■所属部署から分かること
税務署にはさまざまな部署がありますが、例えば「国際税務専門官」とあれば、国際税務の税務調査を中心に行うと想定することができます。このように、特殊な部署については、税務調査の重点がどこに置かれるか、あらかじめ理解することができます。
皆様が最低限知っておきたい特別な部署等として、「特別国税調査官」と「内部部門」の二つが挙げられます。
「特別国税調査官」は「特官」と略される役職を言います。この特官は、税務署では課長にあたる管理職で、通常管理職は税務調査をせず部下である国税職員の管理を行いますが、特官はその例外です。管理職にあたる特官は、「特官付」という直属の部下1名と直々に税務調査をすることになっており、その調査先は税務署の中でも規模の大きな会社となっています。
このような会社に対しては通常よりも深度ある税務調査が必要になりますので、管理職レベルの能力が高い(とされる)特官がわざわざ調査する、という仕組みになっているのです。
言い換えれば、規模が大きい会社を調査するということは、それだけ税金も取りやすい訳で、特官が行う税務調査は税務署の幹部職員からもそれなりの成果を求められていますから、他の部署よりも厳しい税務調査が予想されます。
特に注意したいのは、一般的な税務調査では基本的に見られない、減価償却費や交際費などの項目についても特官部門の調査ではよくチェックされるということです。一般的な税務調査では、できるだけ少ない労力で多額の税金を追徴するという費用対効果の観点から、売上・原価・人件費・特別損益項目などの金額が大きな項目に絞った調査が行われることが通例です。
しかし、特官が行う税務調査においては、調査対象とする会社の規模が大きいため、減価償却費や交際費などの項目をチェックしても、これらの科目の金額も大きいことから多額の税金を取れる可能性があります。このため、特官が行う税務調査では、いろいろな項目の対策をしておく必要があります。
次に、「内部部門」とは、一般的には「法人課税第一部門」や「資産課税第一部門」のように、各課税部門の第一部門をいいます。ただし、麹町税務署や渋谷税務署などのように、規模が大きな税務署においては、第一部門に限らず、第二部門や第三部門も内部担当部門に該当するケースがあります。このような場合には、例えば「法人課税第二部門(消費税・印紙税担当)」と言った形で、部門番号に加え、その部門で担当している税目が併記されることが通例です。
内部部門とは、税務署に提出される申告書や届出書の入力などを行う内勤の部署です。税務署の組織上、各課税部門は税務調査を行う調査部門とそれ以外の内勤を行う内部部門に大別されます。このため、内部部門の職員は原則として税務調査に行きませんが、時々独自の税務調査を実施することがあります。
彼らが行う税務調査は「強硬的」なものではありませんが、反面、調査部門の国税調査官とは異なり、内部部門には法律には詳しい職員が多くいますので、「法律論」が問題になることが通例です。
一例として、印紙税単独調査(印紙税だけチェックされる税務調査)は、この内部部門が行うことが通例です。単独調査を担当する内部部門の職員の印紙税の知識は相当深いため、納税者が太刀打ちできないことが多く、印紙税においては往々にして多額の課税がなされています。
■部門とプライド
その他、先の特官部門や税務署の上級官庁である国税局の調査部(原則、資本金1億円以上の規模の大きな法人を調査する部署)、そして悪名高き国税局の資料調査課(マルサの一歩手前の、相当多額の不正が見込まれる法人について、令状はないものの強引な税務調査で調査する部署)など、一般的に多額の税金を取って然るべきという部署にいる国税調査官は、自身のテクニックで多額の税金を追徴している、というプライドを持っていることが多くあります。
実際のところ、これらの部署は国税組織では花形の部署ですから、税務調査能力が高い職員が配属されることが通例です。しかし、ミスが見つからず追徴が難しい時はお土産を要求したり、多額の税金を取るため、「不正をしました」といった書面を書かせて証拠とするといった強引な課税をしたりする傾向がありますので、注意が必要です。
令状を取って脱税捜査を行うマルサは別にして、その他の部署の税務調査は納税者の同意を基にした任意調査ですから、原則としてはわたしたち納税者に主導権があります。税務調査を拒否したり、帳簿を見せなかったりすることは違法ですが、主張するべきはどんどん主張して構いませんので、上記のような強引な課税がなされる場合には、毅然と交渉しましょう。
■肩書きと注意点
次に、肩書きについてです。税務署は下から順に「事務官(税務職の職員禄では肩書きのない職員)⇒調査官⇒上席調査官⇒統括官」、といった形で序列があります。この肩書きですが、上席調査官までは、原則として経験年数に応じて決まります。
国税調査官の肩書きが重要になるのは、経験年数と税務調査能力は比例することがほとんどであり、事務官であれば税務調査が甘く、上席調査官であれば厳しいというのが一般的だからです。このため、事務官から「税務調査に来る」という電話があれば、それだけで調査は甘いと考える税理士も多くいます。
