■なぜ会計事務所の規模によって働き方がこれほど違うのか
全国には税理士法人や会計事務所が約3万前後(推計)存在し、そのうち一般的に大手と呼ばれる税理士法人は数十社程度、中規模事務所が数百社、残りの大部分は所長を含めて数名から十数名程度の小規模事務所あるとされています。この規模の違いは、単に職員数の多寡だけでなく、組織体制、業務内容、キャリアパス、働き方など、あらゆる面で大きな差を生み出しています。転職を検討する際には、この規模別の特徴を正確に理解することが極めて重要です。
⑴大手税理士法人
大手税理士法人は、数百名から数千名規模の組織を擁し、上場企業や大企業をクライアントに持つことが特徴です。業務は高度に専門化されており、法人税務、国際税務、M&Aアドバイザリー、相続税務など、部門ごとに分かれています。
体系的な研修制度が整っており、新人教育やスキルアップ支援も充実していますが、一方で業務が細分化されすぎて、幅広い実務経験を積みにくいという側面もあります。また、組織が大きいため、昇進には時間がかかり、パートナーになるには相当な年数と実績が必要になります。
⑵中規模事務所
中規模事務所は、職員数が20名から100名程度で、中堅企業や成長企業をメインクライアントとしています。大手ほどではないものの、ある程度の組織体制が整っており、専門分野ごとのチーム編成がなされていることが多いです。
大手と小規模事務所の中間的な性質を持ち、専門性と幅広さのバランスが取れた経験を積める可能性があります。ただし、事務所によって組織文化や方針が大きく異なるため、個別の見極めが重要です。
⑶小規模個人事務所
小規模個人事務所は、所長税理士を中心に数名の職員で運営されており、全国の会計事務所の大多数を占めます。クライアントは中小企業や個人事業主が中心で、一人の担当者が記帳から申告、コンサルティングまで幅広く担当することになります。
所長との距離が近く、経営判断や顧客対応を間近で学べる一方、体系的な教育制度がなく、所長の人柄や経営方針に職場環境が大きく左右されます。また、業務の標準化が進んでおらず、効率的なシステムが導入されていない事務所も少なくありません。
■会計事務所への転職を後悔する理由4つ
理由①繁忙期の過酷な労働環境
会計事務所への転職後に後悔する理由として最も多く挙げられるのが、繁忙期の過酷な労働環境です。確定申告期間である2月から3月、法人の決算期が集中する5月や12月には、連日深夜までの残業が続き、休日出勤も当たり前という状況も珍しくはありません。
求人票には「残業月30時間程度」と記載されていても、それは年間平均であり、繁忙期には月80時間から100時間を超えるケースもあります。特に小規模事務所では、人員に余裕がないため、一人あたりの負担が極端に大きくなる傾向があります。
前職が一般企業だった方の多くは、この繁忙期と閑散期の業務量の差に驚きます。閑散期には定時で帰れる日もあるものの、繁忙期には連日終電まで働く日々が続き、家族との時間が完全に失われてしまうという声が多く聞かれます。
申告期限は絶対であり、ミスが許されないプレッシャーの中で膨大な業務をこなさなければならない精神的負担も大きく、この環境に適応できず退職を決断する方も少なくありません。
理由②業務内容に関するギャップ
二つ目の大きな後悔理由が、業務内容に関する期待と現実のギャップです。多くの転職希望者は、税務や会計の専門的なコンサルティング業務を想像して入社しますが、実際には記帳代行や資料整理といった定型的な作業が大半を占めることに驚きます。
特に小規模な事務所では、専門性の高い業務は所長や一部のベテラン職員が担当し、新人や中途入社者には基礎的な作業が割り当てられることが一般的です。税理士資格を持って転職した方でも、節税提案や事業承継のアドバイスなど高度な業務に携わる機会がほとんどなく、資格を活かせないまま時間が過ぎていくという不満を抱えることがあります。
理由③人間関係の問題
三つ目は人間関係の問題です。多くの会計事務所は少人数で運営されており、所長を頂点としたトップダウン型の組織形態を取っています。所長との相性が悪い場合や、所長の経営方針に疑問を感じた場合でも、意見を言いにくい雰囲気があります。大手企業のように複数の部署があり、異動によって環境を変えることができないため、一度人間関係に問題が生じると、その状況から抜け出すことが困難になります。
パワーハラスメントに該当するような厳しい叱責が常態化している事務所も残念ながら存在し、精神的に追い込まれてしまうケースもあります。
理由④給与体系の不透明さ
四つ目は給与体系の不透明さです。求人票に記載されている年収は、残業代や賞与を含めた最大値であることが多く、実際の基本給は想定よりかなり低いケースがあります。特に小規模な事務所では、みなし残業制を採用していることが多く、月に何十時間残業しても追加の残業代が支払われない仕組みになっている場合があります。
