これから出産や育児休暇を控えている、もしくは現在出産・育児休暇中(退職済み)の女性にとって「社会復帰できるのか」、「あらたに会計分野で仕事がみつかるのか」など、将来に対して大いに不安があることでしょう。
今回は育休中から簿記の勉強を始め、現在は税理士として活躍する女性にその体験談をまとめていただきました。
女性の税理士は活躍できるの?出産、育児休暇後の復帰の職場復帰のしやすさについて
これから出産や育児休暇を控えている、もしくは現在出産・育児休暇中(退職済み)の女性にとって「社会復帰できるのか」、「あらたに会計分野で仕事がみつかるのか」など、将来に対して大いに不安があることでしょう。
今回は育休中から簿記の勉強を始め、現在は税理士として活躍する女性にその体験談をまとめていただきました。
わたしは現在40歳、東京の税理士法人で勤務税理士として働いており、中3・中1の2人の息子がいます。生まれは兵庫県で、学生時代~就職までは関西で過ごしました。
高校から理系で、大学・大学院と土木工学を専攻し、最初の就職先として選んだのは関西を拠点とする土木業界のコンサルタント会社での技術職。ただ、その会社にいたのは一年ほどで、結婚・妊娠・上京を機に退社し、いったん専業主婦になります。
その当時、会計の知識はゼロだったのですが、育児の合間に「何か資格を取ろう」と思ったのがきっかけで簿記の勉強を始めました。まず日商簿記3級からのスタート、独学で2級まで合格したのち、税理士試験に進みます。
初受験は2010年、30歳になる年でした。そこから3年目にして1科目目の消費税法に合格し、都内の税理士法人でパート勤務を始めます。そこでは繁忙期を中心に2年間お世話になり、その後個人の会計事務所に移ることになりました。4年間パート勤務で働きながらさらに2科目合格し、3科目合格者となります。
またこの間に仕事と並行して、税法2科目免除のため立教大学大学院に2年通学します。2020年3月に立教大学大学院を修了し、同年秋に晴れて税理士有資格者となりました。
そして現在勤務する都内の税理士法人に転職、15年ぶりに正社員として働き始めました。40歳になる年の転職活動でしたが、ありがたいことに4社から内定をいただき、税理士資格はこの業界で評価されるのだということを実感しました。そして2021年4月に税理士登録し、約10年かけて税理士になる夢を叶えることができたのです。
夫の東京赴任により関西を離れ、また妊娠したことで関西ローカルの会社を退社し専業主婦になり、長男を出産。実家・義実家が関西のため、預け先のない東京で育児と仕事を両立するのは難しく、育児に専念する日々の中、「いつか社会復帰できるのだろうか」という漠然とした不安が常につきまとっていました。
専業主婦になり3年目、次男を妊娠中に、友人にもらった日商簿記3級のテキストがあったことを思い出し、そのテキストを使い独学で勉強を始めることに。簿記3級合格後に次男を出産、その1年後に2級に合格しました。
ここまで順調でしたが、その後1級には2回連続で落ちてしまいました。ここで税理士試験の存在を知ります。税理士試験は受験資格に簿記1級合格などの要件が必要なのですが、大学の履修科目が受験資格に該当する場合もあるのです。国税庁に問い合わせたところ、理系出身のわたしでも受験資格に該当する履修科目があることがわかり、受験資格を有したことで税理士試験への挑戦が始まりました。
本格的に勉強時間を確保できるようになったのは、次男が幼稚園に入園してからです。授業がある日は、幼稚園の延長保育(17時半くらいまで)を使っていました。8時半に幼稚園にお見送りをしたあと、そのまま資格の学校へ行き、2~3時間の授業を受け、幼稚園のお迎えまで時間があれば自習室で勉強、お迎えの前後で家事を片づけ、夕方以降は子供の夕飯、お風呂、寝かしつけなどをします。子供が寝てから勉強をする日もありましたが、一緒に寝てしまうことも多かったです。
次男が幼稚園の年長になった年は、幼稚園のPTA副会長とパート勤務、財務諸表論の勉強を並行していたこともありました。自分の性質上、「勉強とそれ以外の何か」を同時進行して忙しくしている方が、試験結果が伴うことが多かったように思います。
小学校一年生になった年に、息子2人を地元のリトルリーグ(硬式野球)に入団させました。土日は早朝4~5時にお弁当作りが始まりますが、お弁当さえ作って見送ってしまえば、朝7時以降夕方までは勉強時間に使えます。
月に2回ほどある当番の日は、朝から晩までグラウンドですので、なかなかまとまった勉強時間が確保できませんでした。このような場合は、あらかじめスマホに暗記する理論を保存しておき、当番の合間にグラウンドの隅でこっそり暗記を。とにかく「時間があれば理論暗記しよう」と電車の中でも公園のベンチでも、どこに行くにも理論の本を持ち歩き、スキマ時間に暗記していました。
税理士試験はどの科目(全11科目)も本試験は2時間です。税理士試験の受験を始めて最初の2年は、次男がまだ幼稚園に入る前でしたので、2時間の問題をまとめて解く時間はほとんどなく、結果は2年連続D判定で不合格(当時不合格はA~Dでランク付けされ、D判定は最低の評価でした)。
3年目(2012年)の受験では、春に次男が幼稚園に入園し、試験直前期(5月から8月上旬の本試験まで)に昼間通学してまとまった時間勉強することができ、その年1科目目の消費税法に合格することができました。専業主婦になってから6年たち、ようやく手に入れた科目合格は本当にうれしかったです。
しかしその翌年(2013年)、簿記論・財務諸表論を2科目同時受験しましたが、2科目ともA判定で不合格。前年に1科目受かったことで自信になったものの、どこかに慢心があったのかもしれません。