ただし、このような場合に注意したいのは同席者の存在です。税務署の実務上、複数の国税調査官で税務調査を実施する場合、基本的には職位が下の職員が電話連絡をすることになっています。このため、事務官と上席調査官が一緒に税務調査をする、といったケースについては、事務官が電話連絡をすることが一般的ですが、電話連絡をする者だけが税務調査の担当者、と誤解して痛い目に合うことが多くあります。
このため、税務調査の予告の電話を受ける際は、同席者を含めて何名来るのか確認し、全員の肩書きや部署を税務職員禄で確認しなければなりません。法律上、税務署は税務調査を実施する国税調査官のうち、代表者だけを連絡すればいいとされていますが、何名で誰が来るのか聞けば、問題なく教えてくれます。
■税務職員禄は数年分確認しなければならない
税務調査で有用な情報を提供する税務職員禄ですが、直前一年分を見てもあまり意味がありません。過去数年間のどのような仕事についているのかその経歴を確認し、その国税調査官の「職歴」も把握する必要があります。
税務署の人事上、職員の肩書きや部署は頻繁に変わっても、「税務調査の実行部隊」であるとか、「広報や厚生などの総務の仕事」といった職員の職種は、固定される傾向があります。職務の効率を考えてか、できるだけ職種は専担化する、という方向性が国税の人事にはあるようです。この職歴を確認する上で、有効な書籍が株式会社税経の『10年職歴』です。これは、過去10年の税務職員の職歴をまとめたものです。
注意したい職歴は三つあります。一つは、税務署の「審理専門官」や「相談官」といった、法律に詳しいイメージがある部署(審理系)の職歴が長い国税調査官です。このような国税調査官は、一般の国税調査官とは異なり、法律に詳しいですから、交渉の際には、きちんとした理論武装をしておく必要があります。
少し脱線しますが、税務調査において追徴税額は「頭ではなく足で稼ぐ」と言われます。税務調査で多額の税金が課される場合は、脱税などの不正取引を行った場合です。なぜなら、不正取引を行えば、重加算税という多額のペナルティーが課されたり、税務調査によって課税される年分が過去7年に延長されたりと、追徴税額が飛躍的に増えることになっているからです。
このため、税務署は不正取引の発見に力を入れていますが、不正取引は誰の目にも明らかな「証拠」を基に課税するものですので、法律の知識(頭)よりも取引先や銀行を回る労力(足)が重要になります。結果として、多くの国税調査官は不正取引を発見するプロであるものの税法にはそこまで精通していないこともあると言えます。しかし、先の審理系の職員はその例外ですので、法に則ってきちんと交渉する必要があります。
次に、税務署の総務課や国税局の総務部、といった部署(総務系)が長い国税調査官です。総務課や総務部の職員は、税務調査を実施しませんので税務調査に詳しくありません。加えて、彼らの仕事は「行政」ですから、税務調査のように納税者と敵対することではなく、納税者の協力を得ることが必要になります。こういう意味で、総務系の職員の税務調査は甘い傾向にあることが通例です。
最後に、税務署長経験のある調査官です。近年、税務署長経験者も、ヒラの国税調査官として再任用されることが増えてきました。元税務署長の税務調査と聞くと、調査は厳しいと思う方が多いですが、極めて楽なことが通例です。税務署長の仕事は職員の管理と上級官庁に対する官官接待が中心のため、税務調査は専門外であるということが実に多いからです。
■上司の情報も重要
最後に、税務職員禄を見る際は、担当者である国税調査官の直属の上司である統括官などの職歴も押さえておきましょう。税務調査の交渉は目先の担当者と行いますが、最終決定権は上司にありますので、税務調査に厳しい部門を経験している上司か否か、といった点についてもチェックしておきましょう。その際、先の審理系や総務系の統括官か、といった情報が分かれば、より交渉が効果的になります。
皆さまの税務調査対策に活かしていただければ幸いです。
- 執筆者プロフィール
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松嶋 洋(まつしま よう)
元国税調査官・税理士
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。
- セミナー講師実績の一部
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- 東京税理士会麻布支部:「税理士が見落としがちな税務の盲点」
- 関東信越税理士会統一研修:「誤解だらけの税務調査実務とその対応策」
- TKC関東信越研修所:「税務調査の成果を劇的に変える!法律論交渉術」
- 鳥飼総合法律事務所:「相手を知ることで勝てる税務調査交渉術」
- 日本ビズアップ:「速報!松嶋流解釈 令和4年度税制改正」
- 東海税理士会:「税務調査の正しい法律解釈とその解釈を活かした交渉術」
- 株式会社エイブル:「税務署の裏側大家さん版」
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