■一般企業とは異なる税理士事務所の面接とは
税理士事務所の面接が一般企業と異なる点は、専門性と人間関係の両方が重視されることです。一般企業の面接では主にスキルや実績、ポテンシャルが評価されますが、税理士事務所では「この人と長時間一緒に働けるか」「繁忙期のプレッシャーに耐えられるか」という点も非常に重視されます。
税理士事務所の多くは小規模組織です。所長と数名のスタッフで構成されている事務所では、一人ひとりの存在感が大きく、人間関係が業務効率に直結します。合わない人材を採用してしまうと、事務所全体の雰囲気が悪化し、既存スタッフの離職にもつながりかねません。そのため
面接では、あなたのスキルシート以上に、実際に会って話したときの印象や相性が判断材料になります。
また、税理士業界には独特の繁忙期があります。確定申告期や決算期には深夜まで残業が続くこともあり、この時期を乗り切れる精神力と体力が求められます。面接官は過去の経験から、どのような人がこの環境に適応できるかを見極めようとしています。
単に「残業できます」と答えるだけでは不十分で、実際にどのようなストレス環境を経験し、どう乗り越えてきたかを具体的に語れることが重要です。
さらに、クライアント対応のスタンスも重要な評価ポイントです。税理士業務は単なる税務処理ではなく、経営者の相談相手としての役割も担います。専門用語を分かりやすく説明できるか、クライアントの不安に寄り添えるか、こうした
コミュニケーション能力が面接で観察されています。
■どのように自己分析を深めれば面接で活きるのか
面接準備の第一歩は自己分析ですが、ただ漠然と「自分の強みは何か」と考えても答えは出ません。税理士事務所の面接で活きる自己分析には、具体的なフレームワークが必要です。
【自己分析やることリスト】
□実務経験の棚卸し
□それぞれの業務で直面した課題と解決方法
□失敗経験の言語化
□自分が大切にしている仕事の価値観
(1)これまでの実務経験の棚卸し
まず取り組むべきは、これまでの実務経験の棚卸しです。担当したクライアント数、業種の内訳、関与した税務業務の種類を具体的に書き出してください。たとえば「法人税申告30件、消費税申告50件、年末調整20社」のように数値化します。
さらに、
それぞれの業務で直面した課題と解決方法を3つずつピックアップしましょう。
「相続税の申告で複雑な不動産評価が必要だったケースでは、外部の不動産鑑定士と連携して評価額を確定させた」といった具体例が面接で大きな説得力を持ちます。
(2)失敗経験の言語化
次に重要なのは、失敗経験の言語化です。多くの人が失敗談を面接で避けようとしますが、実は
失敗をどう乗り越えたかという話こそ、あなたの成長性と問題解決能力を示す最良の材料です。
たとえば「クライアントへの説明が不十分で誤解を招いてしまったが、その後は事前に説明用の資料を作成し、専門用語には必ず補足を加えるようにした結果、クライアント満足度が向上した」という流れで語れれば、単なる失敗談ではなく成長ストーリーになります。
(3)仕事の価値観
自己分析では、
自分が大切にしている仕事の価値観も明確にしておく
必要があります。「正確性を何よりも重視する」「クライアントとの信頼関係構築を大切にする」「効率化によってチーム全体の生産性を上げたい」など、あなたの仕事観を一言で表現できるようにしておきましょう。この価値観が応募先の事務所の方針と合致していれば、面接での説得力が格段に増します。
■どうすれば志望動機に説得力を持たせられるのか
志望動機は面接で必ず聞かれる項目ですが、多くの応募者が苦手とする部分でもあります。「貴事務所の理念に共感しました」「スキルアップしたいです」といった抽象的な内容では、面接官の心には響きません。
説得力のある志望動機には、三つの要素が必要です。
【志望動機やることリスト】
□今の職場を離れる理由
□なぜこの事務所を志望するのか
□入所後の具体的な貢献イメージ
(1)なぜ今の職場を離れるのか
一つ目は、なぜ今の職場を離れるのかという理由の明確化です。ただし、
ネガティブな退職理由をそのまま伝えるのではなく、ポジティブな動機に転換する技術が求められます。
