■20代で税理士を目指す人が増えている理由
(1)若手のキャリア転換が増加している背景
近年、20代で税理士を目指す若手社会人が増えています。その背景には、働き方やキャリア観の変化があります。終身雇用制度が崩れ、一つの会社に依存しない「専門性を武器にしたキャリア形成」が重視されているのです。
また、AIの発展により業務の自動化が進む一方で、「人間にしかできない専門職」にも注目が集まっています。特に税務や会計の分野は、法律改正や経営判断、クライアントの個別事情などの要素が複雑に絡み合うため、AIだけでは代替できません。単純な仕訳入力や集計作業は自動化されても、「どう節税するか」「どう経営をサポートするか」といった判断業務は人間の領域として残り続けます。こうした点に魅力を感じ、安定性と専門性を求めて税理士への転職を検討する20代が増えているのです。
さらに、リモートワークの普及により、「場所にとらわれない働き方」を実現しやすい職種としても注目されています。税理士資格があれば、将来的に独立開業や地方移住といった選択肢も広がります。
(2)税理士業界の人材不足と若手需要
税理士業界は慢性的な人材不足に悩まされています。日本税理士会連合会のデータによると、税理士の平均年齢は60歳を超えており、高齢化が深刻な問題となっています。多くのベテラン税理士が定年退職を迎える一方で、若手人材の確保が急務となっているのです。
そのため、20代の未経験者でも「ポテンシャル採用」としてチャンスを掴みやすい環境が整いつつあります。特に、基本的な簿記知識を持つ20代であれば、実務経験がなくても採用されるケースが増えています。会計事務所の中には、「未経験OK」「資格取得支援あり」といった条件で積極的に若手を採用するところも多く見られます。
さらに、デジタル化に対応できる若手人材は特に重宝されます。クラウド会計ソフトやオンライン申告システムなど、ITツールの活用が当たり前になった今、デジタルネイティブ世代である20代の感覚は大きな武器になります。
■税理士の仕事とは?転職前に知っておくべき基礎知識
(1)税理士の主な業務内容
税理士の仕事は単なる「申告書作成」だけではありません。主な業務は以下の通りです。
①法人・個人の税務申告代行
企業や個人事業主に代わって、確定申告や法人税申告を行います。正確な申告により、クライアントの税務リスクを最小化します。
②会計帳簿の作成・チェック
日々の取引を正しく記録し、決算書を作成します。経営状況を可視化することで、経営判断の基礎データを提供します。
③節税対策・経営コンサルティング
合法的な節税方法を提案したり、資金繰りのアドバイスを行ったりします。クライアントの利益を最大化するパートナーとしての役割です。
④相続税・贈与税に関する相談
相続が発生した際の税務申告や、生前贈与の提案など、資産承継に関わる業務も重要な分野です。高齢化社会において、このニーズは今後さらに高まります。
⑤経営者への財務アドバイス
経営計画の策定支援や、資金調達のサポート、事業承継のコンサルティングなど、幅広い財務面での支援を行います。
このように、数字を扱うだけでなく、経営のパートナーとして活躍する場面も多くあります。税理士は「経営者の右腕」とも言われる存在なのです。
(2)税理士の働く場所と勤務スタイル
税理士の働き方は主に3種類に分けられます。それぞれに特徴があり、自分のキャリアビジョンに合わせて選択できます。
①会計事務所・税理士法人勤務
中小企業の顧問を複数担当します。幅広い業種のクライアントと関わることで、実務経験を積みやすいのが特徴です。税理士試験の勉強をしながら働く人も多く、実務経験を積みたい20代におすすめです。規模は小規模事務所から大手税理士法人まで様々で、選択肢が豊富にあります。
②企業内税理士
大企業の経理部門や財務部門に所属し、社内の税務業務を担当します。特定の企業に深く関わるため、事業への理解をじっくり深めることができます。福利厚生が充実しており、ワークライフバランスを重視する人、安定志向の人に向いています。
③独立開業
資格取得後に自分の事務所を設立し、自由な働き方を実現する人もいます。顧客獲得から業務遂行まですべて自分で行うため、経営力が求められますが、収入や働き方の自由度は最も高くなります。
(3)税理士のやりがいと厳しさ
税理士の魅力は「数字で経営を支える実感」と「専門家としての信頼」です。クライアントの経営状況を改善したり、大きな節税効果を生み出したりした時の達成感は格別です。また、「先生」と呼ばれ、頼りにされる存在として社会的地位も高い職業です。
一方で、繁忙期(確定申告時期の2月~3月、決算が集中する3月~5月)は業務が集中するなど、ハードワークな一面もあります。深夜残業や休日出勤が続くこともあり、体力的・精神的なタフさが求められます。
また、税法は毎年改正されるため、常に最新の知識をアップデートし続ける必要があります。学び続ける姿勢がなければ、プロとして活躍し続けることは難しいでしょう。
転職前に「やりがい」と「現実」の両面を理解しておくことが大切です。理想と現実のギャップを知った上で挑戦することで、後悔のないキャリア選択ができます。
■20代で税理士に転職するための2つのルート
税理士になるには、大きく分けて2つのルートがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分の状況や適性に合わせて選択しましょう。
(1)税理士試験合格ルート
税理士試験は計5科目合格が必要です。すべての科目に合格し、さらに2年以上の実務経験を積むことで、税理士として登録できます。
このルートでは、まず試験勉強に専念し、合格後に転職活動を行います。大学在学中から勉強を始め、社会人になってから合格を目指す人も多くいます。資格を得てから転職するため、就職時に即戦力として評価されやすいのが特徴です。
すでに5科目合格している場合は、年収面でも好条件で採用されるケースが多く、キャリアのスタートダッシュを切りやすくなります。
(2)実務経験を積みながら資格取得するルート
もう一つのルートは、未経験でも税理士事務所に入り、働きながら勉強を続ける方法です。実際、20代の多くがこのパターンでキャリアを積んでいます。
税理士事務所では、税理士補助や会計スタッフとして働きながら、実務経験を積むことができます。現場で実務を覚えながら資格を取ることで、より実践的なスキルが身につきます。また、収入を得ながら勉強できるため、経済的な負担も軽減されます。
多くの事務所では、資格取得支援制度(受験費用の補助、試験休暇の付与など)を設けているため、働きながらでも勉強しやすい環境が整っています。
