■税理士の残業時間、平均はどのくらいか?
税理士の残業時間を正確に示す公的な統計データは存在しません。業界全体をカバーする公式な調査がなく、残業時間は事務所の規模・方針・担当クライアントの構成によって大きく異なるため、一律の「平均値」を出すことが構造的に難しい業界です。
そこでひとつの参照点として、まず一般企業との比較を見ておきましょう。厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報」によると、日本全体の月間平均残業時間は10~15時間程度です。一方、実際に会計事務所で勤務した税理士の声を聞くと、この数字とは大きくかけ離れた実態が浮かび上がってきます。
都内の税理士事務所・税理士法人で約10年の実務経験を持つ税理士の定岡佳代先生は、複数の会計事務所に勤務した経験をもとに、繁忙期の残業について次のように語っています。「いくつかの会計事務所の繁忙期の平均残業時間は月50時間程度でした。最も忙しい時期で1日の残業が4〜5時間。周りの会計事務所勤務の方をみても、残業時間は最も忙しい時期で月50〜60時間ほどではないでしょうか」(
【税理士が語る】会計事務所の繁忙期はいつ?どのくらい忙しい?
より)。
この体感値が示すように、繁忙期の残業は一般企業の平均(月14時間)の3〜4倍に達することもあります。一方で定岡先生は「繁忙期でも19時には帰れる日もあった(定時は18時半)」とも話しており、同じ繁忙期のなかでも日によってばらつきがある点も実態の一側面です。
税理士の残業時間の最大の特徴は、「年間平均」では語れないほど、時期による振れ幅が大きいことにあります。閑散期(6〜11月)はほとんど残業が発生しない事務所も多い一方、繁忙期(12〜5月)には月50〜60時間、事務所によっては月100時間を超えることもあります。どの事務所に入り、どのクライアントを担当するかによって、同じ業界でもまったく異なる働き方になり得るのが実情です。
■時期によってこれだけ違う“繁忙期・閑散期の残業実態”
税理士の仕事は、季節によって業務量が大きく波打つという特性を持っています。大まかには12月から翌年5月が繁忙期、6月から11月が閑散期とされていますが、担当するクライアントの構成によってその波の形は事務所ごとに異なります。
⑴12〜1月は年末調整と法定調書の提出で残業が増える時期
12月に入ると、顧問先の従業員に係る年末調整業務が本格化します。各従業員の扶養情報や各種控除の確認・集計、源泉所得税との差額精算、そして1月末期限の法定調書合計表・給与支払報告書・償却資産申告書の作成と提出が重なり、徐々に残業が増えていく時期です。特に顧問先の従業員数が多い場合や、顧問先の数が多い担当者ほど、この時期の負荷は高くなります。
⑵2〜3月は確定申告が重なり、年間で最も忙しいピークを迎える
個人事業主や副業収入のあるサラリーマン、不動産所得者など、確定申告が必要な個人クライアントを多く抱えている場合、2月16日から3月15日の申告期間は年間で最も業務が集中する時期です。書類収集から申告書作成・電子申告まで、短期間に多くの案件を処理しなければならず、この期間の残業は必然的に増加します。深夜対応や土日出勤が発生する事務所も珍しくありません。また、インボイス制度の導入以降は消費税の確定申告が加わる個人クライアントも増加しており、3月末まで対応が続くケースも出てきています。
⑶4〜5月は法人の決算対応で「第二の繁忙期」
確定申告が落ち着いた後、今度は3月決算の法人クライアントへの対応が本格化します。国税庁のデータによると、日本の法人の約2割が3月決算を採用しており、申告期限は決算月から2か月後の5月末となります。担当する法人クライアントが多い事務所では、この時期にも相当量の残業が発生します。さらに5月はゴールデンウィークによって実質的な営業日数が少ないため、限られた日数に業務が圧縮され、残業時間が集中しやすいという事情もあります。
⑷6〜11月の閑散期は、残業がほぼ発生しない事務所も多い
この時期は申告期限が迫る書類が少なく、月次巡回や月次決算の確認、資料整理が業務の中心になります。定時退社が当たり前になり、有給休暇を取得しやすい時期でもあります。ただし、5〜6月決算の大口クライアントを担当している場合は夏まで繁忙期が続くこともあり、すべての担当者が同じように閑散期を享受できるわけではありません。税理士試験の勉強を並行したい方は、閑散期をどれだけ確保できるかを事務所選びの軸のひとつにすると良いでしょう。
