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【連載】税理士なら知っておきたい『銀行融資』の知識 【銀行融資ブログNO.6】「在庫」の増加は危険なシグナルです!

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2026年1月30日 徳永 貴則

「先生、運転資金で500万円借りたいんですが、借入申込書にはどう書けばいいですか?」
クライアントからこんな相談を受けたとき、あなたはその「運転資金」が本当に銀行の考える「運転資金」なのか、見極められているでしょうか?

実は、経営者が日常的に使う「運転資金」と、金融機関が融資審査で判断する「運転資金」には、大きな認識のズレがあります。このズレを理解していないと、融資申込が通らないだけでなく、クライアントの資金繰り改善の助言も的外れになってしまう可能性があります。

本記事では、銀行融資における「運転資金」の正確な定義と、経営者が誤解しがちな3つのパターンについて解説します。税理士として知っておくべき資金使途の見極め方を、具体例とともにお伝えします。

目次

■なぜ在庫が増えると利益が良く見えるのか?

売上総利益(粗利)は「売上高-売上原価」で計算されます。この売上原価の計算式が重要なポイントです。

【売上原価の正しい計算式】
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高(在庫)

このように、在庫が増えれば増えるほど売上原価から差し引かれる金額が大きくなり、「見せかけの利益」が増加します。しかし、実際の現金は在庫に変わっているだけなのです。

中小企業では棚卸を年1回しか行わないケースが多く、期末になって初めて過剰在庫に気づきます。最も明確なシグナルは「キャッシュの減少」ですが、在庫が増えているタイミングで運良く借入ができてしまうと、表面的な残高しか見えず、気づくのがさらに遅れてしまいます。

■棚卸をしなくても在庫増加に気づく5つのシグナル

在庫の異常な増加には、以下のような「早期警戒サイン」があります。

①売上と仕入のバランスが崩れている

  • 例年の仕入量に対して売上が減少している
  • 売上が横ばいなのに仕入れが増えている

②保管スペースの逼迫

  • 倉庫や店舗の空きスペースがなくなってきている
  • 新たな保管場所が必要になっている

③営業管理が「売上偏重」になっている

  • 売上の数字しか追っていない
  • 仕入れと売上の連動を見ていない

④商品の滞留期間が長い

  • 1年以上前に仕入れた商品がそのまま残っている
  • 定番商品以外の在庫が動いていない

⑤在庫関連コストの増加

  • 倉庫費用や管理費用が増えている
  • 運送費用が売上に対して割高になっている

■典型的な失敗パターン:「10の売上のために100仕入れる」

特に卸売業に多いのが、次のようなケースです:

営業が最も恐れるのは『売りロス(機会損失)』です。顧客からの注文に即座に応えられるよう、過剰に在庫を持つことで納期を短縮し、クレームを回避しようとします。

しかし、これは顧客満足だけを見て、自社の財務を犠牲にしている状態です。

【極端な例】

  • 10万円の売上を作るために100万円の仕入れを行う
  • 残った90万円の在庫には目が向かない
  • 結果として売上は達成したが、現金は大幅に減少

■銀行が在庫をどう見ているか

銀行融資の審査では、在庫の状況を以下の視点でチェックしています:

【銀行が重視するポイント】

①在庫回転率:在庫が何日で売れているか
②在庫の質:売れる見込みのある商品か、長期滞留在庫(デッドストック)の割合
③資金繰りへの影響:過剰在庫により運転資金が圧迫されていないか

在庫が過剰な企業は、「資金管理能力に問題がある」と判断され、融資条件が厳しくなる可能性があります。

■まとめ:在庫は「現金が化けたもの」—健全な企業の分かれ道

在庫を過剰に持つことがキャッシュの減少につながることは、誰でも理解できます。しかし、実際に在庫にどれだけ目を配れるかが、健全な企業か否かの分かれ道になります。

【覚えておくべき3つのポイント】

  1. 在庫が増えると見かけ上の利益は良くなるが、現金は減る
  2. 在庫増加のシグナルを見逃さない(売上と仕入のバランス、保管スペース等)
  3. 定期的な棚卸と在庫回転率のモニタリングが必須

「利益は意見、キャッシュは事実」という格言があります。帳簿上の利益だけでなく、実際の現金の動きにも必ず目を配りましょう。

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執筆者プロフィール

徳永 貴則(とくなが たかのり)

平成8年に当時の大和銀行(現りそな銀行)に入行。都心店舗を中心に法人融資業務を主担当し、本部の融資審査セクションでも業務を経験。2000社ほどの銀行融資に携わった経験を生かして、株式会社スペースワンを立ち上げ独立。多くの銀行融資コンサルティングのみならず、事業再生や経営改善のアドバイスを行っている。。

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