また、昇給や賞与の基準が明確でなく、所長の裁量で決まるため予測できない事務所も多く、長期的なキャリアプランが立てにくいという問題があります。
■どうすればいい?転職前に事務所の実態を見極める方法
会計事務所への転職で後悔しないためには、入社前の徹底した情報収集が不可欠です。求人票の情報だけでは実態を把握することは困難であり、面接時に具体的な質問を投げかけることが重要になります。
⑴繁忙期の実際の労働時間について聞く
まず確認すべきは、繁忙期の実際の労働時間です。「繁忙期は月にどの程度の残業がありますか」「最も忙しい時期の帰宅時間は何時頃ですか」「休日出勤の頻度はどの程度ですか」といった具体的な質問をすることで、求人票には表れない実態を把握できます。
⑵職員の定着率や退職の傾向を尋ねる
現在働いている職員の定着率や、これまでどのような理由で退職される方が多かったのかを確認しておくことも、職場を理解するうえで役立ちます。人の入れ替わりが多い職場には、業務量や体制などに何らかの特徴がある場合もあります。一方で、長く働いている職員が多く、それぞれが活躍している事務所であれば、比較的安定した環境が整っていると考えられるでしょう。可能であれば、面接の場で実際に働いている職員の方と少しお話しさせてもらい、職場の雰囲気や日々の働き方について直接話を聞いてみるのも参考になります。
⑶実際の業務内容を把握する
業務内容の実態を把握するためには、「入社後最初に担当する業務はどのようなものですか」「どのような顧問先を担当することになりますか」「キャリアアップに伴って業務内容はどう変化しますか」といった質問が効果的です。
また、事務所が注力している分野や、今後強化していきたい領域についても確認しておくことで、自分のキャリアビジョンと合致するかどうかを判断できます。専門性を高めたい分野がある場合は、その分野の案件がどの程度あるのか、担当できる可能性はあるのかを具体的に聞いておくべきです。
⑷教育体制についても確認する
教育体制についても詳しく確認する必要があります。「新人に対する研修プログラムはありますか」「指導担当者は配置されますか」「業務マニュアルは整備されていますか」といった質問を通じて、入社後のサポート体制を把握できます。特に未経験者や経験の浅い方にとって、充実した教育体制があるかどうかは、その後の成長を大きく左右します。また、資格取得を目指している場合は、試験休暇の取得実績や勉強時間の確保についても確認しておくことが重要です。
■特に気になる!給与体系の詳細確認は転職成功の鍵
給与や待遇面での後悔を避けるためには、給与体系の詳細を明確に確認することが極めて重要です。ただし、面接時に条件面ばかりを確認すると印象が悪くなる恐れもあります。内定後のオファー面談や転職エージェントを利用して確認するのもいいでしょう。
⑴求人票の年収構成を確認
求人票に記載されている年収が、基本給、固定残業代、賞与それぞれいくらで構成されているのかを具体的に聞くべきです。「年収400万円」と書かれていても、基本給が240万円で、月40時間分のみなし残業代が含まれているケースもあります。この場合、繁忙期に月80時間働いても追加の残業代は支払われず、時給換算すると想定より大幅に低くなってしまいます。
⑵昇給や賞与の基準
昇給や賞与の基準についても明確にしておく必要があります。「昇給は年にどの程度ありますか」「賞与は何ヶ月分ですか」「業績によって変動しますか」といった質問を通じて、長期的な収入の見通しを立てることができます。
特に重要なのは、資格取得に伴う手当や昇給の有無です。税理士試験の科目合格や資格取得によってどの程度給与が上がるのか、具体的な金額を確認しておくことで、資格取得へのモチベーションを維持しやすくなります。
⑶福利厚生
福利厚生面では、社会保険の加入状況、退職金制度の有無、各種手当の内容などを確認します。法的には社会保険加入が義務ですが、実態としては未加入の事務所も存在するため注意が必要です。
また、資格取得支援制度の実態についても詳しく聞いておくべきです。「試験休暇は取得できますか」といった具体的な支援内容を確認することで、試験勉強との両立が可能かどうかを判断できます。
⑷ワークライフバランスに関する制度
ワークライフバランスに関する制度も重要な確認ポイントです。リモートワークやフレックスタイム制度の導入状況、有給休暇の取得率、育児休暇や介護休暇の取得実績などを聞くことで、長期的に働き続けられる環境かどうかを見極められます。制度として存在していても実際には利用しにくい雰囲気がある事務所もあるため、「現在これらの制度を利用している職員はいますか」と具体的に確認することが大切です。