(3)メリット・デメリット比較
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転職ルート
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試験合格後の転職
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働きながら資格取得
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メリット
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・転職時の即戦力評価
・高年収スタートが期待できる
・勉強に集中できる
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・実務経験と知識が並行で身につく
・収入を得ながら学習できる
・資格取得支援制度を利用できる
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デメリット
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・収入がない期間が発生
・実務感覚が身につきにくい
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・勉強との両立が難しい
・繁忙期は学習時間確保が困難
・合格まで時間がかかる可能性
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向いている人
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・学習に集中したいタイプ
・経済的余裕がある人
・短期集中型の人
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・実践で学びたいタイプ
・収入を得ながら学びたい人
・長期戦略で考えられる人
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どちらのルートを選ぶかは、
自分の経済状況、学習スタイル、キャリアプランによって決めるべき
です。ただし、実務経験は税理士登録に必須なので、いずれにせよ現場での経験を積む必要があることは覚えておきましょう。
■税理士試験の仕組みと合格までの目安
(1)必要な科目と受験資格
税理士試験は、
会計学2科目(簿記論・財務諸表論)
と、
税法3科目(所得税法、法人税法、消費税法、相続税法など)
から構成されます。税法科目については、所得税法または法人税法のいずれか1科目は必須で、残り2科目は選択制となっています。
受験資格は以下のいずれかを満たす必要があります。
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学識による受験資格:大学で法律学・経済学の単位を1単位以上、または商学・会計学の単位を1単位以上取得
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資格による受験資格:日商簿記1級合格者など
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職歴による受験資格:会計業務を2年以上経験
大学で法律・経済・商学の単位を取得していれば、受験資格を満たすケースが多いです。仮に受験資格がない場合でも、日商簿記1級を取得することで受験資格を得られます。
税理士試験の特徴は、科目合格制を採用していることです。一度合格した科目は生涯有効なので、1年に1科目ずつ合格していくという戦略も可能です。これが社会人にとって挑戦しやすい理由の一つとなっています。
(2)20代のうちに合格するための学習戦略
20代の受験生は、働きながら勉強するケースが一般的です。合格までの平均学習期間は3〜5年と言われていますが、計画的に取り組めば20代のうちに合格することは十分可能です。
おすすめの学習戦略は以下の通りです。
学習時間の確保
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平日は1〜2時間、休日は5〜6時間の学習時間を確保
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通勤時間やお昼休みなどのスキマ時間も活用
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早朝学習や深夜学習など、自分に合った時間帯を見つける
資格スクールの活用
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TAC、大原簿記学校、LECなどの資格スクールで基礎を固める
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通学コースとオンラインコースを組み合わせて効率化
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模擬試験を定期的に受けて実力チェック
科目選択と受験計画
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1年目:簿記論・財務諸表論の会計科目2科目に挑戦
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2〜4年目:税法科目を1〜2科目ずつ合格を目指す「長期戦」戦略
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自分の得意分野や業務内容に合わせて税法科目を選択
■20代未経験でも採用される? 税理士業界の転職市場
(1)会計事務所の採用動向と20代人材の需要
税理士業界は、経験者を優遇しつつも「育成目的」で20代を採用する傾向が強まっています。特に中小規模の会計事務所では、将来の事務所を支える人材として、若手をじっくり育てたいというニーズがあります。
採用条件は事務所によって様々ですが、以下のような傾向が見られます。
未経験でも採用されやすいケース
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日商簿記2級以上を保有している
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税理士試験の科目合格(1科目以上)がある