■事務所の規模・種類によって残業時間はこんなに変わる
同じ税理士でも、どの規模・種類の職場に属するかによって、残業の量と質は大きく異なります。転職を検討する際には、業界全体の平均よりも「どこで働くか」という視点がより重要です。
⑴大手・準大手の税理士法人は、分業制によって個人の負担が分散される
BIG4と呼ばれる大手税理士法人や準大手規模の法人では、業務が部門・チーム単位で分担されており、特定の担当者に過度な負荷が集中しにくい体制が整っています。クラウドシステムや業務管理ツールの導入も比較的進んでおり、繁忙期であっても残業が過度に増えない傾向があります。ただし、担当案件の規模が大きく高い専門性が求められるため、プレッシャーや業務密度の高さはそれなりにあります。
⑵中小規模の会計事務所は、一人当たりの担当件数が多く繁忙期の負荷が大きい
いわゆる「街の会計事務所」と呼ばれる中小規模の事務所では、少人数のスタッフで幅広いクライアントを対応するため、繁忙期には一人当たりの業務量が膨らみやすい傾向があります。業務の標準化が十分でなく、担当者ごとの進め方に差がある場合は、効率が落ちてさらに残業が増えるという悪循環に陥ることもあります。
一方で、業務の全体像を早い段階で把握できる点や、直接クライアントと信頼関係を築ける点にやりがいを感じる方も多く、残業の多さとキャリアの充実度はトレードオフの関係になりがちです。
⑶企業内税理士は、会計事務所ほどの繁閑差がなく比較的安定した働き方ができる
一般企業の経理・税務部門に勤める企業内税理士は、会計事務所のような申告期限の波に直接さらされるわけではないため、年間を通じて残業時間が比較的安定している傾向があります。決算期(3月・6月など)には業務が増えますが、大幅な残業が発生するのは限定的です。ワークライフバランスを重視したい方にとっては、企業内税理士というキャリアパスは有力な選択肢となります。
⑷特化型事務所は、専門分野によって繁忙期のパターンが異なる
資産税(相続税・贈与税)に特化した事務所は、確定申告期の繁忙が比較的少なく、年間を通じて残業時間が安定している傾向があります。一方、飲食業やフリーランスに特化した事務所は個人事業主のクライアントが多く、確定申告期の負荷が大きくなりがちです。医療法人特化型の場合は決算月が集中しやすく、その時期に残業が集中するパターンが見られます。特化型を選ぶ際には、自分の専門領域とその繁閑のサイクルを事前に理解しておくことが大切です。
⑸独立開業すれば、残業時間を自分でコントロールできる自由度が生まれる
自らが事務所を開設した場合、受注する案件の数や種類を自分で調整できるため、理論上は働き方を自在にコントロールできます。通勤時間がなくなる自宅開業を選べば、時間の使い方の効率もさらに上がります。ただし独立初期は顧客開拓に奔走する時間も必要であり、「開業すれば楽になる」とは限らない面もあります。ある程度の経験とクライアントベースを積んだうえで独立するのが、働き方の改善を実現するための現実的なルートといえるでしょう。
■なぜ税理士事務所は残業が多くなるのか?4つの理由
残業時間の改善策を考えるためには、なぜ残業が生じるのかという構造的な原因を理解することが不可欠です。税理士業界の残業が増えやすい背景には、業界特有のいくつかの要因が絡み合っています。
まず最も根本的な理由は、
申告期限が法律で定められており、業務が特定の時期に強制的に集中する
という点です。確定申告の3月15日、法人税の決算月から2か月以内という期限は動かせません。そのため、どれだけ平時から準備を進めていても、期限直前に業務が集中する構造は避けられません。これは業界全体に共通する宿命的な特性です。
次に挙げられるのが、
顧問料の低価格競争による人材投資余力の不足
です。中小の事務所を中心に、新規顧客を獲得するために顧問料を下げる傾向が続いてきました。薄利多売の経営が続くと、人員採用やITツールの導入に充てる原資が確保できなくなり、少ない人数で多くの業務を回さざるを得なくなります。結果として、一人当たりの業務負担が増え、残業が慢性化するという悪循環が生まれやすくなります。
また、
業務の属人化と標準化の遅れ
も大きな要因です。会計事務所の業務は、顧問先ごとに記帳ルールや会計処理の方法が異なることが多く、担当者が変わると大幅なキャッチアップが必要になります。マニュアルが整備されておらず、業務が特定のベテランスタッフに集中している事務所では、退職者が出るたびに残業が増えるという事態が繰り返されます。
