「創業したい」「設備を入れ替えたい」「自宅を購入したい」。こうした場面で、金融機関から必ずといっていいほど聞かれるのが「自己資金はいくらありますか?」という質問です。今回は、融資における自己資金の本当の意味と、その重要性についてお伝えします。
【連載】税理士なら知っておきたい『銀行融資』の知識 【銀行融資ブログ No.10】「自己資金」を用意するのは大切です
2026年3月30日 徳永 貴則
目次
■自己資金が語るのは、数字ではなく「本気度」
住宅ローンを組む際、多くの方は何年もかけて頭金を準備してきたはずです。「○歳までにこれだけ貯める」という人生設計の中で、地道に積み上げてきたお金です。近年は「頭金ゼロ」のローンも増えていますが、借入依存度が高まれば返済負担も当然大きくなります。
創業融資も同じです。起業を思い立った翌日に融資申請する人はほとんどいません。「いつか自分の会社を持ちたい」という想いとともに、時間をかけて資金を積み上げてきた——その過程そのものが、金融機関への最初のメッセージになります。製造業などで設備が必要な業種であれば、計画的な「設備積立」を行うことも同様です。
自己資金には、大きく3つの意味があります。まず、 借入額を抑えることで月々の返済負担を軽くすること。 次に、「この事業(購入)に向けて準備してきた」という 計画性を金融機関に示せること。 そして何より、 本人自身の強い意思と覚悟を示せることです。
■制度上の要件は変わっても、審査の本質は変わらない
以前、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が申し込み要件とされていました。しかし2024年3月にこの制度は廃止され、現在は「新規開業・スタートアップ支援資金」へと一本化されています。形式上の自己資金要件はなくなり、ゼロでも申請自体は可能です。
ただし、制度の要件がなくなったことと、審査で重視されなくなったことは別の話です。 実態として、自己資金が乏しい案件は「返済可能性」「計画性」「意思の確かさ」の観点から審査が厳しくなる傾向に変わりはありません。参考までに、日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」によれば、開業時の自己資金の平均は293万円、資金調達全体に占める割合は24.5%となっています。
※参考出典:日本政策金融公庫「2024年新規開業実態調査」
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_241127_1.pdf
また、自己資金がゼロのまま融資を求める方に「なぜ今すぐ起業したいのですか?」と問うと、「いい物件が見つかったから」「今がチャンスだと思って」など、ご自身の都合を中心にした答えが返ってくることが少なくありません。金融機関が見ているのは熱意だけでなく、そこに裏打ちされた「準備の跡」です。
■借りること自体は、決して悪いことではない
融資を使って夢をつかむことは、事業においてごく自然なことです。問題は「いくら借りるか」ではなく、「どれだけ準備して借りるか」です。自己資金は、その準備の証です。
金融機関は数字だけでなく、その数字の背景にある「生き方」を見ています。融資の場に臨む前に、まず自分自身に問いかけてみてください。「この夢のために、自分はどれだけの時間とお金を積み上げてきたか?」と。
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徳永 貴則(とくなが たかのり)
平成8年に当時の大和銀行(現りそな銀行)に入行。都心店舗を中心に法人融資業務を主担当し、本部の融資審査セクションでも業務を経験。2000社ほどの銀行融資に携わった経験を生かして、株式会社スペースワンを立ち上げ独立。多くの銀行融資コンサルティングのみならず、事業再生や経営改善のアドバイスを行っている。。