■転職成功例:未経験者が会計事務所に転職したケース
ここでは、実際に会計事務所への転職で成功を収めた具体的な事例を紹介します。
【営業職から会計業界へ転身したケース】
Tさんは営業職から会計業界への転身を決意し、簿記2級を取得した後、中規模の会計事務所に応募しました。転職活動では、事務所の教育体制を最重要視し、面接時に研修プログラムの詳細や指導体制について徹底的に質問しました。その結果、入社後2ヶ月間の座学研修があり、その後もメンター制度で先輩職員が1対1で指導してくれる事務所を見つけることができました。
入社後、Tさんは研修期間中に会計ソフトの操作方法や税務の基礎知識をしっかりと学ぶことができました。実務に配属された後も、分からないことがあればすぐにメンターに相談できる環境だったため、着実にスキルを身につけていくことができたといいます。3年目には担当顧問先を15社任されるまでに成長し、現在は税理士試験の勉強も並行して進めています。Tさんの成功要因は、自分のレベルに合った教育体制が整っている事務所を選んだことと、積極的に質問して学ぶ姿勢を持ち続けたことにあります。
【働き方を重視して転職先を選んだケース】
同じく未経験からスタートしたHさんは、事務所の規模よりも働き方を重視して転職先を選びました。Hさんには小学生の子どもがおり、家庭との両立が必須条件でした。そこで、リモートワーク制度が整っており、実際に時短勤務やリモート勤務の実績がある事務所を探しました。面接では「現在、育児と仕事を両立している職員はいますか」「繁忙期でもリモートワークは可能ですか」と具体的に確認し、柔軟な働き方ができる事務所を見つけました。
入社後、Hさんは週3日の出社と週2日のリモートワークという形で働き始めました。繁忙期には出社日数が増えますが、リモートワークである程度対応できるため、子どもの送り迎えを継続することができています。事務所側も、業務のデジタル化を進めており、クラウド会計ソフトやチャットツールを活用することで、在宅でも効率的に業務を進められる環境が整っていました。現在Hさんは入社4年目で、顧問先も順調に増え、事務所にとって欠かせない存在となっています。
■転職成功例:実務経験者が会計事務所に転職したケース
【会計事務所で実務経験がある方の転職成功ケース】
Dさんは小規模事務所で5年間働いた後、より専門性を高めたいと考え転職を決意しました。前職では個人事業主や零細企業の顧問先ばかりで、単純な記帳代行と申告業務の繰り返しに限界を感じていました。そこで転職活動では、成長企業や中堅企業をクライアントに持ち、経営コンサルティングにも力を入れている事務所を重点的に探しました。
面接では「どのような規模の顧問先が中心ですか」「経営支援業務にはどの程度関われますか」「M&Aや事業承継の案件はありますか」と具体的に質問し、自分のキャリアビジョンに合致する事務所を見つけました。入社後は、年商数億円規模の法人を複数担当することになり、月次決算の分析から資金繰りのアドバイス、事業計画の策定支援まで幅広く携わることができました。前職では経験できなかった高度な業務に触れることで、スキルは飛躍的に向上し、3年後には税理士資格も取得、現在はマネージャーとして後輩の指導にも当たっています。
【税理士資格を持つ方の転職成功ケース】
税理士資格を持つKさんは、大手税理士法人から中規模事務所への転職で成功を収めました。大手では国際税務部門に所属していましたが、業務が細分化されすぎており、顧問先との直接的なコミュニケーションがほとんどありませんでした。もっと顧客に寄り添った仕事がしたいと考え、職員50名程度の中規模事務所に転職しました。面接時には「顧問先との関わり方」「裁量権の範囲」「将来的なキャリアパス」について詳しく確認しました。
転職後、Kさんは担当顧問先の経営者と直接対話しながら、税務だけでなく経営全般の相談に乗る機会が増えました。大手で培った専門知識を活かしながら、顧客の課題解決に直接貢献できることに大きなやりがいを感じているといいます。また、中規模事務所ならではの柔軟性により、自分のアイデアを提案して新しいサービスを立ち上げることもでき、5年後にはパートナーに昇進する道筋も見えてきました。Kさんの成功要因は、大手と中小の違いを理解した上で、自分が求める働き方を実現できる環境を選んだことにあります。
■キャリアパス別・最適な会計事務所の選び方
自分のキャリアビジョンに応じて、選ぶべき事務所のタイプは大きく異なります。
⑴将来的に独立開業を目指している