さらに、
ITツールの導入が遅れている事務所では、手作業による業務が残業の温床になりやすい
という問題もあります。クラウド会計ソフトや自動仕訳ツールを導入すれば、記帳代行の作業時間は大幅に短縮できますが、紙ベースの資料をExcelで手入力するといった非効率な業務フローが残っている事務所では、時間を浪費し続けることになります。近年はDX化が加速していますが、まだすべての事務所が同じスピードで対応できているわけではありません。
■残業が多い事務所にある5つの特徴
転職や就職を検討する際に、入所前から「残業が多そうな事務所」を見極めておくことができれば、ミスマッチを防ぐことができます。残業が多くなりやすい事務所には、いくつかの共通したパターンがあります。
⑴業務の分担が機能していない
ひとつ目は、
有資格者やベテランスタッフが記帳・入力作業まで一手に担っているケース
です。本来であれば補助スタッフやパートスタッフが担う記帳・入力業務を、税理士資格者が全部一人でこなしている事務所は、業務の分担が機能していないことを意味します。スキルに見合わない業務が積み重なれば、当然こなすべき時間も増えていきます。
⑵担当クライアント数が多すぎる
ふたつ目は、
一人当たりの担当クライアント数が多すぎる
ことです。一般的に会計事務所スタッフ一人あたりの顧問先件数は30〜50件程度が多いといわれていますが、事務所によっては70件、100件近くを担当するケースも存在します。件数が多ければ、それだけ繁忙期の処理件数も増え、残業時間に直結します。
⑶IT化・クラウド化に消極的
三つ目は、
IT化・クラウド化に消極的な事務所
です。いまだに紙の資料をベースに手作業で処理している事務所や、古い会計ソフトをそのまま使い続けている事務所は、業務の効率改善が進んでいないことが多く、同じ業務量をこなすのにかかる時間が相対的に長くなります。
⑷常時求人を出し続けている
四つ目は、
離職率が高く、常時求人を出し続けている事務所
です。求人サイトで同じ事務所の求人を繰り返し見かける場合、人が定着しない何らかの理由がある可能性があります。慢性的な人手不足が続いていると、残っているスタッフにしわ寄せがいき、残業が増える悪循環に陥りがちです。
⑸制度・ルールが属人的に運用されている
五つ目は、
所長の裁量が強く、制度・ルールが属人的に運用されている
小規模の個人経営事務所です。会計事務所は5名以下のスタッフで運営される小規模な組織が多いです。経営者個人の価値観や働き方への考え方が職場文化をそのまま形成するため、所長がサービス残業を当然視するような環境では、改善が難しいことがあります。
■残業が少ない職場を見極めるには?面接で確認したいこと
残業が少ない職場かどうかは、求人票だけでは判断しきれない部分があります。面接の場を活用して、具体的な情報を引き出すことが転職成功のポイントになります。
⑴残業時間の確認
まず、求人票で確認すべき点として「残業時間の記載方法」があります。「繁忙期は〇〇時間程度」と具体的な数字が書かれている求人は、労働環境をオープンに開示しようとしている事務所である可能性が高いです。一方で「残業ほぼなし」「アットホームな環境」など曖昧な表現が目立つ場合は、実態を確認する必要があります。
⑵具体的な質問例
面接では、以下のような質問を具体的に投げかけてみると実態がつかみやすくなります。「昨年の繁忙期(2〜3月)の平均残業時間はどのくらいでしたか?」「一人あたりの担当クライアント数はどのくらいですか?」「クラウド会計ソフトはどのシステムを使っていますか?」「年末調整業務はどのように分担していますか?」といった問いかけは、事務所の実務体制を把握するうえで非常に有効です。
⑶残業時間が少ない事務所の特徴
残業が少ない事務所には、共通していくつかの特徴があります。まず、複数名の税理士や会計士が在籍しており、業務をチームで支え合える体制があること。次に、記帳や入力作業を補助するアシスタント職が機能しており、有資格者が付加価値の高い業務に集中できる分業制が確立されていること。そして、クラウド会計や自動仕訳ツールの導入に積極的で、業務効率化に前向きな文化があることです。
