税理士試験は、試験科目11科目のうち、5科目の試験に合格しなければなりません。
それぞれの試験科目は、1科目だけでも幅広い分野を学習しなければならず、科目ごとの合格率も10%前後と難易度の高い試験です。
そのため、受験自体が長期化する傾向にあります。このことから近年では科目免除を目指す受験者が増えている傾向にあります。今回は、この免除制度について見ていきましょう。
科目免除とは?社会人が働きながら最短で税理士になるには?
税理士試験は、試験科目11科目のうち、5科目の試験に合格しなければなりません。
それぞれの試験科目は、1科目だけでも幅広い分野を学習しなければならず、科目ごとの合格率も10%前後と難易度の高い試験です。
そのため、受験自体が長期化する傾向にあります。このことから近年では科目免除を目指す受験者が増えている傾向にあります。今回は、この免除制度について見ていきましょう。
日本税理士会連合会のサイトを見ると、税理士になるためには次の4つの方法があると記載されています。
①税理士試験に合格した者であること
②税理士試験を免除された者であること
③弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む。)
④公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む。)
ここで、②の免除の対象となるのは、修士、博士の学位による「学位による免除」制度と税務署への勤務による「国税従事者における免除」の2種類があります。
このうち、学位による免除は、大学院で修士の学位取得に係る研究について、国税審議会からの認定を受けることにより、試験の分野(会計科目、税法科目)ごとに会計科目で1科目、税法科目で2科目の試験が免除されるものです。そのため、会計に関する学位と税法に関する学位を両方取得すれば、税理士試験は2科目で合格することができるのです。
免除制度を利用するには、学位取得が必須のため、大学院での論文作成を行わなわなければなりません。そのため、指導教官に指導を受けながら、自身の研究課題について、2年間の学生生活の中で掘り下げて考えます。税法の体系的な考え方を理解したうえで、数多くの税務判例を読み、5万字を超える論文の作成をおこなわなければならず、税法に関する幅広い知識が必要です。
こうした学習は、各税法の条文を個別に理解し、より実践的な問題に当たらなければならない税理士試験の学習と異なり、税務調査や税務裁判など、論理的思考が必要となる業務において必須となる知識です。
一発勝負の試験が苦手な人にとっては、2年間の努力の積上げが確実に成果に結びつくのも魅力の一つであるでしょう。
大学院の授業においては、税理士試験の学習で学ぶような各税法の詳細な各論についてはあまり学習する機会がありません。
税理士試験では、その年の法改正の内容や各規定の細かい判定基準まで参考資料を見ることなく解答を出せるまでの能力が必要です。また、理論問題は該当する条文規程を用いて解答を作成しなければならないことから、多くの受験生が受験する科目の条文規程を丸暗記して試験に臨みます。
そのため、試験合格後に業務に当たっても、先輩職員と共通の知識で会話をすることができますが、大学院の学習ではこうした実践的な学習はほとんど行わないため、自身でこうした学習をしておかなければ、仕事についていけないケースもあります。
そのため、教育環境に乏しい中小の会計事務所などでは試験合格者を好む傾向があり、就職の際に不利になるケースもあります。
それでは、免除制度をどのように利用すればよいのでしょうか?
一般的にこの制度は、税法科目に関する免除申請で利用する人が多いです。
税理士を目指す受験生は、税理士試験の学習の前に日商簿記検定などの簿記の学習から始めます。そのため、簿記を含めた会計科目については親和性が高く、合格のハードルも低いと言えますが、税法条文を読み込み、暗記する税法科目になると学習内容事体の勝手も異なり、多くの受験生がここで挫折してしまいます。
税法科目の学習がハードになる過程で、途中から大学院受験に舵を切る受験生が多いのです。
しかし、近年では初めから大学院受験を視野に入れて学習計画を練る受験生も増加傾向にあります。
では、どのタイミングで大学院受験を行えばよいのでしょうか?
筆者の考える最短合格のモデルケースは以下のとおりです。
1年目~2年目 ⇒ 簿記・財務諸表論受験
2年目~3年目 ⇒ 税法科目 1科目受験
4年目、5年目 ⇒ 大学院入学、論文作成
まず、会計科目2科目は共通した学習内容も多く、2科目の親和性が高いことから同時に学習するとよいでしょう。
簿記は処理内容、財務諸表論はその処理に関する理論の学習なので、共通する論点を処理と理論の両軸で学習することで、理解が深まるだけでなく時短学習にも繋がります。
税法科目の免除は、合格に必要な3科目のうち、2科目が免除されるため、1科目は受験により合格しなければなりません。この1科目の合格は大学院入学までに終わらせることが望ましいと考えます。
なぜなら、大学院では論文作成以外でも通常の授業での単位取得が必要であり、その授業における試験やレポート作成も行わなければならないことから、大学院の学習に絞らなければ、肝心の論文作成ができなくなってしまいます。そのため、税理士試験の学習との両立はできないものとして計画を立てなければ、どちらもうまくいかない可能性が高いのです。
なお、大学院の学習は、いきなり専門的な学習に入ってしまうため、基本的な税法条文の読み方がわからないとついていけなくなってしまうという意味でも、大学院入学前に学習しておきましょう。
では受験する税法科目を何にするのかは、以下のように今後のキャリアも踏まえたうえで選択するとよいでしょう。
大手税理士法人で活躍したい ⇒ 法人税法
個人事務所で独立して活躍したい ⇒ 所得税法
相続などの資産税関係の仕事をしたい ⇒ 相続税法
こうした方向性が定まっていない場合には、これらの国税三法よりはボリュームが少ないものの、近年重要性が増している消費税法を選択するとよいでしょう。
なお、短期合格を目指し、国税徴収法や酒税法などのボリュームが少ない科目を敢えて狙う受験生も多いのですが、こうした知識は実務で活用できる機会が少ないため、1科目しか受けないのであれば、将来税理士になった後も考え、こうした科目ではなく、実務で有用な科目を選ぶようにしましょう。
このように、税理士になる手段はさまざまな選択がありますが、免除制度を活用したところで、楽に資格を取得できるわけではありません。
また、税理士業務にはすべての税法の学習が必要であり、受験合格者といえども、自身が受験した科目以外も学習しなければ実務を行うことはできません
しかし、一つだけ言えることは、どのような方法であれ、税理士資格を取得しなければ業務を行うことができないのですから、実務における経験を長く積むことが重要であり、資格取得は早めにパスするべきでしょう。そうした過程のなかで、免除制度についても検討してみるのも重要です。
神奈川県出身。税理士。
早稲田大学在学中から地元会計事務所に勤務。その後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、大手企業経理部に勤務したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。幅広い実務経験と、講師経験から実務家向けセミナー講師多数担当。「実務」と「教えるプロ」の両面に基づいたわかりやすい解説に定評がある。実務においては、街歩き、旅行好きの趣味を生かし、日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、『旅する税理士』。
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税理士 小島 孝子
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