため、各国との相互協議や、納税者の個別取引について行う事前確認を実施しています。
先ごろ発表された「平成26事務年度の『相互協議の状況』」によると、相互協議事案の発生件数は187件。そのうち約80%が事前確認にかかるものとなっています。過去最高となった平成25事務年度からは微減しましたが、相互協議の件数は増加傾向にあり、10年前の平成16事務年度の90件からは倍増しています。
相互協議で処理が終了したケースを業種別にみると、「製造業」が62.4%、「卸売・小売業」が28.4%と、グローバルサプライチェーンのネットワーク構築が進む業種で、国家間の相互協議の必要性が高まっていることがうかがわれます。
また、相互協議事案が発生する取引の内訳は「棚卸取引」が47.4%、「役務提供取引」が35.1%、「無形資産取引」が17.5%となっています。適正な価格をつけることが難しい取引について、企業が税務リスクを慎重にうかがっている様子、また当局が取引内容を注視していることがわかります。相互協議が行われる事案は比較的大きな課税がなされるケースですが、中小企業においても活動がグローバル化しており、潜在的な税務リスクの大きさは増しているといえるでしょう。
移転価格税制等におけるCFOの役割としては、まずは自社の移転価格取引について税務リスクがどれほどあるのかを見極めること。そして会社で頻繁に行われる取引をパターン化し、移転価格についてルールを確立し、税務当局に対する文書の整備等を行うことなどがあります。また、当局の各国との協議の内容、課税の事例を調査し、事前確認の検討なども併せて行う必要があるでしょう。
役員であるCFOは、外部の税理士と異なり、税務リスクを勘案し、戦略上海外取引が最適な選択肢であるか否かの決定そのものに深くかかわります。会計専門家が事業会社で活躍するケースが増えていますが、税務知識とファイナンス等の知識を関連付けて企業の意思決定に関与できる人材の価値は今後も高まっていくでしょう。