■ 税理士の転職年齢分布と市場動向
(1)税理士の転職希望者・決定者の年齢分布
実は税理士の転職では、30代後半〜40代がボリュームゾーンとなっており、35歳以降での転職成功例が多数見受けられます。
ジャスネットコミュニケーションズの統計から、傾向を分析してみると
年齢層 |
転職希望割合 |
内定獲得率 |
20代 |
10% |
高(未経験枠) |
30代 |
40% |
非常に高い |
40代 |
35% |
高 |
50代 |
15% |
中〜やや高 |
このように40代での転職成功率も高く、50代でもポジション次第で十分チャンスがあることがわかります。
(2)税理士業界の市場感と将来性
税理士業界は現在、後継者不足・人手不足という構造的課題を抱えています。背景には以下のような要因があります。
採用支援の現場においても、しばしば「本当は経験者がほしいけど、競争率が高く採用が困難だから未経験者で」といった声が多く聞かれます。
つまり、年齢を問わず「現場で戦力になる人材」は常に求められている状況にあります。
■ 税理士の転職に年齢制限がない理由
(1)高度専門職として、経験と実績が重視される「税理士の転職」
高度な専門知識とスキルを駆使し、クライアントの課題解決を支援する税理士の仕事。そこでは「若さや年齢」よりも「経験や実績」が重視されることが少なくありません。
税理士業界において「35歳まで」という制限があったのは過去の話で、現在では40代・50代の採用ニーズも非常に高まっています。特に以下のような場面で、年齢がプラスに働く傾向が見られます。
- クライアントが経営者層の場合 → 同年代の税理士の方が信頼されやすい
- 部門マネジメント経験がある → 幹部候補として歓迎されやすい
- 相続・事業承継など年配者向け業務に強い → 高齢税理士の経験が活きる
(2)年齢を「ハンデ」ではなく「価値」にした転職成功事例
ここで、成功事例をいくつかご紹介しましょう。
年齢をハンデと捉えるより、「その年齢でしか持ち得ない価値」を言語化することがカギとなります。
事例1:地方会計事務所の後継者として転職(53歳・男性)
地方都市で約25年間、企業内税理士として主に法人税申告や資金繰り対策、税務調査対応などを担当してきたMさん。定年まであと10年ほどという節目を迎える中で、「自分の経験を活かしながら、より長く税理士として働ける環境」を模索するようになりました。
そんな中、転職エージェントから紹介されたのが、地方の歴史ある会計事務所。代表税理士が高齢のため勇退を検討しており、後継者として事務所の運営を担える人材を探しているという案件でした。税務実務はもちろん、職員のマネジメント経験もあるMさんにとって、まさに理想的な転職先でした。
選考では、税務調査対応の実績や職員育成のエピソードを詳細にアピールし、面談を重ねた末に正式に内定。入社後は代表税理士からの引継ぎ期間を経て、1年後には代表のポジションを引き継ぐ予定です。
年収は800万円スタートに加え、事務所の売上に応じた業績連動賞与も設定されており、将来的にはさらなる収入アップも見込まれます。Mさんは「税理士としての集大成にふさわしいステージ」と語り、地域密着型の経営に尽力する日々を送っています。
事例2:資産税特化で週4勤務を実現(47歳・女性)
都内の中堅会計事務所で20年以上にわたり勤務してきたSさんは、主に相続税や贈与税など資産税案件を中心にキャリアを積んできました。育児と仕事を両立させながらも、担当する相続案件では大手税理士法人と肩を並べるクオリティを維持。クライアントからの信頼も厚い存在でした。
子育ても一段落し、自分の時間をもう少し大切にしたいと考えるようになったSさんは、「週4日勤務」かつ「相続税専門」で働ける環境を探すことに。通常、この2つの条件を満たす就職先は限られていますが、転職エージェントを通じて、資産税専門の税理士法人と出会います。
その法人は相続・事業承継に特化しており、実務経験豊富な人材を求めていたことから、Sさんのスキルとマッチ。面接では過去の相続案件の処理数や工夫した点、実際の節税提案事例などを具体的に伝えたことで、高く評価されました。
結果、週4日・時短勤務でありながら、年収650万円という好条件で内定。現在は高額案件を中心に担当しつつ、時間的余裕も得て、週1日は子どもの学校行事や趣味の時間に充てているとのことです。
「やりがいのある仕事を続けながら、自分の時間も大切にできる。理想の働き方が叶いました」と語るSさんの転職事例は、同年代の税理士にとっても大きな参考になるはずです。
事例3:顧問先企業からのスカウトで社外CFOに転身(61歳・男性)
61歳のTさんは、長年にわたり中堅企業や個人事業主を中心とした税務顧問を担ってきたベテラン税理士です。資金繰り改善や経営計画の立案など、単なる税務にとどまらず、経営全体に関与するスタイルが特徴で、特に中小企業の経営者から高い信頼を得ていました。
