企業の経理部門や財務部門、管理部門に所属している方が、税理士資格の取得を目指すケースもあるでしょう。また税理士の勉強をし、税理士法人に勤務していたけど、一社へもっと踏み込んで力を発揮したいと、企業への転職を希望する方も多いようです。
このように近年、税理士の転職先として注目を集めているのが、一般企業で働く「企業内税理士」というキャリアパスです。企業内税理士とは、一般企業や組織に正社員として雇用され、社内の税務業務を専門的に担当する税理士を指します。外部の税理士に依頼するのではなく、自社内に税理士を配置することで、税務リスクの管理やコンプライアンスの強化を図る企業が増えているのです。
では、実際に企業内税理士として活躍している人たちは、どのような現状の中で働いているのでしょうか。税務業界以外で働くメリット、そして課題は何か。税務会計業界の就職・転職支援に20年以上携わってきた、採用コンサルタントが分析してみました。
■企業内税理士として働く3つのメリット
1)安定した収入とワークライフバランスを両立しやすい
税理士事務所では事務所の売上に年収が大きく左右され、繁閑の差も激しくなりがちです。一方、企業内税理士の場合は企業の給与体系に則った安定した収入が保証されます。また大手企業であれば福利厚生も充実しており、住宅手当、家族手当、退職金制度などが整備されていることが一般的です。
2)税理士法人や事務所と比較し、繁忙期の負担が軽い
企業内税理士であっても、確定申告期や決算期といった繁忙期はあります。しかし税理士法人や会計事務所のように複数のクライアントを同時に抱えることはないため、働き方のコントロールがしやすくなります。
例えば女性税理士の方でも、育児や介護との両立がしやすい企業が増えてきました。長期的に安定したキャリアを築きたい方にとって、企業内税理士は魅力的な選択肢となるでしょう。
3)経営に近い立場で仕事ができる
外部の税理士として関わる場合と異なり、企業内税理士は社内の人間として経営会議に参加したり、事業計画の策定段階から税務面でのアドバイスを提供したりすることができます。経営判断に直接関与する機会も多く、
税務という専門性を活かしながら、経営全般に対する理解を深めることができる
のです。
■企業内税理士に求められるスキルと経験
企業内税理士への転職においては、税理士資格だけでなく実務経験が重視されます。特に
法人税の実務経験は必須
で、上場企業や大企業であれば連結納税や税効果会計の知識も求められるでしょう。また税務だけでなく、会計や財務の知識も必要とされるため、日商簿記1級や公認会計士試験の科目合格があると有利に働きます。
コミュニケーション能力も重要なスキルの一つです。企業内税理士は、経理部門だけでなく、事業部門や経営企画部門、法務部門など社内の様々な部署と連携しながら業務を進めます。税務の専門家として複雑な税制を分かりやすく説明する能力、他部門からの相談に的確に対応する能力が求められます。
■大手・上場企業の税務部門で専門性を活かす
大手・上場企業の税務部門では、法人税、地方税、消費税などの申告業務はもちろんのこと、それ以上に重要な役割があります。
1)多彩な場面で専門性が求められる
例えば、個別取引に関する税務判断、M&Aにおける税務デューデリジェンス、組織再編に伴う税務ストラクチャーの検討、海外子会社の税務管理、移転価格税制への対応など。企業活動全般にわたる高度な税務業務に従事します。
また月次や四半期ごとに税務リスクを洗い出し、経営陣に対して税務戦略を提案する機会もあり、単なる申告業務にとどまらない戦略的な役割を担うことが可能です。
2)年収は企業規模に応じて変化
企業内税理士の年収は、
就職する企業の規模や給与テーブルによってまちまち
となります。大手企業への入社や、特定の専門分野への知識や対応力が求められる採用であれば、その分給与額も上がります。
大手企業であれば転職直後でも
年収500万円以上が一般的
です。また国際税務など専門性の高い分野での経験があれば年収600万円以上の条件で採用されることも珍しくありません。管理職に昇進すれば年収800万円から1,000万円以上も十分に視野に入ります。