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経理・会計の実務経験がある
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PCスキル(Excel、会計ソフト)に自信がある
特に、経理・会計ソフトへの理解力がある若手は重宝されます。クラウド会計ソフトの操作経験があれば、即戦力として期待されます。
(2)求められるスキル・適性・ポテンシャル
税理士業界では、以下のような素質が求められます。
①数字に対する正確さと集中力
税務申告は1円単位での正確性が求められます。ミスが許されない業務だけに、細部にまで注意を払える慎重さが必要です。
②顧客とのコミュニケーション能力
クライアントの話を丁寧に聞き、専門用語を分かりやすく説明する力が重要です。経営者の悩みに寄り添い、信頼関係を築くスキルが求められます。
③学び続ける姿勢と法改正への柔軟性
税法は毎年のように改正されます。新しい知識を吸収し続ける好奇心と、変化に対応できる柔軟性が不可欠です。
④論理的思考力と問題解決能力
複雑な税務問題を整理し、最適な解決策を導き出す力が求められます。「なぜこうなるのか」を論理的に説明できることが大切です。
特に「税法や会計への興味」がある20代は成長スピードが早く、キャリアアップもしやすい傾向にあります。「数字が好き」「ルールを理解するのが得意」という人には天職とも言える仕事です。
(3)未経験者が有利になるアピール方法
転職活動では「成長意欲」や「勉強を継続している姿勢」を具体的に伝えることがポイントです。
例えば、「現在簿記2級の勉強をしており、来月受験予定です」「税理士試験の簿記論に挑戦しており、毎日2時間学習しています」「前職で経理業務に携わり、決算書の見方を学びました」など、
行動ベースでアピール
しましょう。「やる気があります」だけでは不十分で、「何をしているか」「何ができるか」を
具体的に示すことが大切
です。
また、面接では以下の質問に対する明確な回答を用意しておきましょう。
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なぜ税理士を目指すのか?
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なぜこの事務所を選んだのか?
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5年後、10年後のキャリアビジョンは?
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繁忙期の残業についてどう考えるか?
志望動機や将来像を明確に語れることで、採用側は「この人は本気だ」と判断します。
■20代の税理士転職で期待できる年収とキャリアパス
(1)20代税理士の平均年収データ
令和6年賃金構造基本統計調査によると、20代で税理士として働く場合、年収は350万円から450万円程度でスタートすることが一般的です。税理士試験の勉強をしながら補助的な業務をこなす人が多い年代であり、これが30代になると税理士登録を済ませて自ら顧客を担当するようになるため、年収は500万円から700万円程度に増えていきます。
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年齢
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所定内給与額
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年間賞与その他特別給与額
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年収
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20~24歳
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273,300円
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83,900円
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3,363,500円
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25~29歳
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308,400円
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827,100円
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4,527,900円
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30~34歳
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299,500円
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941,000円
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4,535,000円
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35~39歳
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439,000円
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2,034,800円
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7,302,800円
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(参考:令和6年賃金構造基本統計調査)
【参照】
e-Stat 政府統計の総合窓口
https://www.e-stat.go.jp/
【参考記事】
税理士の年収はいくら?年収UPを狙うためのヒントとおすすめの転職先は?
