■ 財務諸表論とは
(1)財務諸表の作成方法やその考え方、ルールを学ぶ科目
財務諸表とは会社の利害関係者(株主や金融機関など)に経営成績や財政状態を開示するために作成される資料のことを言います。
「財務諸表論」とは、財務諸表の作成方法やその考え方、ルールを学ぶ科目です。財務諸表論では、会計処理の理論的な背景や財務諸表の「表示」について学ぶことになります。
(2)財務諸表論は税理士試験の必須科目
財務諸表論は、簿記論と同様に取得が必須とされる3つの科目の中のひとつです(あと1つは法人税法または所得税法です)。
令和5年の試験から受験資格要件が緩和され、財務諸表論と簿記論は誰でも受験が可能になりました。これまであった学歴や日商簿記1級、もしくは全経簿記上級の合格、2年以上の一定の会計・法律事務経験者といった要件がなくなったことで、高校生でも受験が可能となり、受験者の裾野は広がったと言えます。
(3)財務諸表論と簿記論の関係とは
「簿記論」と「財務諸表論」は関連性が非常に高いため、同時に学習するのが最も効率的と言われています。
計算の過程などは同じですが、「簿記論」は仕訳帳・総勘定元帳・試算表などへ「記録」することが問われ、「財務諸表論」はこれらを用いて、外部に報告するために分かりやすく整えて「表示」することが問われます。
そのため「簿記論」と「財務諸表論」を一緒に勉強することで、効率的な学習を行うことができます。
■ 財務諸表論の出題範囲は?
税理士試験の財務諸表論は、「理論問題」と「計算問題」で構成されています。
試験時間は2時間ですが、試験内容は大変ボリュームがあり、時間内で完璧に解答するのは至難の業であるため、時間配分が非常に重要です。理論問題と計算問題の配点は下記のようになっています。
第一問 |
理論問題 25点満点 |
第二問 |
理論問題 25点満点 |
第三問 |
計算問題 50点満点 |
(1)理論問題
出題範囲は会計原理、企業会計原則、企業会計の諸基準、会社法中計算等に関する規定、会社計算規則、財務諸表等の用語・様式及び作成方法に関する規則、連結財務諸表の用語・様式及び作成方法に関する規則があります。
出題形式は記号選択、穴埋め、数行の論述などがあり、特に論述は解答行数が多ければ多いほど点数が高いと予想されるため、ここをきちんと解答できるかどうかが非常に重要です。
試験委員の先生方は作成するにあたり、問題を順序だてて作成されます。流れを正しく読み取れるかが問われるような出題がされたこともあります。
限られた制限時間で題意を読み取ることは難しいと思います。
特に理論の学習を始めてすぐの頃、自分の解答と模範解答との相違に愕然とするのは、よくあることです。しかし、しっかりと「理解する」意識を持ち学習を進めるうちに、自分の解答に違和感を覚えるのではないかと思います。
この違和感が題意を読み取れていないということです。早期からの正しい理解のためにも、会計法規集を用いた学習をすることをオススメします。
(2)計算問題
簿記論の第三問と似た問題が出題されます。簿記論との違いは前述のとおり、財務諸表(損益計算書・貸借対照表)を作成するための「表示科目」や「表示区分」を考慮しながら解答するところです。難易度は簿記論より易しい印象です。
■ 財務諸表論の合格率と難易度は?
(1)令和5年度の財務諸表論の合格率
令和5年度の税理士試験における財務諸表論の合格率は28.1%でした。例年の合格率は20%前後であるため、非常に高かったと言えるでしょう。
特に近年は合格率の振れ幅が大きい印象です。受験年度によって大きな違いが出ているのは、「合格率が高い=受け続ければ合格できるチャンスがある」という印象を付けて、受験者数を増やしたいという意図があるのかもしれません。受験資格を緩和したこともありますが、受験者数は増えています。
(2)過去5年間の財務諸表論合格率の推移
【税理士試験「財務諸表論」結果表】掲載
|
受験者数(人) |
合格者数(人) |
合格率(%) |
令和5年 |
13,260 |
3,726 |
28.1 |
令和4年 |
10,118 |
1,502 |
14.8 |
令和3年 |
9,198 |
2.196 |
23.9 |
令和2年 |
8,568 |
1,630 |
19.0 |
令和元年 |
9,268 |
1,753 |
18.9 |
■ 財務諸表論の勉強時間とは?独学でも合格可能?
(1)財務諸表論の合格にかかる勉強時間
財務諸表論の合格に必要な勉強時間は、全くの初学者の場合は600~800時間くらいは必要かと思います。
もちろん日商簿記1級の資格を持っている場合や、簿記の学習経験がある場合にはもう少し短くなりますが、それでも300時間は必要ではないでしょうか。
参考までに時間の内訳をご紹介します。これは、ある程度の簿記の知識があることを前提としています。
- 3時間の講義×60回(180時間)
- 答案練習などのアウトプット 2時間×16回(32時間)
これに答案練習前の勉強や間違った問題のやり直しなど、自分での学習時間もプラスすると、やはり300時間は超えてくると思います。
(2)独学での合格は可能か?
結論から申し上げますと、非常に難しいと思います。
今は様々なツールがあり、問題集やアプリ、動画などで勉強をすることは可能です。
しかし、試験は年1回と決まっており、そこまで一人でモチベーションを保ちながら膨大な量の勉強をしていくためには、非常に強い意志が必要です。
様々なコンテンツにお金を払い、結局、ほとんど手をつけずに試験日を迎えてしまうという方もいらっしゃいます。
やはり資格の予備校などに通い、まずは勉強の習慣をつけましょう。さらに一緒に学ぶ仲間との情報交換などでモチベーションを維持することが、合格への近道だと思います。
■ 財務諸表論 合格にむけて
簿記論と財務諸表論は、ともに大変難しい科目ではありますが、同時に勉強することで、その理解を深めていくことが可能です。
また合格した場合、会計事務所であれば手当がつくなど待遇面でも優遇されますし、企業の経理部でも知識は役に立ちます。企業の顧問税理士とも、より深いやり取りができるようになるため、責任のある仕事を任されてキャリアアップも可能になるでしょう。
この記事がより多くの税理士を目指す方の参考になれば幸いです。
- 執筆者プロフィール
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鯖江 悠平(さばえ ゆうへい)
簿記講師
簿記専門学校卒業後、専門学校の簿記会計講師を担当。
これまで簿記会計の授業だけではなく、テキストや問題集等の教材開発、学生の就職相談や卒業生の転職相談など幅広く業務に携わっている。