そんなTさんに転機が訪れたのは、顧問先企業の一つから「社外CFOとしてうちの経営にもっと深く関わってほしい」とスカウトを受けたことがきっかけでした。同社は急成長中の製造業で、IPOも視野に入れた経営基盤の強化を急務としており、Tさんの実務経験と経営感覚に大きな期待を寄せていたのです。
Tさんは当初、「この年齢で企業に転職するのはどうか?」と悩んだものの、「これまで培った知見を活かし、企業の成長に貢献できる最後のチャンス」と前向きに捉え、転職を決意。現在は社外CFOとして、資金調達や税務戦略の構築、内部統制の整備など多岐にわたる経営支援を行っています。
顧問税理士としての枠を超え、経営幹部としての視点で企業に深く関わることができる立場に、「税理士としての新たなやりがいを感じている」とTさん。報酬も年収ベースで大幅に増え、将来的には顧問契約をベースに社外役員として継続参画する予定です。
■ 年代別・税理士が転職で求められるポイント
(1)年代別に求められるスキルと役割
年代 |
主に求められる能力・役割 |
30代 |
税務会計実務、ITリテラシー、若手育成のポテンシャル |
40代 |
クライアント対応力、スタッフマネジメント、部門管理経験 |
50代以降 |
顧客との信頼関係、専門特化分野、幹部・経営参画能力 |
特に40代以降は「管理職経験」や「資産税・事業承継等の専門性」が評価されやすく、プレイヤーではなくマネージャーとしての期待値が高まります。
ジャスネットで実際にご紹介した年代別求人事例
【20代】
■上場準備中のFintech企業 / 若手税理士歓迎!財務戦略チーム立ち上げメンバー募集
雇用形態:正社員
職種:財務・税務スタッフ
ポジション:メンバー~主任クラス
給与・待遇:年収500万~700万円+ストックオプション制度
仕事内容:
月次・年次決算の補助業務、税務申告書作成(法人税・消費税)、税務調査対応のサポート
IPOに向けた税務リスクの検討・対応、CFO・税理士顧問との折衝業務
歓迎要件:
税理士科目合格者(特に法人税)
ベンチャー企業での就業に興味がある方
特徴:若手税理士や科目合格者が中心となって、急成長する企業の内部管理体制構築に携われます。成長意欲のある20代に最適。
【30代】
■上場企業グループの税務専門会社 / 税務戦略を担う実務リーダーを募集
雇用形態:正社員
職種:税務マネージャー候補
ポジション:リーダー・課長代理クラス
給与・待遇:年収750万~950万円+賞与年2回
仕事内容:
グループ企業の連結納税業務、国際税務(BEPS対応・移転価格)、タックスプランニングの立案・実行、税務調査の主担当として対応、税制改正に伴うグループ各社への影響分析と提案
歓迎要件:
税理士有資格者または国税OBの方歓迎
事業会社または税理士法人での法人税務経験5年以上
チームマネジメント経験あれば尚可
特徴:30代の中堅税理士が、専門性を活かしながら税務の中核として活躍できるポジション。安定基盤と実務のやりがいを両立。
【40代】
■資産税・事業承継特化の税理士法人 / 管理職として顧問先支援と組織運営をお任せ
雇用形態:正社員
職種:資産税コンサルタント(管理職)
ポジション:部長候補/マネージャー
給与・待遇:年収850万~1100万円+成果報酬
仕事内容:
相続税・贈与税の申告業務の統括、医療法人・中小企業の事業承継支援、高額資産家向けのタックスプランニング提案、チームメンバーのマネジメント・育成
新規クライアントとの関係構築・営業支援
歓迎要件:
税理士資格保有者(相続税申告経験5件以上)
税理士法人・会計事務所での資産税実務経験
コンサルティング業務に強みがある方
特徴:40代の豊富な経験を活かして、資産税・事業承継の専門家としてステップアップできる希少な求人。幹部候補採用。
【50代】
■老舗中堅会計事務所 / 後継者候補の募集。経営視点を持つ税理士を歓迎
雇用形態:正社員
職種:税理士(管理職・パートナー候補)
ポジション:所長代理/次期代表候補
給与・待遇:年収900万~1200万円+業績連動賞与
仕事内容:
会計事務所の統括・経営管理、地元中小企業の法人税務、資金繰り、事業承継支援
税務調査対応、顧問契約先のコンサルティング、若手職員の育成と業務フローの改善
顧問先の事業拡大を支援する提案活動
歓迎要件:
税理士資格保有者(実務経験15年以上)
所長経験またはマネジメント経験ある方歓迎
特徴:現・代表の高齢化による後継者募集。地域密着型で税理士としての集大成を築きたい50代にとって、まさに「最後の転職」にふさわしい案件。
■ 税理士が転職を成功させるための具体的なステップ
(1)全員が行うべき転職成功のための基本ステップ
1. 自己分析:キャリアの棚卸しと強みの把握
これまでの経験業務(法人税、相続税、資産税など)を整理し、得意分野・専門領域を明確にします。(例:医療法人、国際税務、クラウド会計)
また、独立志向なのか、継続雇用志向なのかなど、今後のキャリアビジョンも考えましょう。
2. 希望条件の明確化
年収・勤務時間・勤務地・リモート可否・業種・規模などを洗い出します。
