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【連載】税理士なら知っておきたい『銀行融資』の知識【No.2 借入返済負担を軽減するために借入の繰り上げ返済をすることの是非は?】

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2025年11月21日 徳永 貴則

税理士の皆様向けに、クライアント企業から資金繰りについて相談された際にアドバイスできる知識をお届けする連載コラムの第2回です。

経営者から、資金面の不安をよく聞きませんか?
税務に精通していても、銀行融資や資金調達の実務に明るくない税理士の方は少なくありません。本コラムで銀行の内部事情や交渉のポイントを理解することで、クライアントへの付加価値を高め、他の税理士との差別化を図ることができます。ぜひご活用ください!

今回は、私のクライアントから実際にあった質問事例をご紹介します。テーマは「毎月の返済額を減らすために繰り上げ返済を行うかどうか」についてです。

クライアントから質問があった背景は下記のとおりです。

  • 今期決算は赤字転落になりそう(前期は黒字)
  • 債務超過ではあるが資本性ローンを考慮すると純資産は「プラス」
  • 資本性ローンを借入として加味した場合の借入依存度は「90%」で借入過多の状態
  • 毎月の返済額を減らしたいので役員保険用の生命保険を解約して一部返済を行いたい
  • 返済をした分は、3か月後にメインバンクから短期コロガシで借入をしたい

■生命保険積立金を繰り上げ返済に使うのはいいのか?

将来の退職金のために生命保険金を積み立てているのは多くの会社で行われています。ただし、毎月の生命保険の掛け金が「損金」(現在は節税用の保険は少ないですが)になり、さらに営業利益が赤字に転落するのは本末転倒です。

将来の退職金の前に、目の前の資金調達に支障が出ては意味がありません。そこで、資金繰りのために生命保険を解約するのは 経営判断として「英断」 だと思います。

ただし、 解約金を借入の繰り上げ返済に使うのは慎重に検討すべき です。すでに借りている資金を繰り上げて毎月の返済額を減らしたい考えは理解できますが、ポイントはその後少なくとも1年間で新たな資金調達ができるのかどうかを判断する必要があります。

さらに、そもそも一度借りた資金を繰り上げ返済すること自体、私としては反対です(手元資金が6か月以上の運転資金を持っていれば話は別ですが)。

■資本性ローンと借入依存度について理解する

本ケースで重要なポイントは、資本性ローンの性質と借入依存度の水準です。

資本性ローンは、金融機関の資産査定において自己資本とみなされる特殊な融資です。返済期間中は元金返済が不要で利息のみの支払いとなり、資金繰りを安定化させる効果があります。また、原則として繰り上げ返済ができないという特徴もあります。

一方、借入依存度とは総資産に占める借入金の割合を示す指標で、企業の借入への依存度合いを測るものです。 一般的には30%以下が健全、60~65%を超えると危険水域、70%以上は要警戒とされています。

本ケースの借入依存度90%という数値は極めて高く、過度の借金体質と判断されます。金融機関からの評価も厳しくなり、新規融資が困難になる可能性が高い水準です。

■繰り上げ返済後の資金調達の可否を考えるには

本ケースの場合、生命保険解約金で繰り上げ返済を行い、その数か月後に「短期コロガシ(返済がない)」にて資金調達をする資金繰りを組んでいました。

ここで「短期コロガシ」について説明しておきます。正式には「短期継続融資」といい、期日一括返済を条件とした1年以内の短期融資で、期日到来時に手形の書換を行うことで融資をつなぎ、返済期限を延長する手法です。無担保・無保証で元金返済が不要なため、企業にとっては魅力的な融資形態ですが、実際には利用のハードルが高い融資です。

ここで大事なのは、下記の点を見落としていることです。

  • 今期は営業利益が赤字で、資本性ローンはあるものの、借入依存度が90%と過多である
  • 「短期コロガシ」は正常先でもハードルが高い融資手法である■銀行の債務者区分と融資スタンスを理解する

ここで銀行の融資判断の基礎となる「債務者区分」について理解しておく必要があります。

銀行は融資先企業を財務状況や返済状況により、次の5つの区分に分類しています。

  1. 正常先: 業績が良好で財務内容に問題がない企業
  2. 要注意先: 業績が低調または財務内容に問題がある企業
  3. 破綻懸念先: 経営破綻に陥る可能性が大きい企業
  4. 実質破綻先: 実質的に経営破綻している企業
  5. 破綻先: 法的に経営破綻している企業

この債務者区分により、銀行は融資スタンスを大きく変えています。正常先であれば融資審査は比較的スムーズですが、要注意先になると融資は受けにくくなり、要管理先(要注意先の中でも3か月以上の延滞や返済条件の緩和がある企業)以下になると新規融資は極めて困難になります。

本ケースの場合、営業赤字で借入依存度90%という状況では、債務者区分が「要注意先」以下になる可能性が高いと考えられます。この状況で短期コロガシのような融資を新規で受けることは、正直なところ非常に難しいと言わざるを得ません。

つまり、クライアントが望んでいる「短期コロガシ」での資金調達の可能性は「低い」ということです。

■繰り上げ返済を検討する場合の判断基準

仮に繰り上げ返済をやるとしたら、次の条件が満たされる場合に限定すべきです。

  • 繰り上げ返済後でも資金繰りは円滑で新たな資金調達がなくても回る
  • 繰り上げ返済後の受注環境が見通せて売上が確保できる
  • 手元資金が十分にあり、予期せぬ支出にも対応できる

この3点がすべてOKであれば、繰り上げ返済も検討してもよいかもしれません。

ただし、本ケースのように借入依存度が高く、業績も悪化している状況では、繰り上げ返済よりも手元資金を確保し、資本性ローンを活用しながら本業の収益改善に注力することが優先されるべきだと考えます。

税理士の皆様には、クライアントの財務状況を総合的に判断し、銀行の視点も踏まえたアドバイスをしていただければと思います。

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執筆者プロフィール

徳永 貴則(とくなが たかのり)

平成8年に当時の大和銀行(現りそな銀行)に入行。都心店舗を中心に法人融資業務を主担当し、本部の融資審査セクションでも業務を経験。2000社ほどの銀行融資に携わった経験を生かして、株式会社スペースワンを立ち上げ独立。多くの銀行融資コンサルティングのみならず、事業再生や経営改善のアドバイスを行っている。。

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