さらにスキルを磨き実績を高めていくことで、昇進や好待遇部署への移動の可能性も。例えば経営企画部門への異動やCFO候補としてのキャリアパスも開かれており、企業内でのキャリアアップによって年収1,500万円を超えることも可能です。
■ベンチャー企業・スタートアップで成長を支える
急成長中のベンチャー企業やスタートアップも、税理士にとって魅力的な転職先の一つです。創業間もない企業や急拡大する企業では、税務体制が整っていないケースが多く、ゼロから税務体制を構築できるやりがいがあります。
1)経営全体への理解を深めて
ベンチャー企業での税理士の役割は、単なる税務申告にとどまりません。資金調達時の税務アドバイス、ストックオプション制度の設計、将来的なIPOを見据えた税務体制の整備など、企業の成長フェーズに合わせた戦略的な税務サポートが求められます。
また少数精鋭の組織であるため、
税務だけでなく経理や財務、時には人事労務まで幅広い業務に携わる
ことができ、経営全般に対する理解を深められます。
2)ベンチャー企業における企業内税理士の年収
年収については企業の資金状況によって、大きく異なると言えます。将来性のあるベンチャー企業であれば、ストックオプションなどのインセンティブを含めて
年収600万円から800万円程度
が期待できるでしょう。これも企業ごとにまちまちと言えるので、実際にベンチャーに転職を検討される際は、よく確認しましょう。
企業がIPOに成功した場合、ストックオプションによって大きなリターンを得られる可能性もあります。
3)長く、共に成長を重ねていくために
転職時のポイントは、企業のビジネスモデルと将来性をしっかりと見極めることです。急成長企業では長時間労働が常態化している場合もあるため、働き方や企業文化についても事前に確認することが重要です。長期的な視野に立って、共に成長することが求められることが多いため、自分にマッチする企業風土か十分に確認することが肝要です。
■金融機関で専門性を活かす特殊なキャリア
銀行や証券会社などの金融機関も、税理士の専門性を活かせる転職先です。金融機関では、主に富裕層向けの資産運用アドバイスや相続対策、不動産オーナー向けの税務コンサルティングなどの業務を担当します。
1)金融機関において最も求められる役割
金融機関での税理士の役割は、
顧客に対して税務面からの最適な資産運用戦略を提案する
ことです。相続税や贈与税の試算、不動産の有効活用による節税対策、事業承継計画の立案など、資産税に関する高度な専門知識が求められます。また金融商品の販売に関する税務アドバイスも重要な業務の一つです。
2)金融機関に勤務する際の年収目安
年収は金融機関の規模や役職によって異なりますが、メガバンクや大手証券会社であれば
年収600万円から1,000万円程度が一般的
です。営業成績に連動したインセンティブ制度を採用している場合も多く、実績次第でさらなる高年収も期待できます。
3)転職に際して求められること
転職には、税理士資格に加えて資産税や相続税に関する実務経験が重視されます。また顧客対応が中心となるため、高いコミュニケーション能力と営業スキルも必要とされます。
■まとめ
近年は大手の税理士法人や、革新的な思考を持つ若手所長によって、税務会計業界の就労環境も大きく変わりました。それでも、税理士法人や会計事務所よりも、一般事業会社の方が先に各種福利厚生や休日休暇の制度、待遇面を含む就労環境の整備が行われる傾向があります。
特にコロナ禍以降、新人・ベテランの区別なく働き方の多様化を重視する人が大幅に増えました。一度知った「働きやすさ」は、転職先においても求めたくなるもの。公私のバランスを取りながら、知識とスキルを生かす働き方を望むのであれば。企業内税理士という働き方も選択肢の一つとして持っていても良いのかもしれません。
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ジャスネットキャリア編集部
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編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。