将来的に独立開業を目指している方であれば、幅広い実務経験が積める小規模から中規模の事務所が適しています。こうした事務所では、記帳から申告、コンサルティング、さらには顧客開拓まで、一連の業務を経験することができます。所長の経営手腕を間近で学べることも大きなメリットです。独立後に必要となる営業力や顧客対応スキルは、大手事務所では身につきにくい部分です。
⑵スペシャリストとして活躍したい
一方、専門性を極めてスペシャリストとして活躍したい方には、特定分野に特化した事務所や大手税理士法人が向いています。国際税務、組織再編、事業承継といった高度な専門分野では、大規模な案件を扱う機会が豊富な大手事務所の方が経験を積みやすいでしょう。また、大手では体系的な研修制度や専門資格取得支援も充実しており、計画的にスキルアップを図ることができます。ただし、業務が細分化されているため、特定分野以外の経験が限定される点は考慮が必要です。
⑶ワークライフバランスを重視したい
ワークライフバランスを重視しながら長期的にキャリアを築きたい方は、業務効率化やDX推進に積極的な事務所を選ぶべきです。クラウド会計の活用、リモートワーク制度の整備、業務プロセスの標準化などが進んでいる事務所では、繁忙期でも比較的働きやすい環境が整っています。
また、育児や介護との両立を考える場合は、時短勤務やフレックスタイム制度の実績があり、実際に制度を利用している職員が活躍している事務所を選ぶことが重要です。
⑷税理士試験の勉強を継続しながら働きたい
税理士試験の勉強を継続しながら働きたい方には、受験支援体制が充実している事務所が必須条件です。試験休暇の取得実績、勉強時間確保のための柔軟な勤務体制、受験費用の補助、合格祝い金制度などが整っている事務所を選びましょう。また、繁忙期であっても試験前には配慮してもらえるかどうか、実際に働きながら合格した職員がいるかどうかも確認すべきポイントです。資格取得を目指す環境としては、ある程度の規模があり、人員に余裕がある事務所の方が、試験勉強との両立がしやすい傾向にあります。
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■情報収集を効率的に行うために専門の転職エージェントを活用
会計事務所への転職を成功させるためには、転職エージェントの活用も有効な手段です。特に会計・税務業界に特化したエージェントは、求人票には載らない事務所の内部情報を持っていることが多く、所長の人柄、職場の雰囲気、離職率、実際の残業時間など、応募前に知りたい情報を提供してくれます。また、自分のキャリアビジョンや希望条件を伝えることで、適切な事務所を紹介してもらえる可能性が高まります。
ただし、エージェントの情報だけを鵜呑みにするのは危険です。エージェントは成功報酬で動いているため、必ずしも求職者にとって最適な選択を提案してくれるとは限りません。エージェントの情報は参考にしつつ、最終的には自分自身で面接時に質問し、可能であれば事務所見学をして、直接職場の雰囲気を確かめることが重要です。また、複数のエージェントに登録し、情報を比較検討することで、より正確な判断ができるようになります。
また、内定後の条件確認では、口頭での説明だけでなく、雇用契約書で給与の内訳、勤務時間、休日、各種手当などを必ず文書で確認しましょう。
SNSやインターネット上の口コミ情報も参考になりますが、これらの情報は主観的であり、極端な意見が目立ちやすいという特性があることを理解しておく必要があります。良い情報も悪い情報も、一つの意見として捉え、複数の情報源から総合的に判断することが大切です。可能であれば、その事務所で現在働いている方や、過去に在籍していた方と直接話す機会を設けることで、最も信頼性の高い情報を得ることができます。
■まとめ
会計事務所への転職で後悔する方が多いのは、事前の情報収集が不十分なまま、理想的なイメージだけで転職を決めてしまうことが大きな原因です。全国に3万以上存在する会計事務所は、その規模や特徴によって働き方が大きく異なり、大手税理士法人、中規模事務所、小規模個人事務所それぞれに長所と短所があります。自分のキャリアステージや目指す方向性に応じて、最適な事務所のタイプを見極めることが重要です。
転職エージェントの活用、複数の情報源からの情報収集、そして最終的な自分自身の目と耳での確認を通じて、後悔のない転職を実現してください。
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ジャスネットキャリア編集部
WEBサイト『ジャスネットキャリア』に掲載する記事制作を行う。
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編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。