2017年8月8日
被相続人が生前にできる相続税対策はいくつかありますが、その中で富裕層の間ではよく知られており、法的な疑念をはらみながら実行されてきたのが、養子縁組による節税です。この相続税の節税目的の養子縁組について、平成29年1月31日、最高裁は民法上無効になるとは言えないと判決を下しました。税務での注意点とともに、同判決の意義を考えてみましょう。
今回判決があった事件は、被相続人の死亡前、息子である相続人が相続税の節税目的で行っていた養子縁組について、その相続人姉妹が、相続人は親子関係をつくる意思を欠いていた等の理由から無効だと訴えたもの。主な争点は、相続税の節税目的で行った養子縁組は有効か否かです。
事実上、節税を目的とした養子縁組は多くの事例があるだけに注目されたこの裁判。一審では養子縁組は有効と判断、二審では無効と判断が分かれていましたが、最高裁は1月31日、節税目的であっても養子縁組は直ちに無効になるとは言えない、としました。
届出が必要とされる親族関係の有効性については、当事者の意思が問題になることがあります。たとえば婚姻は、偽装結婚のように、届出を行っても共同生活を行うなど夫婦関係を結ぶ意思がないと無効となります。一方、離婚は、夫婦の両方に届出を行う意思があれば成立します。養子縁組は、縁組をする意思がなければ無効ですが、今回の判決で、節税目的であっても養子縁組の意思が否定されるわけではないと判断されたことになります。
相続税法では、実子がいる場合には1人、実子がいない場合2人まで、養子を法定相続人の数に含めることができ、基礎控除額を増やすことができます。ただし、「養子の数を相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」は算入できないとされています。
「不当に減少」という言葉の定義は難しいところです。実質的には、ほぼ否認されることなく、節税対策として使われているのは、養子縁組が親子関係をつくるというデリケートな行為であり、当事者が何を目的にしているのかという真意に立ち入ることが難しい、という事情があるからだと思われます。
今回の判決により、節税対策としての養子縁組について、今までと変わることはないとも言えます。しかし、今回の判決により、相続税法で養子縁組による節税が否認されている「不当に減少させる」ケースに注目が集まることになり、当局が何らかの見解を出す可能性もあります。今回の判決の結果にかかわらず、税法の運用には常に注意を払い、無理のある節税対策による否認リスクについては自覚的であるべきでしょう。