■iPadを活用することで解決できる問題
わたしが税理士業務にiPadを取り入れようと思ったきっかけは、かつて資格取得のために通っていた大学院の教授が、iPadを使って効率的に論文指導されていたからです。
その教授は論文の添削をお願いすると、様々な色でわかりやすくiPad上で書き込んだものをすぐに返却してくださるため、やりとりが非常にスピーディーでした。そのときiPadの便利さに感動し、将来税理士として仕事をする際もiPadを活用すれば、業務時間が短縮され、より多くの業務をこなせるのではないかと考えたのです。
●当時の添削された論文データ
紙印刷により業務を行う場合、そもそも問題点として、どのようなことがあるでしょうか。
考えられるものに下記のようなことがあげられます。
手書きのメモを残したいものは最終的にPDF化して保存するが、「いったん紙印刷→ペンで書き込む→再度スキャンしてPDF化」という手間がかかる
紙印刷が多くなれば、シュレッダーにかけて廃棄する量も多くなる
同じ資料を何度も印刷すると、最新のものがどれかわからなくなる
こういった小さな手間の積み重ねは、いずれ全体の業務に大きな影響を与えます。しかしiPadを使用することで、これらの問題を解決することができるのです。
■iPadではどんなことができるのか?
では実際にわたしがiPadをどのように活用しているのかについて、お話ししたいと思います。わたしが所有しているのは、下記の2つです。
iPad mini 第6世代
Apple Pencil 第2世代
●わたしが所有するiPad miniとApple pencil
1. 購入価格など
iPad miniを購入したのは2022年12月です。その当時で本体価格が約8万円、Apple pencilが約2万円、計10万円前後だったかと記憶しています(Apple pencilと同様の機能をもつペンシルがAmazonで1万円以下の価格でたくさん販売されていますので、価格はもう少し抑えられると思います)。
2. iPadの便利な機能
iPadの便利な機能や点をあげると、下記の通りでしょうか。
起動がスマホと同じくらい早い
Kindleアプリで電子書籍を読める
カメラ機能で撮影ができる
クラウド上の資料を閲覧できる
これらの機能はスマホやPCでも代用できるものですが、iPadならではの機能は「Apple pencilを使って文字・図が書ける」 ということです(Apple pencilが使えるiPad製品であるかは購入前に確認が必要です)。
そして、数あるiPad製品の中でなぜiPad miniを選んだかといいますと、片手に収まるサイズ感で持ち運びやすく、iPadシリーズの中では比較的軽量で、携帯するのに最適だと思ったからです。
3. アプリ「Good notes」を活用する
iPadではPDFデータのままだと直接文字・図を書くことはできません。文字・図を書くためには、「Good notes」などのアプリを活用する必要があります 。
インストールは無料で行えますが、無料版では作成できるノートの数に制限があるため、日常的に利用するためにも有料版をおすすめします。わたしが購入したのは「Good notes 5」で、有料版は1,500円でした(月額払いではなく買い切り)。
※2023年8月9日にGood notes6が4年ぶりにリリースされました。年間サブスクリプションでは年額1350円、買い切り型では4080円とのことです。
https://support.goodnotes.com/hc/ja/articles/7436120592015/
PDFデータや写真をアプリに取り込みApple Pencilで書きこむ、書きこんだ資料をPDF化する、アプリ内の資料をノートのように綴り整理する…など、このアプリでは様々な便利機能があります。同様のアプリは他にも多数ありますので、無料版を使用してみて自分に合ったものを選ぶとよいのではないでしょうか。
■実際に税理士・会計事務所でiPadを活用する
1. 申告書チェックをペーパーレスで行う
たとえば税理士・会計事務所において、先輩所員が後輩所員の作成した法人税申告書をチェックする場合に、iPadを活用するメリットは大きいと思います。
申告書をPDFにしたものをGood notesアプリで取りこみ、iPad mini 上でApple Pencilを使ってチェックし、再度PDF化する…この流れでチェックすると非常に効率的です。
法人税申告書と見比べるのは、決算報告書や勘定科目内訳書など です。iPad miniは2画面並べると画面が小さいため、わたしはiPad miniには申告書を、PC画面には比べる資料を表示し、手元の申告書にApple Pencilで書き込んでチェックしています。
iPad miniの画面は指でタッチして容易に拡大縮小できます。手元のiPad miniで書き込んだものをそのまま保存し他者に送ることができるため、完全ペーパーレスかつスピーディーに作業をすすめることができるのです。特にリモートワークでは、この方法が役立つ のではないでしょうか。
2. 顧問先との打ち合わせで資料提示
