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中小企業庁の無料コンテンツを活用したコンサルティング能力の磨き方
【出口支援編】事業承継・M&A・事業再生の円滑な実現

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2025年12月24日 税理士 吉元常予

目次

■プロローグ:「承継・再生」こそ税理士の責務と高度な専門性

中小企業の深刻な課題と税理士の新たな役割

中小企業では、社長の高齢化と後継者不在問題が深刻化しています。この状況に対し、税理士は単なる相続税・贈与税対策の枠を超え、企業の「事業の存続」や「再生」といった、より高度で社会的な課題の解決者としての役割を果たすことが求められています。

事業承継・M&A、および事業再生は、従来の税務申告業務とは異なり、多岐にわたる高度な専門知識と、経営・財務に対する深いコンサルティング能力が必要です。

これらの難易度の高いテーマに対応するため、国(中小企業庁など)が整備した無料コンテンツを最大限に活用し、支援の質を高めることができます。

■円滑な事業承継・M&A実現のための支援戦略

(1)事業承継支援の全体像と税理士の関与

①    啓発資料の活用による現状把握と動機づけ

経営者が後継者問題について棚上げしていることも多いことから、税理士から積極的な助言を行う必要があります。

【現状把握と問題提起】 まずは「事業承継診断シート」を用いて顧問先の現状を客観的に把握します。

【事業承継診断シート】
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_shindan.pdf
(中小企業庁HPより)

【基礎情報の提供】 『中小企業経営者の為の事業承継対策』や『経営者のための事業承継マニュアル』といった基礎資料を提示し、経営者の早期検討を促します。

【水先案内】 経営者が若返りなく現状維持を続ければイノベーションは起こり得ず、 事業の将来的な衰退を招く という視点から、早期の承継検討の重要性を伝えます。

②支援者向けマニュアルによる全体像の理解

税理士自身が事業承継の全体像を把握するためには、『支援者向け事業承継マニュアル』が有用です。これは、親族内承継、社内承継、第三者承継(M&A)の各プロセスを網羅し、事業譲渡契約書などの様式集も含まれています。

税理士がM&Aを直接支援しない場合でも、全体像の把握と適切な公的機関・専門家への水先案内、および必要な資料提供について知っておくことは、顧問先に対する責務と言えるでしょう。

③事業承継税制への留意

令和8年3月に特例承認計画の提出期限が迫っているため、株価が高くなっている顧問先に対しては、制度利用の有無にかかわらず、特例事業承継税制に関する情報提供を税理士として行うべきです。また、継続要件などの複雑な留意点については、正確な指導が求められます。

(2)M&A支援における国の規範と専門家の役割

① 国の規範に基づく支援

M&A業界も群雄割拠の時代であり、営業DMは確実に顧客にも届いている状況です。私が公的機関で事業承継の相談を受ける際、「顧問の先生に相談しましたか?」と尋ねると、「していない」か「先生は、そういうの分からないと思う」という答えがほとんどです。

これだけM&Aが一般的になった現状で、税理士が「取引相場のない株式の評価」やM&Aに全く関与していないことは考えにくいです。この状況は、顧問税理士が顧客に対し、M&A支援サービスを行っていることの周知不足、または顧客との関係性の希薄化を示すものとも言えます。

支援の公正性と透明性を確保するため、M&A仲介業者を含めた全ての関係者の規範となる『中小企業M&Aガイドライン(第3版)』を税理士も必ず一読し、各ステージでの注意点を把握しておく必要があります。

【M&Aガイドライン】
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
(中小企業庁HPより)

②顧客への助言と事業価値の「見える化」

M&Aには必ず税務が関わります。 税理士は、ガイドラインに基づき、M&Aのプロセス、手数料体系の透明性、および専門家との契約上の留意点について具体的な助言を行うべきです。

特に譲渡側(売手)の支援においては、事業の強みや特色を簡潔に説明できるよう、『事業価値を高める経営レポート作成マニュアル』を活用することも有効です。これにより、非財務情報(知的資産)を整理・言語化し、適正な企業価値評価と価格評価につなげることができます。

(3)M&Aの具体的な税務・論点

①株式譲渡と事業譲渡の税務比較

譲渡スキームごとの税率、手続き、納税義務者など、複雑な税務コンサルティングは、税理士にしか行えない最大の強みです。各種支援書に記載されている税務の取り扱いは一般的な税務の取扱いに終始しているため、専門書による深い知識と、税理士の判断が不可欠です。

②税務・財務デューデリジェンス(DD)の基本

【売手側支援】
事前に簿外債務や偶発債務のリスクを特定し、開示の準備を支援することで、M&A交渉を円滑に進めることができます。

【買手側支援】
DD業務の受注も考えられますが、費用が高額になることが多いため、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠などの補助金活用を提案することが顧客へのメリットにつながります。

