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なぜ社会人は税理士試験を途中でやめてしまうのか

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2026年4月2日 税理士 横川 大

■はじめに

税理士になりたいと思った動機はどんなことでしょうか?家族や周囲の方の勧め、成功している先輩にあこがれて、など、様々な理由で税理士を目指していることと思います。

ただ、税理士試験に挑戦したものの、途中で税理士になることをあきらめてしまう社会人は少なくありません。

やる気や覚悟の足りなさだけでは片付けられない、社会人受験生が直面する現実と挫折の構造を、実際に働きながら5科目合格した、税理士の視点から解説します。

■社会人受験生の脱落ポイント① 勉強時間確保の難しさ

(1)1日18分の勉強で税理士試験に受かる?

社会人受験生にとって 最大の壁は、勉強時間の確保 です。

税理士試験の合格に必要な時間は、科目にもよりますが、一般的に1科目あたり数百時間といわれています。500時間以上が一つの目安とされる科目もあり、けっして短期決戦の試験ではありません。

総務省統計局が発表した令和3年社会生活基本調査(生活時間及び生活行動に関する結果)によると、有業者全体では週全体で平均7分です。この中には、「勉強していない(0分)」という人が約94.3%とほとんどを占めているため、全体の平均値が大幅に低くなっていています。

有業者で勉強(学習・自己啓発・訓練)している人の勉強時間の平均は週全体で123分、つまり1日あたり18分ほどです。

毎日18分では、税理士試験を乗り越えるのはとうてい難しく、自分の経験からは少なくとも 毎日2時間程度の勉強時間を確保しなければなりません。

(2)勉強時間を1日のスケジュールに組み込む

ここで問題になるのは 「意志の強さ」ではなく、「日々の生活設計」 です。

たとえば、

  • 通勤往復で1時間
  • 残業が月30時間
  • 繁忙期は土曜出勤し、昼から夕方まで勤務
  • 帰宅後は家族との時間や家事

このような生活の中で、毎日2時間を捻出するのは簡単ではありません。 「時間がない」というのは言い訳ではなく、多くの人にとって現実 なのです。

忙しい、時間がないからといっている人が周りにもいるのではないでしょうか。

残業、繁忙期、突発的な業務。「今日は疲れたから休もう」が一度始まると、勉強は生活の中で後回しにされやすくなります。

ここで大事なのは、毎日勉強を続けられる仕組みを作れているかどうか です。ここが崩れると、学習は一気に不安定になります。できるときにやる、やる気が出たときにやるでは、合格に必要な最低限の時間も確保することができません。

ここでは、「朝1時間早く起きて家を出て、職場近くのカフェで勉強する」、「残業を1日あたり30分減らす仕組みを考え、実行する」など、具体的に時間を捻出することが大事となります。

税理士試験は「意志力の勝負」というより、「日々の生活をどう組み立てるか」の勝負なのです。

■社会人受験生の脱落ポイント② 給与や評価に直結しない資格の現実

税理士試験は、合格まで長い期間を要する試験です。努力がすぐに給与や評価に反映される資格ではありません。

勤務先によっては、科目合格が昇給や役職に直結しないケースもあります。
科目手当が出る事務所もありますが、その金額は限定的であることも少なくありません。

また、数年単位で勉強を続けても、合格できないことも珍しくありません。数年かけて勉強を続けても、生活が劇的に変わるわけではない。ここに、社会人受験生特有の苦しさがあります。

たとえば、

  • 同年代の同期が昇進し、年収が100万円上がった
  • 自分は勉強時間を確保するために飲み会や副業を控えている
  • それでも手元の収入はほとんど変わらない

この状況に置かれたとき、人は自然に「この努力は、いつか報われるのだろうか?本当に勉強に投資した時間をあとからお金として回収できるのだろうか」と考えます。 税理士試験の本当の敵は、難易度そのものよりも「時間差」 です。

努力と報酬の間に、数年単位のズレがある。 この「タイムラグ」が、不安を生みます。 さらに厄介なのは、周りの人たち(同僚や学生時代の友人など)との比較です。

周囲の同年代がキャリアを積み、収入を上げていく中で、自分はテキストと問題集に向き合う。「この努力は本当に報われるのか」という疑問が心を占め始めます。この不安が積み重なると、勉強へのモチベーションは確実に削られていきます。

このように、キャリア面での短期的な比較では、不安にもなります。しかし、税理士試験は短距離走ではありません。10年単位で見たときの自信の市場価値をどう設計するかという、長期投資です。

ここを理解せずに始めると、「思っていたより報われない」と感じやすくなります。

■社会人受験生の脱落ポイント③ 独立リスクと不安

税理士試験に挑戦する方は、「独立」を目標に始められる方も多いと思います。
事実、税理士はもっとも独立に有利な資格ともいわれており、開業して成功している先生方もたくさんおられます。

働き方も多様化しており、規模拡大を目指して、働く働き方も、ひとり税理士として、自由度の高い働き方も選ぶことができます。

しかし、ここが誤解の生まれやすいポイントです。「合格=安定」ではありません。独立の現実は簡単ではありません。

事業主であることには変わらないので、顧客獲得、収入の不安定さ、経営の責任。これらを具体的に想像するほど、「本当にこの道を選んでいいのか」という迷いが生じます。税務の知識だけで完結する世界ではありません。合格後の姿が曖昧なままでは、長期戦となる試験勉強を支える軸が弱くなってしまいます。

独立を目指すのであれば、

  • どの分野で差別化するのか(相続なのか、国際税務なのか、医療分野に特化するのかなど)
  • 何年後に開業するのか
  • どのくらいの規模を目指すのか

勤務を続けるのであれば、

  • どの専門領域を深めるのか
  • どのポジションを目標にするのか

ここまで具体化して考えて、初めて試験勉強をする時間は「未来への投資」になり、途中で脱落することを防ぐ心の拠り所になるでしょう。

■まとめ

税理士試験を途中でやめてしまう理由は、能力不足ではありません。まとめますと今回あげたのは、下記の3つです。

  • 時間の確保が難しいこと。
  • 努力と報酬の間に時間差があること。
  • 合格後の姿が曖昧なこと。

受験をしていると、誰もが一度は、このような思いはまり込んだことがあるのでないかと思います。

これらが重なり、不安が積み上がるのです。やめたくなる自分は弱いわけではありません。極めて正常な反応です。

大切なのは、

  • 短期的な比較に飲み込まれないこと
  • 合格後の姿を具体化すること
  • 長期投資として捉え直すこと

社会人受験は、根性論では続きません。現実を直視し、その上で設計すること。

社会人受験生が直面する現実を正しく理解し、自分に合った設計を行うこと。それが、挫折を避ける最初の一歩になります。

次回は、続ける方法などについてまとめてみようと思います。

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執筆者プロフィール

横川 大(よこがわ ふとし)
税理士

鹿児島県出身。
大学卒業後、地方公務員として行政実務に従事。
地方税業務や公営企業会計など、現場で経験を積む。
その後、在職中に税理士資格を取得し独立開業。

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