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会計事務所はなぜやめておけと言われるのか?その理由と対策を解説

税理士 定岡 佳代

図1

ネットなどで散見される「会計事務所はやめておけ」という意見。

今は情報を収集した上で探すことでよい会計事務所に就職することができると思います。一方で、一定数存在するブラックな会計事務所がそういった評判を生み出しているのかもしれません。

「会計事務所はやめておけ」といわれる原因は何でしょうか。ここでは税理士の定岡佳代先生に、会計事務所で働く人が「辞めたい」と思ってしまう理由と、その不満点を解消する対策についてお伺いしました。

今回のお話を参考にすれば、いわゆるブラックな会計事務所も見分けることができるかも…?

会計事務所勤務が未経験の方も、既に勤務している方も、ぜひ最後までお読みください。

■ 会計事務所を辞めたくなる3つの理由

1. 人間関係の問題

(1)合わない人がいても部署異動ができない

一般に会計事務所は小規模で、勤務している人数も数名~20名くらいの少人数であることが多いでしょう。

この点で一般的な事業会社と違い、合わない人がいるなどの理由があっても部署や配置換えなどで対応することができません。総じて小さな社会の中でストレスを感じ続けることになってしまいがちです。

特に、所長の年齢が高く規模が小さいところでは、所長と長年事務所を支えてきたスタッフがいるケースがあります。また、この方が事務所の雰囲気を作り出している、ということが多いです。

仕事の性質上、新人の頃は所長ないし長年勤務しているスタッフと一緒にクライアント周りをして仕事を覚えていくことになります。よって、その人たちとの相性も重要なポイントになります。

(2)事務所の独自ルール、明文化されていないルールの存在

また、申告書の作成方法などに確固とした独自のルールをもっており、自分のやり方と違うことを非常に嫌がる人もいます。そして長年勤務している方ほど、「会計事務所はこうあるべきだ」という信念を変えられないのではないでしょうか。

そういった少人数ならではの閉塞感、明文化されていないルールへの対応などが、働く人間を悩ませてしまうことが多いように思います

特に、20代~30歳前後の若い方は、こういった悩みを吐き出す場所が所内にないと感じた場合、いつの間にか辞めてしまうことも少なくありません

2. 仕事が多くてキツイ

(1)自身のキャパオーバー

税理士の仕事には「期限厳守」「数字を合わせる」「正確にできて当然」というプレッシャーがあります。どれもプロフェッショナルとしては当たり前のことなのですが、特に新人の頃は気持ちの抜きどころがわからず、常に全力で対応してしまうことで、自分がキャパオーバーになってしまうことも珍しくありません。

特に、仕事をしながら税理士試験の勉強をしたいと思っている場合、残業が多く思うように勉強が進められずに、ストレスを抱えてしまうケースも多いのではないでしょうか。

(2)自身だけでは対応できない事態に巻き込まれる

また、クライアントの業種、年齢、性格なども様々ですので、自分だけでは対応しきれず、どうしようもない事態に陥ることもままあります。

最近では社会全体の高齢化の影響で、クライアントがExcelを使えず手書きの資料しか作成してもらえない、会計資料を催促しているがなかなか共有してもらえず期限までに必要な資料が揃わない、などのトラブルに時間を割かれることもあります。

さらに、勤続年数があがると新人の教育担当になることで、昼間はクライアント対応と新人教育などに追われ、自分の仕事に取りかかることができるのは業務時間外などになり、残業ばかりになってしまうというパターンもあります。

(3)給料のスタートラインが低い

会計事務所の場合、税理士の資格があるかどうかで大きく給与が違います。やはり資格があるとスタートラインの基本給も高く設定されている場合が多いのではないでしょうか。

ただし、実務未経験の場合は、資格の有無とは関係なく、基本給が高く設定されているとは限りません。また、経験者の場合は、即戦力とみなされ基本給が高く役職を与えられる代わりに残業代がでない、という事務所も少なくありません(いわゆる「みなし残業」が基本給に含まれています)。