たとえば「現在の事務所では個人事業主が中心だが、法人クライアントの会計税務に深く関与したい」のように、キャリアの方向性として語ることで前向きな印象を与えられます。
(2)なぜこの事務所なのか
二つ目は、なぜこの事務所なのかという理由の具体化です。ウェブサイトに書かれている情報をなぞるだけでなく、その事務所ならではの特徴を見つけ出す必要があります。
たとえば、所長のブログ記事で語られている事業承継支援への想いに触れ、「自分も中小企業の世代交代を税務面からサポートしたいと考えていた」と結びつける。求人情報に「チーム制で業務を進める」と書かれていれば、「これまでの個人単位の業務スタイルではなく、チームで知識を共有しながら成長できる環境を求めていた」と関連付けます。
(3)入社後の貢献イメージを具体的に示す
三つ目は、入社後の貢献イメージを具体的に示すことです。「これまでの相続税申告の経験を活かし、貴事務所の資産税部門で即戦力として貢献したい」のように、自分の経験と事務所のニーズをマッチングさせます。
さらに一歩進んで、「将来的には相続対策セミナーの講師なども担当し、事務所の認知度向上にも寄与したい」と中長期的なビジョンまで語れれば理想的です。
■どのように想定問答を準備すれば本番で慌てないか
面接で頭が真っ白になってしまう最大の原因は、想定していない質問が来たときのパニックです。これを防ぐには、徹底的な想定問答の準備が欠かせません。
【想定問答やることリスト】
□自己分析、志望動機の掘り下げをもとに、回答を作成
□声に出して練習
□模擬面接
(1)面接での質問には一定のパターンがある
税理士事務所の面接でよく聞かれる質問には一定のパターンがあります。
自己紹介、志望動機、退職理由、実務経験、繁忙期の対応、クライアント対応で苦労したこと、失敗経験と学び、キャリアプラン、希望年収、逆質問
などです。
これらの質問に対して、それぞれ二つのバリエーションで回答を用意しておきましょう。簡潔バージョン(30秒)、標準バージョン(1~2分)です。面接の流れや面接官の反応に応じて、適切な長さで回答できるようになります。
(2)回答を作成する際は声に出す
回答を作成する際は、必ず声に出して練習してください。頭の中で考えるだけでは、実際に話すときのリズムや時間感覚が掴めません。
スマートフォンで録音して聞き直すと、話し方の癖や無駄な言葉遣いに気づけます。「えーっと」「あのー」などの口癖が多い人は特に注意が必要です。
(3)模擬面接を行う
さらに効果的なのは、家族や友人に面接官役を頼んで模擬面接を行うことです。実際に人を前にして話すと、思いがけず緊張したり、説明が分かりにくくなったりします。
相手からフィードバックをもらえば、自分では気づかない改善点が見つかります。
周囲に頼める人がいない場合は、鏡の前で自分に向かって話すだけでも効果があります。
(4)ネガティブな質問への準備もしておく
想定問答では、ネガティブな質問への対処法も準備しておく必要があります。「なぜ短期間で前職を辞めたのか」「ブランクがあるが何をしていたのか」「年齢的に未経験だが大丈夫か」といった質問に対しても、正直かつ前向きに答えられるよう準備しましょう。嘘をつく必要はありませんが、伝え方次第で印象は大きく変わります。
■実務経験を効果的にアピールする方法
税理士事務所の面接では、実務経験の具体性が評価を左右します。「法人税申告の経験があります」だけでは不十分で、どのような規模の法人を、どれくらいの件数担当し、どんな業種に対応してきたかまで語れる必要があります。
【実務経験アピールリスト】
□自己分析で書きだした実務経験から3つピックアップ
□STAR法で具体的に説明
(1)STAR法が有効
実務経験をアピールする際は、STAR法というフレームワークが有効です。
Situation(状況)、Task(課題)、Action(行動)、Result(結果)の順序で説明する方法です。
たとえば「担当していた建設業のクライアントで消費税の課税区分ミスが発覚した(状況)。期限まで1週間しかなく、過去3年分の修正が必要だった(課題)。毎日クライアントと連絡を取りながら取引内容を確認し、税務署とも事前に相談して修正方針を固めた(行動)。結果的に加算税を最小限に抑え、クライアントから信頼を得て追加の顧問契約につながった(結果)」という流れです。