③PMI(M&A後の統合プロセス)の支援

M&A成立後の統合プロセス(PMI)においても、税理士は関与可能です。小規模なM&Aであれば、会計システムの統合や初動のコンサルティングに携わることができます。この分野についても、『PMIガイドライン』やYouTube講座が公開されており、PMIにおいても補助金が活用できる場合があります。

■事業再生のフレームワークと公的機関の活用

(1)事業再生支援の基本姿勢と公的機関の活用

資金繰りが厳しくなった顧客には早期の手当が必要です。リスケジュールが必須な場合は、中小企業活性化協議会への申し出が最善策であり、協議会が金融機関との調整(バンクミーティングなど)を主導してくれます。税理士の役割は、公的機関への相談の指南役です。

【協議会との連携】
顧客の同行だけでなく、顧問税理士が単独で相談し、情報を得ることも有効です。

【再生前の対応】
協議会にいく前の段階で、信用保証協会の専門家派遣による財務改善コンサルティングや、補助金対象の早期改善経営計画策定なども有効です。顧問税理士による計画策定も可能ですが、第三者の専門家による「実抜計画」が好まれる傾向があるため、公的機関の専門家派遣を最大限に生かし協業することも検討すべきです。

(2)ガイドラインの理解と税務面からの再生支援

金融機関対策として、「経営者保証ガイドライン」の3要件を理解し、経営者保証の有無と内容を把握しておくことは必須です。再生局面では「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が参考となります。

税務面では、事業再生時の債務整理手続き、特に資本的取引における欠損金の利用制限、役員借入金とDES(デット・エクイティ・スワップ)の関係など、税理士は顧客に対し十分な説明責任を果たす必要があります。

また、再生局面では、過去の粉飾決算が露呈し、賠償訴訟に顧問税理士が巻き込まれるケースも存在するため、細心の注意が必要です。

【経営者保証ガイドライン】
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/
(全銀協HPより)

【事業再生等ガイドライン】
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/sme-guideline/
(全銀協HPより)

■組織全体の「承継・再生」対応力強化

(1)職員の専門性向上とネットワーク構築

①職員への知識共有

「経営改善・事業再生」や「事業承継」への対応は、中堅・ベテラン職員に任せるのが一般的ですが、知識がない事務所は組織的な対応体制を構築すべきです。

【公的機関への誘導経路の共有】
「〇〇の状態の顧客には△△へ誘導する」といった、公的機関への接続ルートを共有します。

【ガイドラインの認識】
事業の出口(承継・再生)には必ず国のガイドラインが存在することを職員に認識させます。

②専門家ネットワークの構築

事業承継や事業再生は、弁護士、中小企業診断士など、複数のプロフェッショナルが関わる分野です。まずは彼らとの「共通言語」を知ることが重要です。

自分の範疇外のテーマでも、さわりや流れを把握した上で、適切な繋ぎ先(機関や専門家)を知っておくことが肝要です。特定の専門家(例:事業再生に強い弁護士)のネットワークが薄い場合は、各公的機関には専門家が在籍しているため、顧客を通してそのパイプを繋ぐことも可能です。

(2)事務所のブランド力強化

「事業の存続」(承継・M&A・再生)を主力とする事務所はまだ少ない状況です。しかし、これらの高度な経営課題を解決する能力を発信することで、顧問先からの信頼を確保し、事務所のブランド力強化に繋げることができます。

■まとめ

(1)結論

国のコンテンツは、税理士の専門性を「出口」の局面で最大化する最強の武器がそろっています。 あまり一般的ではない分野かもしれませんが、「事業承継」相続税も・法人税も・所得税も総合的に関係してくる、税理士としてはとても勉強になる分野だと思っています。

(2)感謝と展望

2回にわたって、国のコンテンツを紹介してまいりました。ちょっとおなか一杯感があるかもしれません。情報の仕入れは税理士の原価でもありますが、無料で使えるコンテンツもこれだけありますので、ぜひ活用なさってください。

顧問先のさらなる発展と、幸せな出口に導いていただき、日本経済が少しでも良くなることを願っています。

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執筆者プロフィール

吉元 常予(よしもとつねよ)
税理士

昭和52年生まれ。兵庫県出身。高校卒業後、イギリス留学や写真の専門学校といった「道草」を経て、税理士の道へ。この異色のキャリアの原点は、若くして直面した「争族問題」と、個人事業主時代の税務の不安でした。「社会(税金)のルールを知ることの大切さ」を痛感し、一念発起。結婚・出産後、芸術大学への編入や大学院での学び直しを経て、2024年に吉元税理士事務所を設立。
現在は、兵庫県内の公的機関に税理士として出務する公的な立場と、自らの顧問先を持つ実務家の両面から、相続や事業承継などの出口支援を専門としています。遠回りした経験と争族を知る者として、数字だけでなく、お客様の感情や人生の歴史に深く寄り添い、「揉めない・後悔しない未来」の実現をサポートしています。

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