「何を優先したいのか?」の優先順位をつけることが重要です。
3. 税理士専門エージェントへの登録
税務分野に強いエージェントを活用しましょう。経理・会計専門のエージェントでは、自分だけでは出会えない非公開求人を紹介してもらえるメリットなどもあります。
4. 書類作成(履歴書・職務経歴書)のブラッシュアップ
実績は「数字」と「工夫」で示す必要があります。(例:「相続案件〇件対応」「税務調査率0%」など)
税法知識だけでなく、マネジメント・ITスキルも記載してください。
5. 面接対策と条件交渉
過去の転職理由、志望動機、成功体験を論理的に説明できるように準備しましょう。
年収交渉は相場を把握し、希望年収の理由を具体的に伝えるとよいでしょう。
また面接では「何ができるか」「どう貢献できるか」を明確に述べることが必要です。
6. 入社後の体制・業務内容の確認
教育体制、職場の雰囲気、評価制度、役職や昇格ルートなども確認すると、転職のミスマッチを防ぐことができます。
(2)年代別:転職成功のための追加ステップ・意識すべきポイント
▶【20代:実務経験を積むための基礎固め】
- 税理士試験との両立計画を立てる(勉強時間を確保しやすい環境か確認)
- 基本的な税務・会計知識の実務経験を優先
- 経験が浅くても「成長ポテンシャル」と「将来像」で勝負
<意識すべきこと>
- 謙虚さ+積極性で「学ぶ姿勢」をアピール
- 経歴が浅い分、職務経歴書には「どのような姿勢で学んできたか」を記述
- 「どんな税理士になりたいか」を明確に語れるようにする
▶【30代:専門性とマネジメント力の両立をアピール】
- 特定分野(相続・資産税・医療など)の専門性の確立を整理
- 中間管理職としての経験・実績をまとめる
- 「成果」+「チームへの影響」でアピール資料を作る
<意識すべきこと>
- 即戦力として求められるため、「自分が入ることで職場に何が加わるか」を具体化
- 年収・待遇交渉のフェーズでは「成果ベースでの貢献」を根拠に
- 将来的にどう貢献できるかをビジョン付きで語る
▶【40代:マネジメント・営業・専門知識のバランス強化】
- 管理職経験・人材育成の成果を具体化(育成した後輩の成長事例など)
- クライアントとの信頼構築・提案事例をストーリーで整理
- 業界再編やM&A対応、事業承継などの経験もアピール
<意識すべきこと>
- 書類では「人を動かした実績」「組織に貢献した数値」を明確に
- 面接では「柔軟性」「協調性」「業界トレンドへの理解力」を意識して話す
- 応募企業が求める「役割」に対し、自身がどのように貢献できるかを示す
▶【50代:後継者・経営補佐・専門顧問としての価値を伝える】
- これまでの総合的な経験を「経営目線」で整理(経営支援・財務戦略など)
- 業界内ネットワークやクライアント基盤がある場合は活用可能かも検討
- 後継者ポジション、パートナー候補、顧問など多様な働き方も視野に
<意識すべきこと>
- 面接では「過去の成功体験」だけでなく、「今の環境にどう順応できるか」を伝える
- 年下上司や若手との協働への柔軟性、謙虚な姿勢を示す
- 定年後の継続雇用・業務委託契約なども視野に入れた交渉を
(3)シニア歓迎の税理士求人の特徴
シニア層の税理士にとって、転職市場は決して広くはありませんが、ニーズのある領域は確かに存在します。
特に最近増えているのが、後継者不足に悩む会計事務所からのスカウトや、企業の税務責任者ポスト(社外CFO・社外取締役など)としての登用です。また、週3〜4日勤務や時短勤務といった柔軟な働き方が可能な求人も多く、体力やライフスタイルに合わせた選択がしやすいのも特徴です。中には、これまでの豊富な実務経験を評価され、役員待遇で迎えられるケースもあります。
こうした求人はほとんどが非公開で、水面下で採用が進むため、税理士専門の転職エージェントを活用することが成功の鍵となります。経験を活かしながら次のステージを探すシニア税理士にとって、戦略的な情報収集と第三者のサポートは欠かせません。
■ まとめ:税理士の転職は「年齢より実力」!何歳でも再出発できる時代
税理士として転職を考える際、「年齢の壁」を感じる方は少なくありません。しかし、実際の市場では年齢に関係なく活躍のチャンスがあり、特に40代・50代の経験豊富な人材へのニーズは高まりつつあります。重要なのは、自分の強みや価値を正しく理解し、それを活かせる環境を選ぶことです。
本記事で紹介した市場動向、成功事例、実際の求人情報、そして転職を成功させるための具体的なステップを活用すれば、年齢にとらわれないキャリアの可能性が広がります。経験を武器に、次のステージへ踏み出してみてください。
あなたのキャリアは、いくつになってもアップデート可能です。
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ジャスネットキャリア編集部
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