2017年7月3日
相続業務では、市場価格のない相続財産の評価が大きな課題。とくに取引相場のない株式(非上場株式)の評価は事業承継との関連もあり、税理士が取り扱うことが多い業務の一つです。平成29年度税制改正では、この非上場株式の評価方法に変更があり、実務への影響に注目が集まっています。
平成29年度税制改正では、相続税等の計算の際の非上場株式の評価方法について「時価主義の下で、比較対象となる上場会社の株価並びに配当、利益及び純資産という比準要素の適切なあり方」を検討し、評価方式の一つである類似業種比準方式の扱い等に変更がなされました。
非上場株式の時価は、会社規模による区分に基づき、類似業種比準方式または純資産価額方式、その2方式の併用方式と計算方法が分かれます。改正では区分の見直しにより、類似業種比準価額の比率が大きくなる大会社や中会社の範囲が拡大しています。これにより、とくに中規模企業の非上場株式の評価額は比較的低くなる可能性があります。
また、類似業種との比準で使われる、「配当金額」、「利益金額」、「簿価純資産価額」の比重が1:3:1から1:1:1に変更。従来、評価額を下げるため利益を圧縮したり、損失を計上するなどといった方法がありましたが、改正後は株価対策のために、利益を調整する余地が狭まったといえるでしょう。
また、類似業種比準方式による株価算定の基となる、類似業種の上場株式の株価の計算方法にも重要な変化があります。これまでは、前3か月の平均や、前年平均の株価を基準としていましたが、今回の改正で「前2年平均」を追加。これにより、上場株式の短期的な価格変動による影響が少なくなったといえます。
自社株の株価については、個別的な会社の業績の状況にもよるため一概には言えませんが、全体的な傾向としては、複雑な計算や不確実性のリスクが低くなり、事業承継を考える中小企業経営者が、早期の承継をしやすくする変更といえます。
事業承継対策が必要でありながら二の足を踏んでいる企業、オーナー経営者は多いといわれます。専門的な知見が求められる非上場株式の評価について、実務能力を期待される税理士として、承継を検討する企業に今回の改正点を踏まえながら、改めて話し合いの機会を設けることを提案してみてはいかがでしょうか。