https://career.jusnet.co.jp/tax/tax_04_11.php
(2)キャリアアップによる将来的な収入の伸び
税理士は経験を積むほど、顧客対応力やコンサル力が評価され、年収は大きく上昇します。30代で800万〜1000万円、40代で1200万円以上という人も珍しくありません。
将来的には「公認会計士・弁護士との提携」「法人経営支援」「M&Aアドバイザリー」「事業承継コンサルティング」など、幅広いフィールドで活躍可能です。専門性を深めれば深めるほど、市場価値は高まります。
■20代で税理士を目指すメリットとリスク
(1)若いうちに専門スキルを磨ける利点
20代で転職すれば、長期的にスキルを積み上げる時間的余裕があります。30代、40代で転職するよりも、キャリアの選択肢が広く、失敗してもやり直しが効きやすい年代です。
早期に税務の基礎を学ぶことで、30代以降に大きなキャリアの差がつきます。また、若いうちは吸収力が高く、新しい知識やスキルを習得するスピードも速いです。複雑な税法や会計基準も、できるだけ早く学んだ方が理解が定着しやすいでしょう。
(2)安定した需要と長期的なキャリア形成
税理士資格は一生モノの国家資格です。一度取得すれば、更新の必要もなく、生涯にわたって活用できます。景気に左右されにくく、不況下でも需要が安定しているのが大きな魅力です。
また、税理士は年齢を重ねるほど価値が高まる職業です。経験と信頼が積み重なることで、クライアントからの信頼も厚くなります。60代、70代でも現役で活躍している税理士は多く、定年のない働き方が実現できます。
さらに、独立・転職・企業内登用など多彩な選択肢があります。ライフステージの変化に合わせて働き方を選べるのも、大きなメリットです。
(3)試験負担・業界特有の働き方リスク
一方で、税理士試験の難易度は高く、合格までに数年かかるのが一般的です。働きながらの勉強は想像以上に大変で、プライベートの時間を削る覚悟が必要です。
また、繁忙期の残業や休日出勤など、一定のハードさは覚悟が必要です。特に会計事務所勤務の場合、2月〜5月は連日深夜まで働くこともあります。体力的にも精神的にもタフでなければ、続けるのは難しいでしょう。
さらに、クライアントとのコミュニケーションがストレスになることもあります。経営者の中には気難しい人もおり、対応に苦労するケースもあります。
ただし、20代のうちに基礎を固めれば、長期的には安定した働き方を実現できます。最初の数年を乗り越えれば、その後のキャリアは大きく開けていきます。
■20代で税理士に転職した事例紹介
【事例1】一般企業から税理士事務所へ
Hさん(26歳)は、大学時代に簿記2級を取得していたものの、新卒では営業職に就いていました。しかし、「もっと専門性のある仕事をしたい」「長く働けるスキルを身につけたい」と考え、25歳の時に税理士を目指すことを決意。退職後、半年間は税理士試験の勉強に集中し、簿記論に合格しました。
その後、未経験OKの会計事務所に転職。最初は給与も下がり、覚えることも多く大変でしたが、「将来への投資」と考えて頑張りました。入社3年目の現在は年収も450万円に上昇。現在は財務諸表論の合格を目指しながら、充実した日々を送っています。
【事例2】会計士志望から税理士へキャリア転換
Nさん(28歳)は、大学時代に公認会計士を目指していましたが、会計士試験は一括合格が基本で、合格までに3〜5年かかることも珍しくありません。2年間勉強しましたが合格に至らず、「本当に自分がやりたいことは何か」を見つめ直しました。その結果、「中小企業の経営者に寄り添う仕事がしたい」という思いから、税理士を選択。
現在は、大手メーカーの経理部門で働いています。すでに税理士試験の3科目に合格しており、残り2科目の合格を目指しています。年収は550万円で、ワークライフバランスも良好。「自分には企業内での税理士の働き方が合っている」と実感しているそうです。
■まとめ:20代は税理士転職のベストタイミング
20代は柔軟性が高く、新しい知識を吸収しやすい時期です。税理士という専門職は、長期的に安定しながらキャリアを築ける職業であり、将来性は非常に高いと言えます。
AIや景気変動に左右されにくく、自分の努力が収入・信頼・自由度として返ってくる点も大きな魅力です。人間にしかできない専門性を武器に、経営者のパートナーとして長く活躍できる仕事です。
「今からでは遅い」と感じる必要はありません。むしろ20代の今こそ、学びと挑戦を重ねて税理士としての第一歩を踏み出す絶好のタイミングです。未経験からでも、明確な目標と継続的な努力があれば、税理士への道は必ず開けます。まずは簿記の勉強を始める、税理士事務所の求人を調べる、といった小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。
20代の今、動き出すことで、30代、40代の未来が大きく変わります。後悔のないキャリア選択をするために、ぜひ一歩を踏み出してください。
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- 執筆者プロフィール
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ジャスネットキャリア編集部
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編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。