連続して合格を掴みとることは容易ではなく、税理士試験は甘くないなと痛感しました。その翌年(2014年)は次男の幼稚園でPTA副会長をしていたこともあり、無理をせず財務諸表論1本に絞って受験することを決意。
そして、財務諸表論の試験後、実務経験を積もうと9月から都内の税理士法人でパート勤務を始めました。同年12月、財務諸表論の合格通知が届き、ようやく2科目合格者になることができました。
その翌年からの3年間は、別の会計事務所に移り、パート勤務と育児と両立して、法人税法にチャレンジ。5科目合格を目指すには、法人税法または所得税法の合格が必須なのです。
法人税法は税理士試験の科目の中でも最難関・最大ボリュームといわれる科目ですので、直前期は暗記しなければならないことが大量にあり、身体的・精神的にハードな状況です。しかし、結果は3年連続A判定で不合格。
最初の年の不合格こそものすごく落ち込み、「諦めずまた来年受けよう!」と思いましたが、最後の年には「3年も育児しながら法人税法を受験し続けた自分、よく頑張ったな」という思いが芽生えていました。
ここで、税法免除の大学院へ通う決心をします。3回目の法人税法の不合格通知が届いた12月から、大学院へ入学するための準備を始めました。年が明けて2月に立教大学大学院の入試を受け合格、春から晴れて大学院生としての生活です。
大学院1年目に残りの科目である簿記論を受験し、その年の12月に3科目合格者となったことで、あとは修士論文を残すのみ。気づけば税理士試験は9年連続の受験、わたしの受験生活はここに終わりを告げました。
わたしは3科目合格するのに、9年ととても長くかかってしまいましたが(法人税法不合格の3年含む)、育児のスキマ時間を使い、日々のストレスをためこまないようマイペースで進めていったことが、途中で断念せず最後まで受験し続けられた秘訣だったのかもしれません。
育児・仕事・試験(プラス大学院の時もあり)のワークライフバランスを保つためには、正社員勤務だと時間的に難しかったと思います。
かといって、仕事をしなければ、いくら勉強をしていても実務経験が積めません(税理士登録するには2年の実務経験が必要)。そこで、働き方はパート勤務で、育児と両立するのに融通の利く少人数の会計事務所に転職しました。
試験直前は休暇を多くいただく、昼間大学院の授業がある曜日は休ませてもらう等、希望は事前にすべて伝えていました。その代わり、仕事がたまっていれば休日出勤で埋め合わせをするようにしました。
心掛けていたのは、職場だけでなく家族や子供の学校・野球のつながりでも、税理士試験の勉強をしていることを伝えて、応援していただけるような環境づくりをすることです。周りに伝えることは良いプレッシャーにもなり、特に大学院への通学期間では「絶対2年で修了する」という強い気持ちを2年間持続させるのに有効であったと思います。
最初にパート勤務をした税理士法人では月次入力作業のみでしたが、次に移った会計事務所では、時間給ではあっても顧問先を持ち打合せもしていました。パート勤務でも、仕事の内容は事務所によって様々です。
まだ子供が小さい等の理由があり、正社員で働くのを躊躇している時期こそ、色々な会計事務所をみるチャンスだと思います。
パート勤務を数年経験することで、会計ソフトの使い方に慣れることができました。税理士となった今は、入力作業はほとんどせず、チェック作業が主となっていますが、入力作業の経験はチェック作業にも役立ちますし、パート勤務時代の経験は私の仕事の糧になっています。
税理士資格は国家資格の中でも難関といわれる資格で、1科目の合格率が10%ちょっとの競争試験ですので、1科目でも受かれば周りの見る目は変わります。
税理士法人や会計事務所の多くが採用条件としている「科目合格者」になれば、再就職には非常に有利だと感じました。さらに税理士になればお客様には「先生」と呼ばれることも少なくなく、専門家として誇りをもって働ける魅力的な仕事だと思います。
また、女性税理士は税理士全体の1~2割くらいですので、「女性」というだけで希少価値が高く、強みになります。わたしのように、出産・育児でキャリアを中断した者でも、「その間に育児と両立して勉強し、国家資格を取得した」という事実があれば、転職活動で高く評価されます。
2020年秋より15年ぶりに正社員として転職しましたが、20代で就職した頃より高い給与からスタートできました。そして何より、頑張って勉強した知識を活かせる仕事ですから、日々の仕事にやりがいを感じることができます。
税理士試験と育児を両立する日々は大変ではありましたが、科目合格が増える喜びは他の何物にも代えられません。合格通知が届いた日、息子たちと一緒に喜んだことは、本当に良い思い出です。そんな息子たちも今はもう中学生、家事を手伝ってくれたり、正社員で働くわたしを労わってくれたりもします。それを見て今度は、「息子たちの学費を稼がなければ!(笑)」と仕事への意欲がわいてきます。
40歳で新入社員、新米税理士でまだまだ未熟なわたしですが、ステップアップして再スタートできたのも税理士資格のおかげ。難関試験に挑戦してよかったと、いま心から思います。
このコラムが、これから税理士資格に挑戦しようと考えている女性の参考になれば、望外の喜びです。
兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。
関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。
硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。
「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。
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