(2)業務の幅広さは具体的に
業務の幅広さも重要なアピールポイントですが、単に「いろいろやってきました」では伝わりません。法人税、所得税、消費税、相続税、贈与税のそれぞれで、年間何件の申告書を作成したか、どのような特殊案件に対応したかを整理しておきましょう。
さらに、給与計算、社会保険手続き、記帳代行、税務相談、税務調査立会いなど、周辺業務の経験も漏れなく伝えられるよう準備します。
ただし、経験の羅列だけでは面接官の記憶に残りません。
数ある経験の中から、特に印象的だったエピソードを3つ選び、それぞれを深掘りして語れるようにしておくことをお勧めします。
困難を乗り越えた経験、クライアントに感謝された経験、自分の成長を実感した経験の3パターンを用意しておけば、どんな質問にも対応できます。
■面接の成否を分ける可能性もある逆質問の準備
面接の最後に「何か質問はありますか」と聞かれる逆質問の時間は、多くの応募者が軽視しがちですが、実は逆質問の質によって、あなたの本気度、思考力、事務所への理解度が判断されます。
【逆質問の準備リスト】
□具体的な業務内容を掘り下げる質問
□成長機会や教育体制についての質問
□事務所の方向性や将来ビジョンについての質問
(1)具体的な業務内容を掘り下げる質問
効果的な逆質問には、いくつかの型があります。まず、具体的な業務内容を掘り下げる質問です。「入社後はどのようなクライアントを担当させていただけますか」「チェック体制やダブルチェックの仕組みについて教えてください」など、実務の進め方を確認する質問は、真剣に働くイメージを持っていることが伝わります。
(2)成長機会や教育体制についての質問
次に、成長機会や教育体制について尋ねる質問も好印象です。「税理士試験の勉強と業務の両立について、事務所としてどのようなサポートがありますか」「研修制度や外部セミナーへの参加機会について教えてください」といった質問は、長期的に成長したいという意欲を示せます。
(3)事務所の方向性や将来ビジョンについての質問
事務所の方向性や将来ビジョンについて質問するのも効果的です。「今後注力していきたい業務分野はありますか」「事務所として5年後にどのような姿を目指していますか」など、経営的な視点を持った質問ができれば、単なるスタッフではなくパートナーとして働きたい姿勢が伝わります。
(4)避けるべき内容
逆質問では避けるべき内容もあります。給与や休日など待遇面だけを質問するのは、条件にしか興味がないと受け取られかねません。ただし、全く聞かないのも不自然なので、他の質問と組み合わせて最後に一つだけ確認する程度にとどめましょう。また、ウェブサイトに明記されている内容を質問するのは、事前準備不足を露呈します。
逆質問は最低でも5つは用意しておくことを推奨します。面接中に疑問が解消されることもあるため、多めに準備しておけば安心です。
質問をメモに書いておき、面接時に「いくつか質問を用意してきました」と言ってメモを見ながら聞くのは、むしろ準備の良さとして評価されます。
■どうすれば面接当日の緊張をコントロールできるのか
どれだけ準備をしても、面接当日は緊張するものです。しかし、緊張そのものは悪いことではありません。適度な緊張は集中力を高め、パフォーマンスを向上させます。問題は、緊張が過度になって本来の力を発揮できなくなることです。
【面接当日の準備リスト】
□前日までに服などの準備を済ませる
□事務所の最寄り駅には予定時刻の30分前到着を目安に
□面接中に頭が真っ白になったら、こう答える
□面接は相互理解の場だと意識する
(1)前日までに準備を済ませる
面接当日の緊張をコントロールするには、まず物理的な準備から始めましょう。
前日までに着ていく服を決めて準備し、当日の移動経路と所要時間を確認します。事務所の最寄り駅には予定時刻の30分前に到着するよう計画し、近くのカフェで最終確認をする時間を作ります。
この余裕が精神的な安定につながります。
(2)面接中に頭が真っ白になったら、こう答える
面接中に頭が真っ白になったときの対処法も用意しておきましょう。