残念ながら、「残業はやむなし」という雰囲気の事務所もまだまだ多いのが現状です。

■ 会計事務所を辞めたくなったときの対策

1. 「人間関係の問題」に関する対策

そもそも少人数の会計事務所は、人間関係が密になりやすい傾向があります。これは会計事務所勤務の面白い要素でもありますが、どのような雰囲気なのかは実際に勤務してみるまではわかりません。

一般企業から転職する方で、人間関係のリスクを心配されている方は、なるべく人数の多い大手を選ぶ方がよいのではないでしょうか。

また、会計事務所に限らず組織の中で働くときには、相性の悪い人がいたり、人間関係がうまくいかないことは少なからずあると思います。

転職という選択肢もあると思いますが、やはりそれは最終手段。まずは同じ事務所内の同僚、または他の会社事務所の方でもいいので、同じような環境で働いていて相談できる相手を見つけましょう。

たとえば、税理士試験の勉強をしている人たちが集まる研修、セミナー、懇親会などがあります。このような会に参加し、仲間の輪を広げるのもいいと思います。不満はためこまず、小出しにして解消していくことが健康的な社会人生活を送るコツではないでしょうか。

あと、これから採用面接を受ける方は、所長や長年勤務しているスタッフの方について、また在籍スタッフの年齢層など、人間関係のヒントになりそうなことをさりげなく聞いてみるのもよいかもしれませんね。

2. 「仕事がキツイ」場合の対策

(1)業務量が多い場合の対策

① 仕事に慣れるにはあるていど時間がかかるものと割り切る

会計事務所の仕事は細かい上に正確性を求められるため、最初は業務量の多さに圧倒されるかもしれません。特に慣れないうちは仕事の全貌がみえないため、業務のメリハリがわからず、ストレスを蓄積してしまうこともあるでしょう。

しかし、仕事に慣れるためにはある程度の時間が必要です。会計事務所は1か月、1年単位でルーティンを繰り返しています。1年いれば、シーズン毎の業務の流れを知ることができます。決算・申告業務も毎月のように行っていれば、やがて申告書作成のコツのようなものがわかってきます。

「石の上にも3年」ということわざの通り、年末~繁忙期を3回繰り返せばある程度わかってきますので、最低でも2年半~3年は一つの会計事務所で、じっくり業務に取り組んで みてはいかがでしょうか。

また、新人の方には下記の本が大変オススメです。会計事務所の1年のルーティンがわかりやすく解説されていますので、ぜひ一読してみてください。

『税理士事務所に入って3年以内に読む本』
著者:高山弥生  出版:税務研究会出版局

② タスク管理を徹底する

会計事務所の職員は、複数の顧問先を担当するので常に多くのタスクを抱えています。初めて見るわからない事象につまずいて、時間ばかり過ぎてしまうこともあるでしょう。

そんなときは、いったんは別のことを進めて、後に改めて取りかかるとすんなり解決することもあります。タスクの優先順位をつけるためにも、全体を把握することが大事です。

わたしの場合は、iPadを活用してタスク管理をしています。くわしくはこちらのコラムの最後のほうに書いていますので、よろしければ参考になさってください。

(2)業務のプレッシャーがきつい場合の対策

① 「できて当たり前」は、大きなプレッシャーになる

会計事務所の業務はクライアントのお金に直接影響を与えるため、「絶対に間違えることができない」「締切りを守らなければいけない」というプレッシャーがどうしてもつきまといます。

「できて当たり前」で褒められることがない少ないため、精神的に疲弊しやすい傾向があり、これがさらにプレッシャーになることもあるのではないでしょうか。

また、このような環境に慣れてくると、他人に無関心になりがちで、各人の業務が見えづらく属人化してしまうという問題があります。

② お互いを褒め合う文化の醸成

この直接の解決策になるかは定かでないですが、わたしの知っているとある会計事務所のお話をします。

その事務所では、毎月1時間ほど全員であつまり、「特定のスタッフについて、一人ずつよいところを褒める時間」を設けているそうです。毎月順番に褒める対象を変えていくことで、所員全員がお互いのことに注目する機会をもつことができます。