顧問先との打ち合わせにて、月次の試算表を持参し説明する機会があると思います。もちろんPCでも試算表を表示することは可能なのですが、iPadであれば一瞬で立ち上がり、お客様にiPadをお渡しして紙と同様に手元で確認していただく ことができます。
たとえばお客様に紙で渡す資料は最低限の試算表、より詳細な資料はiPad で提示することで、持参する紙資料を極力少なくすることができます。またiPadで提示した資料をお客様に欲しいといわれた場合は、その場でiPad からメール添付して送信することもできます。
万一、出先で紙資料の間違いに気づいてしまい、すぐに紙で印刷するのが難しい状況でも、その場でPCなどで修正しiPadで閲覧していただくと、スマートな対応で好印象が得られる と思います。
このようにお客様との打ち合わせにおいても、iPad は心強い味方になってくれます。
3. 廃棄資料の削減
申告書チェックや資料提示を紙で行うことを減らせば、廃棄する紙資料も減ります。会計事務所では個人情報を多く扱いますので、廃棄する際にはシュレッダーにかけることが必要です。紙印刷が減るとシュレッダー業務も減らせますので、一石二鳥といえます。
4. 資料や書籍を簡単に持ち運べ、オリジナルの資料を作成できる
わたしは減価償却資産の耐用年数表など、資料として100ページを超える分量があるものもiPadに保存し、自分なりにメモを書き込んで持ち運んでいます。
こうすることで、どこでも容易に確認することができます。さらに、自分がよく使う資料をデータ化し書き込みすれば、個人的な虎の巻 として常備しておくことができます。しかも何冊も本を持ち歩くことなく、iPadを携帯するだけで何冊分もの情報をいつでも確認できる のです。
また、書籍や紙の資料に書き込みすると、前の書き込みを消すことは難しいですが、データ上で書き込みしたものは容易に修正・削除することができます 。
このように、紙印刷でおこりうる管理の手間、紛失のリスクも、データ化することで最小限に抑えられるというメリットがあります。
●減価償却資産の耐用年数表にiPad上で書き込んだもの
税務関連の書籍はkindle対応されていないものも多いので、個人的に必要なものはPDF化して保存しておくなどの使い方もできます(ただし、このような書籍をPDF化したものはあくまで個人的なものとして使っており、他人との共有には注意が必要です)。
■その他、iPadの活用方法
その他、わたしはiPadを使って日々のタスク管理 を行っています。
やるべきことを付箋や紙に書いてデスク周りに貼っていたのに、いつの間にかどこかにいってしまった…という経験はないでしょうか。これを防ぐために、Good Notesのタスク管理のテンプレートを使って、iPadに書き込むようにしています。
Good Notesの書き込み画面では、「なげなわツール」 という便利な機能があり、書いたタスクの位置を簡単にずらせます。タスク管理テンプレートにタスクを書き込み、済んだタスクはチェックをして、ある程度チェックが増えたら消しゴム機能で消します。残ったタスクの間が広がりますが、なげなわツールを使って間を詰めることで、より見やすいタスクを表示することができます 。
①済んだタスクをチェックする
②済んだタスクは消しゴム機能で消し、なげなわツールで移動したい箇所を囲む
③なげなわツールでタスクの間を詰めて見やすくする
iPadには様々な機能があり、まだまだ完璧に使いこなしているとは言えませんが、わたしにとっては仕事になくてはならないものとなっています。個人的には業務にiPadを取り入れることはプラスしかない と思っており、iPadを活用してオリジナリティを増やせば、日々の業務が楽しくなりますし、さらに効率化につながります。
またiPadには様々な種類がありますので、購入価格やメインの用途によって納得できるものを選んでみてください。わたしはiPhoneユーザーのためiPadをご紹介しましたが、アンドロイドユーザーの方はそれに対応したタブレットを選んでもよいかと思います。
Good notes はPC版もあるようですので、資料への書き込みはそれを使用してもいいと思うのですが、やはり手軽さではタブレットに軍配が上がる のではないかと思います。
趣味の絵を描くのにもiPadは使えます。実はこのコラムの冒頭の絵も、わたしがiPad上でGood Notesのアプリを使って描いたものなのです。
このコラムが、少しでもみなさんの業務効率化のご参考になれば、大変うれしく思います。
執筆者プロフィール
定岡 佳代(さだおか かよ)
税理士
兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。
関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。
硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。
「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。
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