質問の意味が分からなかったら「申し訳ございません、もう一度質問をお伺いしてもよろしいでしょうか」と正直に聞き返します。考える時間が必要なら「少し考えさせてください」と言ってから答えます。
完璧に答えようとするより、誠実に対応する姿勢の方が評価されます。
(3)面接は相互理解の場だと意識する
また、面接は一方的に評価される場ではなく、相互理解の場だと意識を変えることも重要です。面接官もあなたが緊張していることは分かっていますし、むしろあなたという人物を知りたいと思っています。「この事務所が自分に合うかを見極める場」という視点を持つことで、対等な立場で臨むことができ、過度な緊張から解放されます。
■面接後のフォローアップで差をつけるために
面接が終わったら、それで終わりではありません。面接後のフォローアップによって、最終的な印象を大きく変えることができます。
【面接後のフォローアップリスト】
□当日、または翌日の午前中にはお礼のメールを送る
□複数の面接を受けている場合は、面接内容を記録
(1)面接のお礼のメールを送る
まず、面接当日の夜か翌日の午前中には、お礼のメールを送りましょう。形式的なお礼だけでなく、面接で印象に残った話題や、あらためて感じた志望度の高さを具体的に書きます。「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。特に所長がおっしゃっていた『クライアントの経営課題に寄り添う』という姿勢に深く共感し、ますます貴事務所で働きたいという思いが強くなりました」といった内容です。
税理士事務所の面接後のお礼メールは「義務ではない」が実情ですが、応募者の礼儀や誠実さが伝わるため、特に中小事務所では好印象につながるケースが多いのも事実です。一方で、BIG4税理士法人のように大量採用を行う組織では「不要」と明記されていることもあり、送らなくても選考に影響することはほぼありません。
(2)複数の面接を受けている場合は、面接内容を記録
面接を受けた事務所以外にも応募している場合、それぞれの面接内容を簡単に記録しておくことをお勧めします。事務所ごとの特徴、面接官の印象、聞かれた質問、自分の回答、改善すべき点などをノートにまとめておけば、次の面接に活かせますし、複数の内定が出たときの比較検討にも役立ちます。
■まとめ:それでも苦手意識が消えない…専門のエージェントに相談
面接は準備で決まります。才能や運ではなく、どれだけ具体的に準備したかが結果を左右します。このコラムで紹介した方法を一つずつ実践していけば、面接が苦手だと感じている方でも、確実に自信を持って臨めるようになるでしょう。
それでも、どうしても面接に苦手意識が拭えない、一人で準備するのが不安だという方は、転職エージェントの活用を強くお勧めします。税理士や会計事務所専門のエージェントは、面接対策のプロフェッショナルです。模擬面接を実施してくれたり、想定問答の添削をしてくれたり、あなたの強みを効果的に伝える方法をアドバイスしてくれます。さらに、事務所側との日程調整や条件交渉も代行してくれるため、面接そのものに集中できる環境が整います。
エージェントは事務所ごとの面接傾向も熟知しているため、「この事務所の所長はこういう質問をすることが多い」「この事務所では実務経験より人柄を重視する」といった具体的な情報も提供してくれます。面接後には事務所側の評価をフィードバックしてもらえるので、次の面接に活かすこともできます。面接が苦手だからこそ、専門家の力を借りることで、あなたの可能性を最大限に引き出せるのです。
税理士事務所への転職面接は、あなたのキャリアの新しい扉を開く重要な機会です。一人で抱え込まず、使えるリソースは積極的に活用しながら、しっかり準備して最高の結果を掴み取ってください。
税理士の転職なら経理・会計専門のジャスネットに相談
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ジャスネットキャリア編集部
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編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。