これは職員個人ではなく事務所の上層部が行う対策ですが、お互いに気持ちよく長く働いてもらうためのメンタルコントロールとして、有効な手段ではないでしょうか。

③ プレッシャーはためこまない

また、プレッシャーはためこまず、吐き出してしまうのもよいでしょう。わたしの知る会計事務所勤務の女性スタッフには、業務中に泣いてしまったことがある、という方が何人かいます。

そういう方は事務所を簡単には辞めませんし、そのような経験も自分の糧にして後々成長しています。けっして泣くことを推奨しているわけではありませんが、人間ですから、負の感情は過度にため込まず、時には吐き出してしまいましょう(ただし、他人に迷惑をかけない程度に)。

(3)残業が多い、クライアントとの関係が難しい場合の対策

業務量に慣れてきたとしても、次はクライアント対応で悩みがちなのが会計事務所勤務です。

ある程度、業務の裁量を任されているのでしたら、午前中は電話などに一切でない、メールを見る時間帯を決める、などと割り切りましょう。じつはわたしは勤務時代にこれが徹底できなくて、クライアント対応にむやみに多くの時間をかけてしまっていました。

しかし事務所勤務である限り、最終責任は所長ですので、全責任を一人で抱える必要はありません。過度なサービスをする必要はなく、職員は「たくさんのクライアントをさばく」のが仕事と思って、自分で業務をコントロールする意識を持ちましょう。

また相性の悪いクライアントというのは、どうしてもいると思います。前の担当者や周りの人にアドバイスをいただき、対応のコツや話し方を変えるなどの努力はしてみましょう。できる限りの対応をしても難しいという場合は、担当変更をお願いしてもいいのではないでしょうか。

3. 「年収が低い」と感じる場合の対策

(1)辞める場合は、辞めたあとのことをイメージする

法人のクライアントが多い会計事務所で高い給与を得るようになるためには、基本的に「税理士資格を取得する」か「長く勤める」かのどちらかしかないと思います。

今の会計事務所でクライアントを増やして売上をアップし、給与に還元させるという方法もありますが、それが難しいと感じる方もいるでしょう。しかし辞めてしまってから後悔してはいけませんので、まず情報収集をして、辞めた先のことをイメージしてみてください。

(2)エージェントの活用も一つ

経理・会計分野にくわしいエージェントに転職の相談をしてみるのもよいでしょう。会計事務所でのスキルというのは汎用性が高く、あなたが思っているよりも様々な業種に転職することができます。

会計事務所以外の業種についても情報をもっていますので、自分に合った働き方を見つけるためには、どういった職場が合うのか、詳しくナビゲートしてくれます。

(3)税務分野の専門性を持つ

また会計・税務の仕事を続けるにしても、相続専門や医療特化、国際税務(英語スキルがあれば重宝される)などの専門性の高い分野に行くことも年収アップするためのひとつの手段です。

自身の強みをもっている人材は、専門性の高い会計事務所で高収入を得られます。こういった分野に興味があれば、勉強をしながら転職活動を平行してもいいと思います。

■ まとめ

会計事務所を辞めたいと思う理由と、その対策について、わたしなりにお話させていただきました。

「嫌なら辞めればいい」と思われるかもしれませんが、すぐに行動に移せる人ばかりではありませんし、単純に何が正解なのかはわかりませんよね。

わたしも正社員時代、仕事をたくさんこなして成長したいと思う一方、キツくて辞めたいと思ったことも正直ありました。ただ、「キツい時期に辞めてしまっては成長できない」とも思い、とどまりました。

そんなこともありがながら、勤務税理士として経験を積むうちに、「クライアント一人ひとりに、もっと寄り添いたい」という気持ちが高まったので、辞めて開業という道を選びました。勤務時代にいろいろ経験させてもらったからこそ、今の働き方ができているのだと思っています。

このコラムが、あなたに合った働き方を見つける参考になれば幸いです。

執筆者プロフィール

定岡 佳代(さだおか かよ)
税理士

兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。

関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。

硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。

「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。

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