また近年は、働き方改革の流れを受けて「残業削減の取り組みを積極的に進めている事務所」が明確に増えてきています。採用サイトや事務所ホームページに働き方改革の取り組みを掲載している事務所は、そうでない事務所と比べて実態的にも改善が進んでいるケースが多いです。転職エージェントを活用すれば、表に出にくい職場の内情を事前に確認できることもあるため、積極的に情報収集することをお勧めします。
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■残業を減らしたいなら、転職先の選択肢はどう広がるか
現職の会計事務所での残業に悩んでいる場合、転職という選択肢を検討する価値は十分にあります。税理士の資格やスキルを活かせる職場は、会計事務所だけに限りません。
⑴より規模が大きく体制が整った職場への転職
まず検討したいのが、
同じ会計事務所・税理士法人の中でも、より規模が大きく体制が整った職場への転職
です。中小規模の事務所から大手税理士法人や準大手クラスの法人に移ることで、分業制やITインフラの恩恵を受けられるようになり、繁忙期の個人負担を大幅に軽減できる可能性があります。専門性を磨きながら働き方を改善したい方に向いている選択肢です。
⑵企業内税理士としてのキャリア
次に有力な選択肢が、
企業内税理士としてのキャリア
です。事業会社の経理・税務部門に入ることで、クライアントへの対応に追われる会計事務所とは異なる、安定した業務サイクルの中で働くことができます。大企業であれば制度面(有給取得率、残業管理など)も整っていることが多く、ワークライフバランスを重視する方に適したキャリアパスといえます。
⑶将来的な独立開業を見据えたプラン
また、将来的な独立開業を見据えて、まず
管理可能な案件数の事務所に移籍しながらクライアントを少しずつ確保していくという段階的な方法
も現実的です。独立すれば自分で仕事量をコントロールできる一方で、収入の不安定さや顧客開拓の苦労も伴うため、準備を十分に整えたうえで判断することが大切です。
いずれの選択肢においても、転職の目的を「残業を減らすこと」だけに絞るのではなく、「自分がどういうキャリアを築きたいか」という視点とセットで考えることが、長期的な満足度につながります。会計・税務特化の転職エージェントに相談することで、公開されていない非公開求人の情報や、職場の内情に基づいたアドバイスを得られることも多いため、ぜひ活用してみてください。
■まとめ:残業と上手に付き合いながら働くためのポイント
税理士業界にいる以上、繁忙期の残業をゼロにすることは現実的ではありません。しかし、残業の増えやすい時期であっても、日頃の工夫次第で体への負担を和らげ、仕事のクオリティを維持することは十分可能です。
まず大切なのは、
閑散期の時間をいかに有効に使うか
という点です。6〜11月の比較的余裕のある時期に、次の繁忙期に向けた資料整理や顧問先とのコミュニケーション強化を進めておくことで、繁忙期の処理が格段にスムーズになります。この時期に税理士試験の勉強や資格取得のための学習時間を確保することも、長い目で見たキャリア投資になります。
次に、
業務の優先順位を明確にする習慣
が残業時間の短縮に直結します。締め切りが近い案件から逆算してスケジュールを組み、「今日中に必ずやること」と「翌日以降に回せること」を意識的に仕分けるだけで、業務の流れが大きく変わります。繁忙期には次々と新しい依頼が舞い込むため、優先度の管理を怠ると残業が雪だるま式に増えていきます。
最後に、自分の体と健康を守る意識を持つことの重要性を忘れてはなりません。税理士は数字の正確さが問われる仕事であり、疲れが蓄積した状態ではミスが増え、それが余計な修正作業となって残業をさらに増やすという悪循環に陥ることがあります。繁忙期こそ、睡眠・食事・適度な運動といった基本的な体調管理に気を配りながら、メリハリのある働き方を維持していきましょう。
税理士の残業時間は、職場の選び方と自分自身の働き方の工夫によって、大きく変えることができます。現状に悩みを感じているのであれば、まず自分がどういう環境で働きたいのかを整理し、その条件に合った職場を探すことが最初の一歩です。ジャスネットでは、会計・税務に特化した転職支援を行っており、働き方の改善を目的とした転職相談にも対応しています。ぜひお気軽にご登録ください。
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ジャスネットキャリア編集部
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